A Moment Too Late カメには歴史がわからない…

プレイログ

わたしはカメ

わたしはカメ。時間旅行をしているよ。

あまり詳しくは聞いていないが、いろいろな歴史的瞬間に居合わせることができる、素晴らしいツアーみたいだ。

わたしはカメだが、人間たちの文化や歴史にとても興味があるカメだ。この旅行を楽しみにしていたよ。

だが、困った……

最近のツアーガイドは、足が速いようだなあ。

私の足で行ける速さは限られているが……なあに、歴史というのはいつもそこにあるものさ。慌てない、慌てない。

【1回目】

♣の9

…劣化した石油の臭いがする、見捨てられた工場。古びた歯車が散らばっている。
(産業革命……に間に合わなかった)

寂しいところにたどりついてしまったな。歯車が散らばっているし、ひどいにおいだ。誰も片づけをしなかったのかな。
ふーむ、あちこちに油がべたべたついているみたいだ。こういうのは、洗剤を使って落とすものだが。気の利く者が一人もいない工場なんて、ぞっとするね。

こんなところで、本当に歴史が動いていたのかね?
私は寂しい工場を眺めて、しみじみ考え込んだ。

きっとわたしの足が遅すぎるせいで、ここで繰り広げられていた歴史的イベントはすべて終わってしまったのだろう。
わたしにできるのは、この工場を眺めて、ここで何が起きていたかに思いを巡らせることだけだ。

寂しくうらぶれた工場だが、きっとここでは歴史を動かす大発明が……
いや、待てよ。こういうのはどうだろう。のちの偉人が、若い頃はこんな工場で働いていた、という路線だ。
どんな偉人だろうか……そう、たとえば、ジョゼフ・ジョン・トムソン。偉大な物理学者にも下積みの時代はあったのだ。彼は機関車の製造に携わるため、当時最先端の技術に触れられる工場での労働や視察を精力的に行っていた。だが、彼の天分は技師ではなく、学者にあったのだ。
ジョゼフの夢はこの工場で花開き、そして萎んだ。彼は様々な折り合いによって蒸気機関の技師になることを諦め、物理学の道を志す。そして、今日の物理学の根幹をなす偉大な発見をすることになる――

うむ、人に歴史あり。
どんな偉人にも、苦労した時期があったのだなあ。
やはり歴史は面白いものだ。
このツアーに来てよかった。

わたしは歴史の重みを噛み締めて、「J.J.トムソンが下積時代を過ごした工場」を立ち去り、次なる歴史的イベントに向けて歩き出した。

【2回目】

♦のK

…静かな病室、ベッドサイドテーブルに置かれたハート型の感謝状。
(史上初の心臓移植手術成功……に間に合わなかった)

真っ白な部屋に消毒液のにおい。
どうやら、病室に着いたようだ。

病室ということは、ここで医学的な発見があったのだろうか?
それても、ここで誰かが亡くなったのか? 歴史に影響を与えるような、偉大な誰かが……
そうだとしたらいたましいことだが、人の死もまた歴史だ。その重みを感じるのも、こういったツアーの醍醐味ということだろう。

おや、カードが置かれているな。
ハート形のカードに美しい筆跡で感謝の言葉が書かれている。
病室に感謝の言葉が書かれたカード……ということは、きっとこのベッドに寝ていた人物は助かったのだ。
さて、ここで起きた歴史的イベントを紐解くには、誰が助かったのかが問題みたいだな。

この可愛らしいカード。美しい筆跡。助かったのは女性じゃないかな。
歴史的な人物で、女性……そうだ、マーガレット・サッチャーだ!
鉄の女と呼ばれた彼女も、かつて病に倒れたことがあった。彼女は病苦の中で己の生を見つめなおし、政治家としての使命を新たにした。
そのためには、まず現場の労働者たる病院のスタッフへの感謝を示すところから始めなければ……きっと彼女はそう思ったに違いない。

どんな病気だって? うーん、胃潰瘍なんてどうだろう。
あれはけっこうつらいぞ。サッチャーもかわいそうに。
歴史に触れるというのは楽しいものだね。書物で読めばただの人名でしかない偉人が、とても身近に感じられる。

わたしは「マーガレット・サッチャーが胃潰瘍を治した病室」を立ち去り、次なる歴史イベントに向かって歩き出した。

【3回目】

♦の9

…静かなガレージ、タイヤ跡の横にレンチが置かれている。
(自動車発明……に間に合わなかった)

おや、今度はガレージか!
ここに停まっていた車は、もうどこかに行ってしまったみたいだ。こうしてタイヤ跡だけを見ると、どんな車だったのか興味深いんだが……車にはちょっとウルサイからね、わたしは。
タイヤは通常のゴムタイヤではなさそうだ。全体的にかなり細いな。木製の車輪みたいだ。

もう出払ってしまった、旧式の車……
今回は簡単そうだね。
そう、私が向かおうとしていた歴史的事件とは……ヴィンテージカーの流行だ。このガレージにあったのは、飛ぶように売れたヴィンテージカーの最後の一台というわけだ。
ロールスロイス・ファントム、メルセデスSSK、デューセンバーグ、ブガッティ57SC……はて、この手の車のタイヤはすでにゴムだったかな? まあ、きっとそうなんだろう。ここに木のわだちがあるということはね。
美しい木製の車輪を持ったいくつものヴィンテージカーが、このガレージを出て好事家たちのもとに渡ったというわけだ。

木製のヴィンテージカーのブーム。
想像するだけで、なんとロマンチックで楽しい、豊かな時代だろう。忙しない日々を暮らしていても、いつだって古いものを顧みてその良さを噛み締めるのは大事さ。これはカメなりの哲学だ。

わたしは「ヴィンテージカー展示場のガレージ」を立ち去り、次なる歴史イベントに向かって歩き出した。

【4回目】

♠のA

…荒れ果てた村、軒先に忘れられた薬草袋。
(黒死病の流行……に間に合わなかった)

わたしは、自然豊かな美しい農村にやってきていた。
温かな風が穏やかに吹いてくる。人の姿はなく、色づいた羽毛のヒワの歌が聞こえて、太ったリスが立派なプラタナスの枝を弾ませて飛び渡っている。
雑草に紛れて咲く青いヒヨクソウを揺らして、小さな蝶がひらひらと飛んで行った。

建物や、放棄されて雑草に覆われた畑はあるが、そこで暮らす人々は見当たらない。
なんとものんびりとした風景だ。
だが、なぜ人がいないのだろう?

民家の前に置かれていた小さな布袋に、私は気づいた。
わたしが鼻先でつんつんとつつくと、ハーブの癖のあるにおいがした。

ハーブと美しい花畑。
わたしが考えるに、ここは王宮の一角に設けれた偽の農村なのだ。
暇と金に飽かせた宮廷貴族たちの間では、妙なものが流行ることがある。農民の格好をして農民を題材にした演劇を催す、そんな嗜みがあった時代も存在する。
貴族たちはめったに水浴びをしないからな。体臭をごまかすためにポプリを衣装の下にぶら下げていた。ここにはその時の落し物が残っているというわけさ。

豊かな連中が作り上げた偽の農村、存在しない責務、作り物の悲嘆。この美しい農村にあるのは、そんなものだったわけだ。
まあ、悲嘆なんて、本物より偽物の方がいいに決まっているけどね。それにしたって、呑気な連中さ。

わたしは「王宮の敷地に作られた、貴族の演劇用の農村」を立ち去り……元の時代に帰ることにした。

旅を終えて

ツアーガイドが私を笑顔で迎えてくれた。

「いい旅行だったよ、歴史というのは実に楽しいものだね」

そして、少し首をかしげる。

「しかし、私が出発したときのツアーガイドは、もう少し背が高い金髪の若者だったな。背丈が縮んで、髪が黒くなっているとは、不思議なものだ」

「前任の者は転職いたしまして」

「最近の若者は辞めるのが早いというね」

「いえ、定年退職でした」

「フーン、そうか」

私が旅立った時代も、もはや歴史の一部というわけだ。まあ、それなら、いつか旅行先の候補に含めてもいいかもしれないね。

このプレイログについて

A Moment Too Late」は、時間旅行を楽しむ亀になってジャーナルを綴るゲームです。
この時間旅行は本来なら歴史上の重要なイベントを見て回るツアーのはずですが、亀はあまりにも歩みが遅いので、着いた頃には歴史上のイベントはあらかた終わっています。
亀はすべてが終わった後の光景を見て、そこでどのような歴史上のイベントが起きていたかを亀なりに推理します。亀は賢い亀さんですが、人間の文化や理解に対する理解は限られているため、その推理はしばしば的外れでユーモラスなものになります。

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