Returning 勇者アルスの帰還

プレイログ
このゲームは、「Hope jam」のために作成されました。
より良い未来を築き上げるためには、
自分のものではないものは返す必要があるからです。

このプレイログについて

Returning」は、世界を左右する最終局面を勝利に導いた英雄の、その後の話を描くソロジャーナルです。
英雄は、自分を勝利に導いてくれた様々なものを、それを貸してくれた人たちに返します。全て返し終えたら、ジャーナルは完成です。
戦闘は発生しません。戦いはすでに終わり、人々は十分すぎるほど傷ついているからです。

【勇者アルスの帰還】

その日、黄金の虹が青い空に架かり、祝福の光が春の訪れた世界へ射した。
世界を賭した戦いの終わりを、世界中のだれもが知ることになった。
そして、業魔カルラを討ち滅ぼした勇者アルスの名が、王国中に響き渡った。

「今度は、ずっとここで暮らせるの?」

勇者は、戻るべきところに戻っていた。
国境近くのありふれた農村。魔物たちに襲われ一度は火の海に沈んだ地に。それでも日々を逞しく生きていた故郷の人々に混じり、アルスは農作業や大工仕事に精を出していた。
夕暮れ時の農場で農具を一つ一つ丁寧に仕舞っているアルスの元に駆け寄ってきた少女が、栗色のくりくりとした瞳を輝かせて首を傾げ、アルスを見ていた。発されたその問いに少し間を開けて、アルスは首筋の汗を拭ってその幼馴染の少女イリンを振り向いた。

「明日には発つよ」
「慌ただしいのね。せっかく業魔を倒したのに」

唇を尖らせて、イリンが言う。アルスは微かに微笑して、目を細めた。

「借りたものを、返しに行かなきゃ」
「借りたものって?」
「……いろんなものが、俺を生かしてくれた。そのおかげて、勝つことができたから。自分一人の力でできることなんて、ほんのちっぽけなことなんだよ」

ふうん。
とイリンは吐息し、そっぽを向いた。

「あたしは、アルスが凄かったから、生きて帰ってきたんだって思ってるから!」
「それはそれで嬉しいけどな」
「ごはん、ウチで食べてくんでしょ?」

くるんと振り向いて、イリンはもう笑顔を見せている。
アルスは小さく肩をすくめて、跳ねるように駆ける彼女の背を追い、歩き出した。

【1つ目のアイテム】

The item-種別:6/靴やブーツ・ロケットブースター
The item-特殊能力:5/ある文化や地域の象徴である
The item-最終決戦での役割:2/味方を結集させた

アイテム名:《建国王のサンダル》
建国王が暴君との決闘の際に履いていたとされるサンダル。暴君の血に浸ってなお純白を保った。民を思う正当な反逆の象徴であるとされ、王国民の精神性の象徴ともされる。

The people-持ち主:3/歴史またはそれに類する分野の専門家
The people-手に入れた経緯:1/盗賊から取り戻した
The people-返却の旅は:8/ついに脅威と憎しみから解放される

人物ファイル:歴史学者テンダーハート
歴史学の徒である小人族の女性。見た目は人間の子供のようだが、その大きな頭の中には無限の歴史の叡智が詰まっている。彼女の住むオーリオウの街が魔族に占拠されたことでオーリオウ歴史博物館は略奪に遭い、《建国王のサンダル》も長らく行方不明になっていた。勇者アルスの戦いによって魔族は退けられ、《建国王のサンダル》は奪還されて、その後は勇者アルスの旅を助けるために貸し出されていた。

「客人かね? ……おや、アルス?」

小人族の歴史学者テンダーハートが、山と積まれた書籍の向こうから子供のような背丈でめいっぱい背伸びをし、半年ぶりの来客を見た。ぼさぼさの黒髪から触角のように持ち上がった一房が、興味深げにぴこんと揺れた。
アルスは彼女に歩み寄ると、木箱の蓋を開き、その中できっちりと揃えられた、純白のサンダルを差し出した。
それは《建国王のサンダル》。王国各地にいた反魔物軍の反乱分子たちと勇者アルスを繋げる、とっておきの一手だった。

「これを返しに参りました。本当にこのサンダルには助けられました」
「無事に帰ってこれて何よりだよ」

大人びた口調でテンダーハートは言い、木箱を受け取る。

「点検と補修が終わったら、歴史博物館に戻すとしようか。君が取り返してくれなければ、趣味と素行の悪い金持ちのコレクションとして朽ちていくばかりだっただろうな」
「とはいえ、こんなにも重要な、伝説の遺物を貸し出してくれたなんて……あの時、俺はただの旅の戦士に過ぎなかったのに」
「そうだろうとも」

俯いてしみじみと言うアルスに、テンダーハートは涼しい顔で答えた。

「ただの戦士を勇者にするのが、伝説というものだ。私のような歴史学者は皆、その重みを知っているさ」
「……テンダーハートさん」

彼女のような人々ひとりひとりの決断が、自分を勇者にしていったのだ。
アルスは噛み締めるように頷いた。

「ここに至るまでに、君は何を見てきた?」
「ここに……至るまで?」
「故郷に帰還し、そしてこのオーリオウの街に着くまで、だ」
「……」

自分の足で、この旅路を越えた。業魔に至り世界を救うまでと、同じように。
それはやはり、痛みのない記憶ではなかった。
憎悪と脅威の残響がまだ空気に残り、傷ついた人々、失った人々の悲嘆を目にしない日はなかった。
アルスは静かに、口を開いた。

「たとえ勝利しても、戦いがそこにあったという事実は消えない。そう思いました」
「そう、なるほどね。それはちょうど、建国記第六章にもある言葉だ……建国王の言葉としてね」

テンダーハートが、歴史書をぱらぱらと捲る。

「その言葉を聞いただけで、君にこのサンダルを貸し出したことには意義があったと思うよ」

使用人が茶を入れてきたようだ。
微かな花の香りが、熱い湯気とともに漂った。

【2つ目のアイテム】

The item-種別:8/特別なアーティファクト
The item-特殊能力:3/火炎・電撃への耐性
The item-最終決戦での役割:7/衰弱状態から救った

アイテム名:《ジンのケープ》
糸の代わりに弾ける稲妻と揺らぐ炎で織りなされた短いマント。鎧の上から身にまとうと、絶えず光り輝き、弾け、揺れる。着用者への攻撃である限り、どのような電撃も火炎も無効化される。

The people-持ち主:5/情熱にあふれる趣味人や収集家
The people-手に入れた経緯:6/不当に隠匿されていた状態から解き放った
The people-返却の旅は:5/修理や建て替えで賑わう

人物ファイル:好事家ナヒーリャ
鳶色の髪と薄い髭、浅黒い肌の男性。交易都市アーズンの大富豪。大都市の一角に城と見まごうような大豪邸を構えているが、冒険者上がりなので行動力に溢れており、なかなかじっとしていない。海魔に迷わされた交易船を探し求めて自ら船を出し、魔物たちに囚われた交易船に乗り込んで探索していたところをアルスに助けられた。

「おお、アルス! 友の来訪はいつでも嬉しいものだ!」

豪邸の主は、きらびやかな扉を開けて、薄布を重ねたゆったりとした衣装をはたはたと靡かせんばかりの勢いで飛び込んできた。その風采に似合わない、無邪気なほどの勢いに、アルスは思わず苦笑した。

「お元気そうで何よりです」
「ほかでもない君が、この世界を健やかにしたのだよ! だから、私も健やかに生きていかなければならないわけだ」

人差し指を立てて、ナヒーリャがウィンクをする。
隊商や商船を襲う魔物の出没がなくなったことで、交易都市アーズンは今一番の好景気を迎えている。街のいたるところで建て替えと建て増しが行われ、魔物たちの爪痕など見る影もない。ナヒーリャの持つ会社も、多くの案件を精力的に回しているようだった。
アルスは荷物を開き、《ジンのケープ》を広げた。光を抑えていたらしいケープの炎と雷が再び力を取り戻し、ぱちぱち、と弾けて翻る。

「これを返しに来ました」
「おお、雷火のジンの秘宝! 私のコレクションは、君の戦いに役立ったかね?」

好事家ナヒーリャはすぐさまケープをさっと受け取って風に翻し、その妙なる輝きと閃きを楽しむ。楽しむように輝く瞳が、そのきらめきを映していた。

「ええ、とても……魔将の軍勢と戦い、力尽きたとき、このケープが炎と稲妻の結界を張って守ってくれたんです」
「おお、いいね! とてもいい話だ。このケープを見るたびに、君のサーガを思い出すよ」

ナヒーリャは流れるようにケープを纏い、ずかずかと歩み寄ってくる。
広げられた腕に少し目を丸くしてから、アルスは照れ笑いとともに熱いハグを受け入れた。

【3つ目のアイテム】

The item-種別:1/ヘルメットや帽子、ベール、マスクなど
The item-特殊能力:5/ある文化や地域の象徴である
The item-最終決戦での役割:7/衰弱状態から救った

アイテム名:《聖女のヴェール》
かつて女神崇拝の一派が圧政の弾圧により消えかけていたとき、その抵抗運動の旗印となった聖女アガタが身につけていたヴェール。彼女は投獄され食事を与えられなかったが、同情した看守が痩せさらばえた彼女の体を隠すためにこのヴェールを被せたところ、不思議な力で飢えが癒えて命を長らえたという。それ以来、この地域でおられるごく薄い絹織物の総称として《聖女のヴェール》という言葉が使われるようになり、それはまた、圧制に抗う者の象徴となっている。歴史学者テンダーハートの説によると、単にこのヴェールに隠して食料を差し入れていたという逸話が捻じ曲げられて伝わったものらしいが……

The people-持ち主:1/名高く誰もが知るリーダー
The people-手に入れた経緯:5/その集団によって作られた
The people-返却の旅は:6/祝う人々でにぎわう

人物ファイル:サラ・メイナン
メイナン家の若き党首。アルスに『ユルアラクの三長老家』のもめ事を解決した礼として、自らが織った《聖女のヴェール》を渡した。聖女アガタの伝説が残る城塞都市ユルアラクは、市民投票と国王の信任で選ばれる首長から独立した権力の担い手として、『三長老家』と言われる三つの名家がある。機織りのメイナン家、鍛冶のノグオック家、酒造りのブラブソーン家である。《聖女のヴェール》と呼ばれる薄絹を織ることは、メイナン家の当主が最初に成す仕事の一つである。

城塞都市ユルアラクは祝祭のさなかにあった。
訪れた平和を祝う人々の歓喜の中を、アルスは一人歩く。
この旅装の若者が、この平和をもたらした勇者その人であることを、すれ違う人々は知らない。

メイナンの屋敷は、客人を快く迎え入れた。

「この道中で、良いものを見てきただろう」

メイナンの当主サラは穏やかな笑顔を向けて、かつて自分がアルスに渡した絹織物を受け取った。

「メイナンの《聖女のヴェール》は、魔法の糸を織り込むことで唯一無二の存在となる。通常は一束……だが、私はもう一束。勇者の旅を守るものとして、特別に織り上げたのだ」
「これがどんなに俺の旅路を助けてくれたか、言葉では語りつくせません」

アルスは力強く語った。

「長い旅だった。いつでも万全の備えができるわけじゃない。旅先で何度も飢えや渇きに苦しめられ……そのたびに、このヴェールの魔力がそれをゆっくりと癒してくれました」
「それはよかった。だが、準備不足は恥じるべきだ、勇者よ」

サラはそっけなく言った。そして、悪戯っぽくアルスに目配せを送った。
アルスは少し間を置いて、照れたように笑った。

「手厳しいですね。ですが、おっしゃる通りです」
「このヴェール、返さずとも好いと思っていたが。義理堅い男だな」
「サラさんの当主の務めとして織りあげた大事な《聖女のヴェール》、返さず手元に置いておくわけには」
「ずっと手元に置いてほしい、そう言わねば伝わらんかな」
「え?」

アルスは思わず聞き返した。
サラはどこか寂しげに瞳を伏せた。
まるで、その奥の傷を見せまいとするように。

「すぐに発つのか?」
「……明日には、村へ戻ります」
「屋敷に部屋を用意しよう」
「お心遣いはありがたいですが、宿を取ったので」

アルスは説き伏せるように、静かに答えた。
そして、やわらかに拒むような微笑を、目の前の女へ向けた。

「故郷ですべきことが、俺を待っています」
「お前の務めは、お前の幸せより大事なことなのか?」
「……」

ただ沈黙の中で、はぐらかしてよい会話ではない。
アルスは瞼を上げ、その強く明るい眼光を見せた。

「それは、俺の幸せのために果たすべき務めです」
「……待っている人がいるのだな。お前の、故郷に」

鋭く賢いサラは、すぐにそこへ思い至る。
アルスは頷いて、恩人に背を向けた。

「サラさん、此度の助力に感謝を。そして、それぞれの行く末に幸運を!」

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