侍の生は、ひとつの詩。『SEPPUKU: Fury of the Samurai』をプレイしました

プレイログ

このゲームについて

SEPPUKU: Fury of the Samurai』は、動乱の時代を生きた侍の人生を追体験しながら辞世の句を完成させていき、最後に切腹するゲームです。それは侍の人生を終わらせる死の儀式に焦点を置いたものになっています。

ジャーナル

私の名はイチロウ。

動乱の時代を生き、そして今まさに死を賜らんとしている一人の侍である。

白無地の小袖を肌脱ぎし、北に向かって座し、九寸五分の短刀で己が腹を押し撫でる。

介錯人が八双に構える刀の光と影が、私の眉骨に落ちる。逆光の中に立ち、介錯人の顔は判然とせぬままだ。

私は目を閉じ、思い出していた。

わが生涯を、この切腹に至るまでの波乱に満ちた生を。

戦の巻

戦の世に生まれ、それを疑問に思ったことはなかった。
田畑を焼かれれば、百姓ですら槍を手にする。弓馬取る家の子と生まれ、守るべきものを背負い、戦を疎んじることなどできようはずもない。
小国の領主の子として、元服を待たず父を助け、出来ることは何でもやった。
武術百般の稽古に留まらず、知略、謀略、ときには身内をも切り捨てる非情にも手を染めた。
それはすべて、尊敬する父の教えと導きのままに行ってきたことだが――

「イチロウよ」

父の疲れたような笑みを覚えている。季節は春、雲雀のなんと高く飛んでいたことか。

「おぬしは、悪党よな」

忍び笑い。耳から離れない。

「悪党が、よう似合うておる。このわしよりも、ずっと」

皮肉に細められた父の、乾いた瞳。
口元を隠す扇を、その武骨な手がすらりと閉じたとき――
父はもう、微笑みすら浮かべてはいなかった。

あれは、父の別れの言葉だったのだ。
その日を最後に、父は衰えていき、冬の到来を待たずに死んだ。

獲得した辞世の句:The fan is closed, now.

fury dice:1

愛の巻

ああ、やはり思い出してしまうのか。

キク。私の愛。私の妻。私の穏やかで美しい時間のすべて。

彼女との縁は、やはりまつりごとに関わるものだった。近隣の守護大名から、娘をくれるとの申し出。恐らくは近年勢力を伸ばしつつあるとある大名と戦うにあたり、背後を突かれることを避けたいとの思惑があったのだろう。
実際に、そうする予定はあった。だが、両勢力をぶつけて疲弊を待ってからでも遅くはあるまい。私は婚姻を引き受けた。
家のためにならぬことなど一つもせぬ男。周囲からはそう評されて久しかった。実に私らしい縁だったのだ。

キクは武家の娘らしからぬ、おっとりと優しい女だった。
まつりごとに口を出してくる様子もなく、まさしくお飾りの姫だと感じた。いくらかの軽侮が、私の中にはあった。

だが、共に過ごすうちに、人が生きることに必要なものは何か、考え直すようになっていった。
健やかに目覚め、笑顔で過ごし、感謝に満ちていて、そして周りにいる者を誰一人おろそかにしない。
最初は守護の姫というだけで遠巻きにしていた人々が、キクと親しく話すようになった。キクの暮らすこの国のために戦えることが幸せだといった侍もいた。

奇妙な女だと思いながら、私も惹かれていった。
私はさながら、彼女のファンの一人だった――彼女が微笑みかけると、どうしても驚いて息を呑み、顔が熱くなっていく。
キクは私のそんな様子を眺めて、時には少し悲しそうに、「驚かせてしまいましたね」と言った。

そんなことはない、むしろこんなにも安らかな時など生まれて初めてだったのだ。

獲得した辞世の句:My wife キク

fury dice:1

影の巻

戦乱は国土全体を巻き込み、呑み込み、そして均していくように思えた。
守護大名の敗北をきっかけに私の国は大勢に呑み込まれ、これまでの領土は「大殿に賜る」という形で統治を続けることが許される身の上となった。

そんな中、私の城はある男を受け入れることになった。
男の名はタクヤ、大殿の寵臣である。
その目は卑しく、謀るようで、口元には若さに似合わない卑屈な笑みが滲んでいた。

「大殿は忠義をお望みだ」

暗い笑みで、タクヤは言う。

「そして、おぬしの忠義を伝えるのは手前というわけよ」
「心得ております」

額を畳に沈めんばかりに頭を下げれは、私の凍えるような眼差しも見えまい。
求めているのは金か、女か、阿諛追従か。
どれにしても、そこそこに与えて満足させてやればいい。

贅に飽かしていたタクヤが満足するような接待は、この小国では難しい。
タクヤも最初からそのことは知っていたようで、求めているのはそれ以外のものだった。武士の子を鍛錬にかこつけて顔の骨が折れるほど殴りつけ、町の娘を攫って好き勝手に弄び、武家の妻を侍らせ宴を楽しむ。
すがすがしいほどの下衆。
タクヤをそう評した私を、キクは黙って見つめていた。

もちろん、いつまでもそんなことを通しておくわけにもいかない。

「今宵より大殿のお迎えの準備をせねばならぬゆえ」

最初はその一言で、タクヤは身を慎むようになった。どうやら大殿もタクヤの乱行を見過ごすわけではないようだ。最初ははったりだったそれも、どんどん真実味を帯びていく。私は知略を尽くして大殿に接近し、大殿も私をなかなか気に入ったようだった。

「おれとて、何も阿呆が好きなわけではないわ!」

私がさりげなく腹を探ると、大殿はそう言って豪快に笑った。

獲得した辞世の句:The frog is croaking in the darkness.

fury dice:2

死の巻

それは誤りだった。
そして、必然だった。

「イチロウよ、貴様を捕えねばならぬのう」

軍勢を率いて城を訪れたタクヤは、物々しい兵らのこわばった表情をよそにへらへらと笑った。

「いかに古来よりこの地を治めし領主といえど、此度の乱行、まこと目に余るわ」
「己の行いに対しては閉じたままだというのにか。便利な目をお持ちのようですな」

微笑んで答えた私の頬を、タクヤの分厚い手が力強くはたいた。

「我が息子を殺したは、貴様の配下の槍ぞ!」

私は痛む頬に触れもせず、押し黙っていた。

タクヤの息子は、父親に似て横柄で図太い、悪たれの子供だった。だが、それだけでは殺される理由にはならない。
悪餓鬼は私の居城に夜中に忍び込み、宿直の兵を驚かせようとしていたのだ、場所によってはただの笑い話で済む行動だったが、忍んだ場所が我が妻、キクの寝所だったのがよくなかった。騒ぎを聞きつけた兵が誰何の声を投げつけ、傲然と沈黙を返す影に痺れを切らして槍を突き刺したというわけだ。

キクは物音に気付き、そっと鈴を鳴らして兵を呼んだ。寝所で眠る小さな我が子を守るために、身構えて、精いっぱい闇を睨みつけて。
兵は即時に駆けつけ、キクと子を守るために最善の判断をした。
誰も悪くない。
糞餓鬼と、その躾もしなかった馬鹿親以外、誰も。

「否、わが槍よ」

私は肩をそびやかせ、はっきりと告げた。

「タクヤ殿の息子を殺したは、私の槍にほかならぬ。他の者は何一人関わってはおらぬ!」
「……く、ククク。それが、きさまの出した結論というわけか」

タクヤの忍び笑い。兵らが私の腕を掴むが、逃げる気配がないのに気づいてすぐに手を離した。

「イチロウどの、こちらへ」
「道中は我らがお守りいたします」

表面上だけでも、この程度の礼は尽くすものだ。いらいらと怒鳴り急き立てるタクヤをよそに、私は悠然と歩き出した。

fury dice:2

切の巻

太陽を雲が遮り、見えなかった介錯人の顔が定かになる。

それは懐かしく、そして今は悲しみに満ちた顔だった。苦楽を共にしてきた乳兄弟のヒビキが、私の介錯人として定められたのだ。
名誉なことと言葉で言っても、別離の悲しみがその震える唇からあふれそうだ。思わず私が苦笑いしてしまいそうになるが、場にそぐわぬことと堪えた。

私は今、大殿の前で、切腹の次第を整えている。

獲得した辞世の句:And Spring follows Winter.

「イチロウよ」

大殿は静かに告げる。

「辞世の句を詠むがよい」

私はゆっくりと、この生を象徴する句を詠み始める。

檜扇閉じて
菊花いとし
蛙声暗くも
春遠からじ

父よ、私は悪党にはなれなかった。
鋭い痛みが腹部を貫く。意志の力で刃が突き立ち、進む。
そして、天の光を跳ね返す清らかな白刃が打ち下ろされる。私の首を断ち、逆さ屏風に血潮を散らし、その輝きを紅の下に覆い隠す。

大殿がゆっくりと目を閉じるのを、死にゆく私の視界が収めた。

「これほどの事態になったなら、タクヤにも始末をつけさせねばならぬな」

苦渋に満ちた声は、しかし誠実だった。
それはきっと、私に誓った言葉だったのだ。

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