侍の死は、ひとつの歌。『SEPPUKU: Fury of the Samurai』をプレイしました

プレイログ

このゲームについて

SEPPUKU: Fury of the Samurai』は、動乱の時代を生きた侍の人生を追体験しながら辞世の句を完成させていき、最後に切腹するゲームです。それは侍の人生を終わらせる死の儀式に焦点を置いたものになっています。

ジャーナル

腹が減っていた。
これから切る腹から見苦しく流れ出してはならぬからと、ずっと水以外のものを口にしていない。

「最後に白飯の一つも喰わせてはくれんのか」

刀を振り上げる介錯人を見上げて尋ねてみるが、逆光で顔が見えないその男は何も答えない。
おれは肩をすくめて片肌を脱ぎ、短刀の先で自分の腹を撫でた。

おれの名はシロウ。
いままさに切腹しようとしている侍だ。

おれは思い出す。
この刑場に至るまでの、これまでの道。
おれの人生そのものを。

戦の巻

強き主君に仕える強き侍。それだけがおれの身上だった。
戦に出れば多くの敵を狩り、あるいは配下に狩らせ、いかなる堅牢な城も執念で落とした。

「あれなる城」

おれの傍らに立つ腹心、コハクが憂えた眼差しを伏せた。

「城下の民が逃げ込み、かくまわれているとか」
「ならばこそ良きころあいよ」

おれは淡々と言う。

「逃げ込んだ民の数だけ、飢えも早くなろう。攻め手を緩めるでないぞ」
「シロウさま……」

腹心が、呟くように言う。

「シロウさまは、げに恐ろしき人よ」

誰もがそう思うに違いない。
恐れられ、疎まれる、悪鬼羅刹の名として語られる、わが名。
それでもいい、とおれは思った。

獲得した辞世の句:The blade is sheated, now.
fury dice:1

愛の巻

血しぶきと怨嗟に彩られたおれの生にも、穏やかな時間はあった。
それは、腹心コハクと共に過ごす時間だ。戦が終わったあと、コハクは賢き参謀の顔から優しい恋人の顔になる。そして、つかの間の逢瀬を楽しむのだ。

「戦が終わるときは来るのでしょうか」

おれの腕の中にうなだれて、呟くようにコハクが言う。

「戦が終われば、侍はどうなるのだ」

おれは甘やかな心地にもなれず、暗い声音で聞き返す。

「侍でなくなっても、シロウさまはシロウさまでありましょう」
「違う」

冷たく言い切る。

「侍でなくなれば、おれにもおまえにも値はないのだ」

おれは確かに、コハクを愛していた。
だが、おれは愛など知っているのだろうか。知るときなどあるのだろうか。

獲得した辞世の句:My lover コハク.
fury dice:2

影の巻

おれの烈日のごとき侍の生を翳らせる雲が、頭上を覆うことになる。
その男は、まるでおれの影法師。
名前を、ノリといった。

ノリは小役人然とした、青白い痩せ型の男だった。
腰に吊った刀は、美しい柄巻きの糸が全く摩耗していない。

「世は変わり、戦も変わり申す」

耳障りな、ひよひよと頼りなく甲高い声で、ノリは言った。

「戦乱の風を未だ我らが城に吹き込むならば、不逞の士と切り捨てねばなりませぬ」

「つまらぬ戯れだ」

おれはせせら笑い、背を向けた――
だが、それはあらゆる意味で、何の戯れでもなかった。

おれはじわじわと手勢を奪われ、何かと理由をつけて扶持を減らされていった。それと共に我々の大殿は戦を慎重に避けるようになり、外交に秀でたものを取り立てるようになった。
家中の者は我が家に射す斜陽を悟り、次第に遠ざかっていった。コハクは忠実におれの傍らに侍っていたが、この環境の変化に不安さを隠せないようだった。

もちろん、黙って見ているつもりはなかった。
あのノリめがこの不遇の原因ならば、排除してしまえば済む話。

何かと忙しないらしく城の廊下を早足で進むノリの前に躍り出て、おれは刀の柄に手を置いた。
長身のおれの影の中に、ノリはすっぽりと隠れた。

「影でチョロチョロと駆け回りおって、小ネズミめが」

俺は冷たく吐き捨てて、射殺さんばかりの眼差しをノリの喉笛に突き立てた。

「侍ならば、刃に賭してその衷心を見せい!」
「ひっ、ひいい」

日頃の高慢な態度はなりを潜め、ノリはひょろひょろと甲高い悲鳴を上げてあとずさる。
更に進み出る俺を、コハクがやんわりと制した。

「シロウ様、ここで抜かれては後々厄介かと」

コハクの含み笑いの視線が、尻餅をついたノリを見下ろす。

「我らが大殿の居城、弱将の血で穢すは不敬というものでしょう」
「ちっ、血ィィっ……!」

震えあがるノリに侮蔑の一瞥を投げかけ、俺は刀から手を離して腕組みをした。

「これより我が刃、いついかなる時も貴様の喉玉へ突きつけられていると思え」
「これもシロウ様の忠義ゆえ。悪弊を正すは我ら将兵の身上なれば」

柔らかに付け足したコハクに促され、おれはその場を去った。
ノリは萎縮し、しばらくは立ち上がることさえできないようだった。

獲得した辞世の句:The sparrow wages war against the wind.
fury dice:3

死の巻

それは、ひどい間違いだった。
なにより……おれの落ち度だった。

「此度の用向きは分かっておりましょうなぁ」

前よりも禿げあがった頭にたらたらと汗を流して、ノリはひきつり笑いでおれを見ていた。
俺は刀傷がまだ膿を滲ませる肩を隠すように着物の前を掻き合わせ、床几から腰を上げた。

戦はまだ終わっていない。だが、もはやおれに残された仕事は撤退の指揮だけだ。
敵国の間者が紛れていることに気づかなかった――それだけならばまだ如何様にでも言い訳はできたかもしれない。だが、それが我が軍の兵糧を損ない、将を殺め、遁走まで許したとなれば、もはや他の何物のせいにもできはしなかった。

「大殿は慈悲深きお方。シロウ殿の数多の誉れを守るよう、ご配慮くださっておりまする」
「切腹……というわけか」
「ひ、ひ、ひ」

堪えきれなかった哄笑を、ノリが響かせる。

「命など惜しくはございますまい、シロウ殿ほどの真の勇将ともなれば」
「……ふん」

心が冷え切っていく。あんなにも猛っていた血が、静かに凍り付いていくようだ。
戦場が、遠い。

「謹んでお受けしよう」

笑みもなく、怒りもなく、静かにおれは言い切った。

切の巻

――白砂の敷かれた刑場に、俺は座している。

短刀の先が腹を押し撫で、冷たい風が肩を抱く。
その風が、日差しを遮る雲を流し、おれの介錯をすべく刀を振り上げている男の顔をようやくつぶさにした。

青ざめ、ひきつり、愉悦の笑いに歪んだ、ノリの顔を。

奴が望んだのか。大殿がそう判断されたのか。
そんなことは、もうどうでもよかった。
刀を持つ手も震えている小ネズミがおれの功名を踏みつけ、穢したことは、もはや恨むまい――
だが。

(おれの死まで、穢すことは許さぬ!)

おれは短刀を逆手に掴み、勢いよく立ち上がった。
悲鳴を上げて腰を抜かし、そのまま座り込むノリを見下ろし、ずん、と一歩踏み出す。
環視の衆人が驚き、悲鳴を上げ、身構える中、一人の影がその人ごみを割って駆けつけてきた。

「シロウ様、これを!」
「コハク……まったく、バカな男よ!」

駆けつけたコハクが差し出す刀を引っ掴み、鞘を投げ捨てる。

fury dice 5d6…13

それ以上の問答は必要なかった。戦い生き延びる侍の本分など、ノリに説いて聞かせるようなものでもない――次の一太刀で、その青白い頭はあっさり跳ね飛ばされ、ごろごろと転がった。

「おのれ、乱心か!」
「いかにも!」

大殿の手の者が次々に詰めかける。コハクと背中合わせに刀を構えて、俺は腹の底から笑った。

「乱れずして戦などやれようものか!」

強き主君に仕える強き侍。
おれはこの瞬間のために生きてきた。
おれの命は、主君に向けた刃にこそ懸けるべきだったのだ。

おれは手勢を次々切り捨てて、長年親しんだ大殿へ迫っていく。
いつからか、コハクの声がしなくなった。いつの間にか死んでいた。気持ちよいほどだ。戦などそういうものだ。
そして主君の前に立ち、血刀を振りかざしたその瞬間――

その冷たい視線に貫かれたのかと思ったが、そうではなかった。
次々に射かけられた矢が、過たずおれの命を仕留めていった。

血を吐きながら、おれは血だまりに伏す。

刃は鞘にあり
琥珀親しく
雀颶風に対す
厳冬まさしく来たれり

「見事な最期であった」

大殿は静かに呟いて、立ち上がった。
そして、取り落したおれの刀を拾い上げ――
戦場で振るい続けてきた刃の輝きが、おれの最後の記憶だった。

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