クレジット
Epilogue in C minor By Eva Terra
https://worstgirleva.itch.io/epilogue-in-c-minor
エピローグのプロローグ
私の名前は「エピローグ」。世界の命運を左右する最終兵器だ。
さて、もうこの世界のエピローグは始まりかけていて、時間はない。まず状況を説明しておこう。
月が地球に落ちてきている。
もうすぐ月も地球も粉々に砕けてしまうだろう。
よし、状況の説明は終わりだ。
次はこの状況に関係している人物や組織について説明しよう。
まず、ドクター・アレクサンドラ。コケティッシュなプロポーションの女性だ。
彼女は狂っている。理想の世界を生み出すために、最終兵器である私を目覚めさせ、陰謀を繰り広げた。そして、ついには私を月に送り込み、私は装置のスイッチを押した。これにより、月は落下を始めたというわけだ。
次にサンライズ。これは組織名だ。明るく正義感に満ちた若いヒーローたちのグループの名前だ。彼らは地球への侵略を許さない。そんなわけでもちろん、ドクター・アレクサンドラとサンライズの戦いはたっぷり2クールは繰り広げられていた。
次にHARM(Heavily Armed Regiment of Mundos)、これは超国家的に組織された軍隊だ。もちろんドクター・アレクサンドラのような強力な個人による侵略を阻止するのもその役割の一つだが、彼らはずっとサンライズの足を引っ張っていた気がするね。
そして最後に、ムーンフォーク。月の住民だ。月には文明があって、それを私とドクター・アレクサンドラが完全に破壊した。そしてもうすぐ月と地球は衝突して粉々になるという寸法だ。そんなわけで、怒っているようだ。地球に宣戦布告を行っている。
さて、月が地球に落ちていこうとしている。
私は兵器だ。指令を果たしただけ。何か感じるなんてありえない。そのはずなんだが……。
ああ、月が落ちていく。
月が砕けてしまう。
母さん。仲間たち。ミリアム。
すべてなくなってしまう。
私のすべてが。
私に母なんているはずがないのに、ミリアムなんて女は知らないのに。
なぜか気が付いたら、私は腹の底から叫んでいた。
「だめだ!」と。
そして、「邪魔をするな!」と。
私は地球に駆けつけて、サンライズたちのもとに現れた。
「世界を滅ぼしたくない」
そういった私の頬に、一筋の涙が伝っていた。
「そういってくれると信じてたよ」
サンライズの若者は、明るい瞳に私を映して、そう言った。
こうして世界を滅ぼさないために戦い始めた私たちのもとへ、奇妙にちかちか光る金色のドローンが飛んでくる。
ドローンごしの通信は、ムーンフォークの女王ミコトからのものだった。
「エピローグ」
ミコトは突然、私を呼びつけた。これまで感じなかった動揺で、私は目を見開いた。
ドローンの向こうにそれは伝わっているのだろうか。ミコトは淡々と続ける。
「ムーンフォークの皆を助ける方法を考えなさい。うまくいけば、私からも見返りがあると言っておきましょう」
「見返りだって?」
「そう。見返りは、記憶。あなたが、この月に置き忘れていった……ね。」
サンライズの若者たちが心配そうに私を見る。
私は拳を固めて俯き、唸った。
記憶。
そんなもの、欲しいに決まっている。
プレイ方法
「Epilogue in C minor」のプレイには、大アルカナのタロットカード22枚を使用します。
タロットカードをこのように並べて、まず左端をめくります。
各カードにイベントと3つの選択肢が設定されています。主人公であるエピローグの選択に応じて、次にどのカードをめくるかが決まります。
エピローグの選択はこの月と地球の全面戦争に影響を与えます。どちらの勢力が勝利したかに応じて、5つのエンディングが用意されています。
ジャーナル
キャラメイク
いくら最終兵器とはいっても、自分の顔も性別も分らないのでは具合が悪い。
私は人間の少女の姿をしている。現在はアレクサンドラが用意していた学生の制服と眼鏡を着用している。無害に見せる理由なんてもうないはずなんだがな。ただ、これはかなり私に似合っていると思うんだ。
私の名前は「エピローグ」。それ以外にないはずなんだが……
サンライズの連中は、以前私が名乗った偽名で呼んでくることがある。「エイミン」という名前だ。そっちの方が呼びやすいと言っていたが、そうなんだろうか?
出典:picrew/単色ちゃん
1枚目…11/正義
ムーンフォークはその高度な技術力で作り上げた宇宙ステーションを、落ち行く月と地球の間に浮かべた。それは戦時法廷の開幕を意味していたらしい。月のしきたりはわからなかったが、月と地球の間で話し合いが必要なのは誰もがわかったはずだ。
問題は、これが法廷だということさ。
裁かれるのは誰だと思う? 被告人席に立つべき人物は……
①ミコト。
②私。
➂サンライズのリーダー、”シャイニング”ナターシャ。
さあ、わかるね?もちろん「私」さ。罪状は……「月と地球の兵器を破壊したこと」だそうだ。
これもドクター・アレクサンドラの指令でやったことなんだがね。どうせ兵器がいくらあったところで私には勝てないのだから、事態をシンプルにするために兵器を片っ端から壊してやったのさ。
ただ、さすがに兵器の数が多かった、すべてを破壊するわけにはいかなかったみたいだ。月にも地球にも、兵器はちょっとだけ残っている。
地球人もムーンフォークも、この兵器で私をどうにかできるつもりでいるのかい?
そもそも、この法廷に何の意味がある?
私を破壊できるものなんて、一人もいないのに。
私は薄笑いで沈黙し、裁判官に冷たい一瞥をくれた。
その怯えが宇宙ステーション中に伝播すると、もはやこの法廷に意味がないことはだれもが理解したようだ。
「グリーン・ティを一杯いただこうか。砂糖とミルクを入れて」
足を投げ出して組み、投げやりに言った。
「それを飲み終えたら、帰るよ。我々は今、忙しいんでね」
ああ、こんなところで力を誇示して何になるんだ。
私はなんでも壊せるけど、何も助けられないのに。
2枚目…18/月
グリーンティを飲み終えて立ち上がり、法廷を去ろうとした私を、見知った姿が遮った。
サンライズのリーダー、”シャイニング”ナターシャ。きらびやかなヒーロースーツを愛用している目立ちたがりで陽気な彼女が、今日はダークスーツを着込んでひどくこわばった顔で立ちはだかっている。
ナターシャは私を見据えて、首を振った。
「エイミン。法廷に戻って」
「裁かれるのは好きじゃないよ」
「裁かれるのは、あなたじゃない。もっと大事な話を、私たちは聞かなければならないの」
私はナターシャの後ろを覗き込んだ。
長身の彼女に隠れるように、背の曲がった老人が一人、光のない眼を泳がせて俯いている。
「そいつが何を知ってるって言うんだい?」
「きっと、すべてを」
そう言われては強行突破するわけにもいかない。わたしはすごすご戻ってきて、椅子を一つ用意させた。さっきまで私が座っていた被告の席に、老人がのっそりと座らされる。
「私の名前は、クリス・シャッターフィールド」
しわがれた声が、ゆっくりと名乗った。
「地球を守るために、長年働いてきました」
クリス・シャッターフィールドは、確かにすべてを語った。
かつて彼が身を置いていた地球の機関が立てていた計画、そのすべてについてだ。
地球はムーンフォークの存在を知り、来るべき月・地球間戦争を危惧していた。
ムーンフォークの技術は地球よりはるかに秀でている。戦争となれば勝ち目はない。その場合、地球は何世紀にもわたっての屈辱的な服従を強いられることになる。
力なき者の苦肉の策。それはとても迂遠な計画になった――
地球の機関は月が複数有する「力をもたらす」アーティファクトを1つずつ盗んでいった。時間をかけて防衛力が落ちていった基地に工作員を送り込んで、ついには月の城に秘められていた最終兵器――「エピローグ」を宇宙空間に遺棄した。そして、最終兵器を開発した研究者すべてを一人残らず殺害し、離脱した。
老人は、ひそやかな力を込めてゆるぎなく語る。
「すべては、奴らが我々を滅ぼす前に、我々がやつらを滅ぼすためだ」
クリスは地球の戦力が勝った機会を見計らって、たびたび戦争を誘発するための煽動工作を行っていたようだ。それは、彼の人生全てを賭けた仕事だった。
「……」
しばらくは、誰もしゃべらなかった。
私は呆然と立ち尽くしていた。
私は、月の兵器だったのだ! それなら、月の連中が私の記憶を握っているのも合点がいくというものだ。だが、この記憶は? ただの兵器である私が、なぜこんなにも温かな記憶を持っているのだろう?
虐殺された研究者たちは……私にとって、どんな人物だったんだろう?
もう、会えないの? そんなことがある?
「エイミン……」
ナターシャが気づかわしそうに私を呼ぶ。私は無言で立ち上がり、クリスに近づいた。
「エピローグの存在を、お前は知っていたんだね。なのになぜ、破壊しなかったんだい?」
「破壊できなかったからだ……どのような手段を使っても」
クリスはぼんやりと答える。目の前にいる私が何者であるか、気づいていないのだろうか?
「エピローグがどのような存在であるか、考えたことはなかった? それが人のように笑い、泣き、楽しみ、悲しんで……家族のことを思い出して、涙が止まらなくなることもある。そんなことについて」
「ない。エピローグは、月の兵器だ。そして、月の民はすべて殺されるべきだ」
ひっ、と誰かが息を呑む音が耳に届いた。
私はしばらく立ち尽くしてから、きょとんと瞬きをして、真っ赤に濡れた右手を見下ろした。
私の手で頭部を砕き散らされた老人の体が、椅子の上からずるりと滑って倒れた。
法廷中が騒然となる。私は汚れた手を老人の衣服で拭いて、背を向けた。
ナターシャが立ち尽くしている。その瞳が、涙で潤んでいた。
「なんで、君が泣くんだ」
ナターシャは何も言わず、ただかぶりを振った。
3枚目…17/星
世界は滅ぼうとしているのに、夕陽はこんなにも美しい。
私は地球に戻り、とある高山に設けられた秘密研究所の屋上から沈みゆく夕陽を見ていた。
空を飛んできた少年が、私の隣に降り立った。
「エイミンがサンライズの秘密研究所に来たっていうから、博士たちが慌てふためいてたよ」
「その呼び方、やめられないのかね?」
私は薄く笑って、隣に立つ少年を見る。
彼の名前は”グラビティ”ロウアー。重力を操る能力を持つ、サンライズのヒーローだ。
かつて私が人間の少女エイミンを名乗って遂行していた潜入工作では、非常に近しい仲にまでなりつつあったが……すべては欺瞞。過ぎ去った話だった。
私は彼を騙していたわけだが、彼にはそういったことについての屈託はないようだ。きらきら輝く瞳で空を仰ぎ、沈みゆく夕陽を見つめている。
「綺麗な夕陽だね。これを見に来たんだ」
「君たちをからかいに来ただけさ」
「そうだとしても、君と一緒に見る夕陽は特別だよ」
まったく。私は口ごもり、嘆息した。
サンライズの連中は、こういうところが嫌いなんだ。なのに、目が離せない。歯がゆい子供たち。
4枚目…19/太陽
「実のところは、乾杯をしていたのさ」
私は皮肉を込めてほほ笑み、手に握ったグラスを”グラビティ”に見せた。
グラビティは不思議そうに首を傾げ、手すりに置かれたオレンジジュースのボトルと私を見比べる。
「乾杯? 一人で?」
「一人じゃないさ……もはや私しか覚えていない彼女のために」
ミリアム。私の可愛い妹。
最終兵器「エピローグ」でしかない私を慕ってくれた少女。
その愛らしいまなざしとひたむきな心しか、もう覚えていない。
全ては失われてしまった。永遠に。もう、始まることはない。
「エイミン、今の君は悲しそうだよ」
「そう見えるかい? グラスを取りたまえ」
私は上の空で夕陽を眺めたまま、”グラビティ”の空のグラスに私の飲みかけのグラスをチン、と当てた。
5枚目..20/審判
夢を見ていた。最終兵器である私が要する休息はほんのコンマ秒。その間に、長い夢を見た。
どこまでも広がる花畑。青い花の一つ一つがその花弁に光を宿している。そして、少女の足に蹴立てられるとその光がぱっと散る。
青い花に埋め尽くされた丘の上から少女が走ってくる。とび色の髪を弾ませて、大きな瞳をきらきらさせて。そして、私にぶつかるように抱き着いてくる。
私は驚きの声を上げて転がり、少女と取っ組み合いになる。柔らかな地面の上で転がって、二人で大声で笑う。
間違いない。これはミリアム。私の妹。彼女と過ごした、かけがえのない時間。
ふとミリアムの動きが止まり、私の目をじっと見つめているのに気づく。
「姉さん」
ミリアムの声は、優しかった。
「姉さんは、間違ってなんかない。いつだって。姉さんが決めた、っていうことが、一番大事なことだから」
それは、どういう意味なのか……
それは、本当にミリアムが言った言葉なのか。
私は戸惑った。言葉が出てこなくて、あ、とつぶやいただけだった。
夢が途切れる。目を開ける。
地球の朝が訪れる。私は最終兵器「エビローグ」。破滅を回避できる唯一の存在だ。
6枚目…2/女教皇
私はサンライズと共に空へ飛び立ち、地球に墜落する大きな月の破片や建築物の残骸を破壊することにした。それらは高熱と加速度を伴って地上に着弾し、建築物や自然環境を大きく破壊していくのだ。
サンライズのヒーローたちにとっては危険な任務だが、私にとってはごくたやすい作業にすぎない。私は馬鹿正直に着弾点をひとつひとつ導き出している超頭脳ヒーロー”ノイマン”の声が通信機を通して届くより先に飛んで、その流星へ一撃を加えている。
私に肩を並べて飛んできた”グラビティ”が、その重力操作能力で細かい破片を空中で捕らえて減速させながら、私に話しかけてきた。
「なあ、エイミン」
「今はその名前で呼ばないでほしいがね……何?」
「君が見てきたものを知りたい。君をドクター・アレクサンドラが目覚めさせた時、君は最初に何を見たんだい?」
「……」
私は口を閉じ、馬鹿正直に考え込んでから言った。
「ドクター・アレクサンドラが最初に見えたよ」
『……それはそうだろうけど」
何が聞きたかったんだろう、この男は?
私は首をかしげて、続けた。
「彼女は私に命令した。私はその通りに動いたのさ」
「でも、今の君はそうじゃない。その違いは、なんだと思う?」
巨大な月の破片が迫る。私は手をかざし、それを大気圏の外で砕き散らした。
花火が上がったかのように、無数の光が地上に降り注ぐ。
その光を背に、私は薄笑いをした。
「何も変わってないかもしれない。そうは思わないのか?」
“グラビティ”は私を見上げていた。その口元に、笑みはなかった。
彼はようやく気付いたのだ。
最終兵器「エピローグ」……
それは、破滅の後の社会に君臨する、地上最悪のヴィランとなりうることに。
エンディング…True Self Loyalist
私は誤らない。
私はエピローグ。
私が決めたことにこそ、意味がある。いつだって、そうだ。
ミリアムがそういったのだから、間違ってるわけないじゃないか。
「エピローグ様! ムーンフォークとサンライズの共同戦線が張られつつありますわ!」
ドクター・アレクサンドラが、私の前に膝をついて頭を垂れ、恭しく進言してくる。
異なる存在は常に衝突する。エイリアン映画が戦いを描いた物語でありつづけたのは自然の摂理。月と地球も、互いの存在が明らかになった段階で全面戦争は秒読みだった。月の落下は、すべてをうやむやにして突き進んだイレギュラーでしかない。
イレギュラーはもはや解決された。私は月の落下を止め、代わりに宣言したのだ。
「私は月と地球の完全破壊を目論むヴィラン、『エピローグ』。
脆弱な世界を守り続けて死ぬか、私に膝を屈して従うか、どちらかを選ぶがいい」
ドクター・アレクサンドラはすぐに私に服従した。彼女の技術や知識は確かに私にとっても有用だった。
他にも数々のヴィランが私のもとへ集まってくる。そして、ムーンフォークたちから生まれたヒーローたちがサンライズに合流しつつある。
月と地球の戦争は停止している。もはや世界の構図は書き換わってしまった。『エピローグ』と、それに対抗するすべてのものに。
「世界を滅ぼしたくないから、世界を滅ぼす」
それが私の決断だった。
私はオレンジジュースを一口飲んで、呟いた。
「君たちを、愛しているよ。信じてくれなくても、ずっとね」
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