殺し屋は、人と会うのを好まない。Alone on the Hitman Red Eyeプレイログ

ソAlone on the Hitman Red Eye プレイログ

このプレイログについて

Alone on the Hitman Red Eye(日本語版)は、「仕事」のために深夜の列車に乗り込んだ殺し屋が出会った人々について綴っていくソロジャーナルです。

このプレイログは以前ふせったーに掲載したものです。
私にとっては初めてのソロジャーナルで、とても鮮烈な体験でした。

ジャーナル

【導入】

私は夜行高速列車に一人で乗っている。
客はまばらで、外に流れる景色は暗い。
私のこれからの行動は、非常に明確に決まっている。大都市の駅で私は降りる。そして、ある男を一人殺すのだ。

【WAVE 1】

カード:ハートの10
いたって普通の服装で、まるで通勤・通学中の人間のようだ/天才技術者。おそらくパンチは打てない

背の低い、黒髪の女が一人乗ってきた。まるで通勤中のような、モノトーンカラーの地味なファッションだ。
私は彼女を知っている。彼女は天才技術者テンダーハート博士だ。彼女が目覚ましい技術を発明するたび、マスメディアはこぞって彼女を追いかける。彼女はいつも迷惑そうな顔をして、「仕様書に書いてありますから」と言う。
彼女はアタッシュケースを持っていた。私は彼女が明日また新たな発表をするらしいと取り沙汰されていたことを思い出した。そのありふれた鞄の中には、まだ人類が触れたことのない新たな叡智が眠っているのだろうか。
向かいの席に腰を下ろした彼女へ、私は明るい声音で話しかけた。
「テンダーハート博士ですか?明日また新しい発明の発表があるとか、とても楽しみにしています。もしよかったら、サインをいただけませんか?」
女の陰気な眼が、迷惑そうに私を見た。

ダイスロール:1
彼らはあなたのために来たのではない。しかし最終的に、この仕事に対して 特に差し障るようなことはしない、または良い方に作用してくれることだろう。

「サインくらいしたっていいけど、紙ナプキンの裏はごめんですよ」
愚痴っぽい声音で、天才技術者は言った。私は和やかに笑って、胸ポケットに挿した手帳を取り出し後ろのページを開いて渡した。
「私のしていることなんて、半分も理解していないくせに。こんなサインに意味があるとは思えない」
「そうかもしれませんが。あなたがより便利により良くした世界で生きることに、意味があると思っているんですよ」
「……」
ふてくされた空気の中で滑るテンダーハート博士のペン先が、自分の名前の綴りの中に小さなハートを二つ入れた。

【WAVE 2】

カード:ダイヤのJ
こざっぱりとしており、きちんとしたビジネススーツを着ている。どう考えても観光客に間違われることはない。/歳を重ねたプロフェッショナル。 あなたより年齢が上で、確かな技術を持っている。

テンダーハート博士は細腕に余るアタッシュケースに振り回されてよたよたとしながら、夜行列車を降りていった。
天才技術者のサインを書いてもらった手帳を胸ポケットに戻して、私は座席にあらためて身を預け、意識的にゆっくりと脱力した。
一仕事の前に無駄に張り詰めるのは良くないことだ。体力を温存しなければ。
ゆるゆると落としていく瞼はしかし、途中ではっと見開かれる。
私はまず、自分の首を押さえた。頸動脈が健全な脈で跳ねている。驚くべきことに、そこはまだ繋がっていた——
私の席の傍には、いつの間にか一人の女が立っている。
仕立ての良いビジネススーツに身を固め、焦茶の髪をシニヨンにした、いかにもやり手といった風貌の女。30にはなっていないだろうが、私を値踏みするその眼差しには底知れない老獪さが垣間見えた。
(今の殺気……)
隠す気もないのか?
この女は同業者のようだ。それも、私のような下っ端の荒事屋なんかとは比べ物にならないプロフェッショナルだ!
「……」
女は私から視線を外し、少し離れた席へと無防備に近づいていく。
同業者どうしが偶然すれ違っただけ?この無人の車両で?
馬鹿げている。アホ面でこのまま座っていたら、仕事を始めることもできないまま私は死ぬ。間違いなく、死ぬ。
私は席を立ち、女に飛びかかった。

ダイスロール:3
ああ、彼らは確かにあなたのためにここにいる。しかし彼らはあなたを止めないだろう。彼らは止めることができない…

私の行動なんて、完全に予測していたに違いない。女は即座に手にしていた革鞄を床に落とし、俊敏に反応した。
私が伸ばした手を鋭角に払い退け、懐に入り込むだけのスペースを瞬時に確保する。空いた手はよく見れば人差し指の爪が付け爪で、その裏側には液体を湛えた細い注射針がキラリと光って見えた。
目元を狙って突き出されたその貫手を首を逸らしてすんでで避け、私はさらに一歩踏み込む。払い退けられた手には信じられないほど重い衝撃が残って痺れていたが、手首にくくりつけていた細身のナイフを滑り落とすことには成功した。
なんとか手にしたそれを腰だめに構え、突撃、というよりはもつれ込むようにして女にぶつかる——
「ひぎゅっ」
濁った声が耳朶を打った。女の体が強張って震えて、開いた喉を空気の塊がこじ開けてかはっ、と音を立てた。

ビジネススーツを着込んだシニヨンの女が、私の隣に座っている。
ボックス席の窓際で、細い首をたわめて項垂れ、腹を隠すように鞄を抱え込んで。
「大丈夫ですか?もー、飲み過ぎですよ」
私は明るく話しかけながら、イタリア製ブランドのそのスーツでナイフを念入りに拭った。

【WAVE 3】

カード:ダイヤの4
こざっぱりとしており、きちんとしたビジネススーツを着ている。どう考えても観光客に間違われることはない。/列車に乗りに来ただけ。 正直、直接の脅威ではない。

ターゲットはこっちの動きに気づいているのだろうか。私を消しに来るのは予想の範疇だが、こう綱渡りのようなことがたびたび起こるとすれば今夜のうちに仕事を終えられるかすらわからない。
スーツ姿の男が乗り込んできた。席を探してうろうろしている。もっともこの車両は指定席というわけでもない、しばらくしたら離れた場所に座るだろう。
私は一旦思案をやめ、その背の高い男を見るともなしに見上げた。どことなく神経質そうな風貌だ。頬骨の目立つ青白い細面に、ボストンタイプの眼鏡。
その眼鏡の奥の灰色の澱んだような眼が、視線に気づいたように私を見下ろした。
慌てるようなことじゃない。作り笑いを一瞬だけ貼り付けて目配せで挨拶をする。男は困ったように立ち尽くし、しばらくおたおたと動揺を見せてからずり落ち掛けた眼鏡を押し上げた。
「あ、あの、あなたは……」
「? はい、なんでしょう」
死体が隣にいるこの状況で、見知らぬ男に話しかけられるというのは神経を削る。たとえそれが見るからにズブの素人であってもだ。
「ええと……」
男はうつむいたり、天井を仰いだり、視線を彷徨わせたりと、十字キーの入力で出来そうなことを大体やってから更に間を持たせてようやく私を真っ直ぐに見た。
「その、お付き合いをしている方などは……いらっしゃいますか?」
「は?」
「い、いえ、その!まずは私のことから話すべきだ、そうですね?私はヨーン・アルマース、キャトル基礎工業株式会社で経理の仕事を……」
こんな状況でロマンスを芽生えさせるなんてとんだ迷惑だ。私は人を殺したばかりだし、更に言えばこれから人を殺しにいかなければならないのに。
私は曖昧な笑みを浮かべ、このボンクラを煙に巻くことにした。

ダイスロール:6
彼らはあなたを見つけてしまった。あなたにとって都合が悪い。 彼らは仕事を台無しにするのだ。でもどうやって?

いくらやんわりかわそうとしても、ヨーン・アルマースと名乗ったその男はしつこく食い下がってくる。
「困ります」
私はいつの間にか、殺し屋の死体から身体を離してヨーンの方へ乗り出していた。本当に迷惑で面倒だと思っている、その表情をはっきり見せてやるために。
「どうか、そうおっしゃらず」
ヨーンという男は、こんな夜中に見知らぬ女に懇願することを、屈辱とは思わない人間らしい。それはとても稀有だよと、私は思った。
「出会ったことも、言葉を交わしたことも、縁ではないですか」
「私はそう思いません!」
怒り顔で言い捨てた、その時だった。

「そうねえ、縁なんかじゃない」

暗く濁った女の声が、隣から聞こえた。
振り向く間なんてあるはずもない。
脇腹に硬いものが当たって、当然のようにまっすぐ突き込まれてくる。皮を破り、筋肉を破壊し、筋膜を引き破って、私の中へ、中へ——
致命傷だった。それはもう、間違いなく。
ぽかんと呆けて立ち尽くしたままのヨーンの額に、煌めくものが真っ直ぐに飛んでいって突き立った。額に深々とナイフを突き刺され、眼鏡の下の目をカメレオンのように両脇に向けて巡らせて、ヨーンの長身はどさりと倒れた。
私は声を出そうとした。
悲鳴かも知れないし、怒声かもしれないし、ひょっとしたら謝罪かもしれなかった。
もっとシンプルに、なぜ、とも、叫んだかもしれなかったが——
喉から溢れた血にふさがれて、言葉になる音は出てこなかった。
血塗れのナイフを私の脇腹から無造作に抜いて、シニヨンの殺し屋が席から立ち上がる。私に刺された腹はやはり痛むようで少しよろけたが、すぐに持ち直した。最初から、その程度の傷だったようだ。
女は私の身体を床に蹴り落とし、ヨーンの死体を跨いで、ヒールをカツカツと鳴らし車両の端へと歩いていく。
車両のメッセージモニタに表示されたデジタル時計が音もなく1分進み、日付が変わった。
テンダーハート博士の発表は、今日の午前10時だったか。
その頃には私の死体は、モルグの引き出しに香辛料みたいに収められているのだろうか。
薄れゆく視界の向こうで、シニヨンの女が振り向いて笑う。

「運命よ」

女はきっと、そう言っていた。

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