これが我々の王国だ。これが我々の領域だ。これが我々の苦境だ。
「Plight」は、戦争に揺れる王国を舞台にした伝統的なファンタジー・ロールプレイングゲームです。
異種族の共生を実現した女王が毒殺されたことで、ドワーフ・エルフ・人間は分裂し、対立しました。そして、更なるおぞましき脅威が迫っています。奇妙な、恐ろしい生物たちが、全てを食らい尽くそうとしているのです。
この危機は、賢く、勇敢な者にとってはチャンスでもあります。危険な遺跡を探索すれば、更なる力も手に入るかもしれません。ただ、忘れてはならないこと……それは、血は安くないということです。
ライセンス表記
Plight by QSTMKR
Copyright ©2023 Timothy Fogarty
CC BY-SA 4.0 表示-継承 4.0 国際
キャラクター作成
名前…ケイス
職業…9/薬草医
STR…6
DEX…15
INT…15
HP…2
種族…エルフ
ケイスの種族は「エルフ」にしました。これで能力値に修正が加わります。
最終的に、ケイスのデータはこのようになります。
ケイス/エルフの男性。薬草医。
STR 5
DEX 16
INT 15
ケイスはとても非力ですが、エルフらしいすばしっこさと、頭の良さを備えています。
HP 2
HPはキャラクターの体力や耐久力を示すものではなく、決定的なダメージを避ける能力を示します。
ケイスがどのような人物であるかについても、ランダムで決めていきましょう。
体格…5/荒々しい
顔…1/骨ばった
髪…10/手入れされてない
話し方…8/正確
美徳…4/規律ある
欠点…8/無礼
評判…2/”無礼者の”
不運…6/詐欺に遭った
ケイスの痩せさらばえてあらゆる骨格が浮き出たみじめな体は、風雪に晒された山中の廃屋を思わせます。髪はもつれにもつれ、頬の肉はごっそりとそげています。しかし、その体躯にはある種の荒々しい魂が感じられるのも事実です。
ケイスは薬草医であり、他者の健康を担う責任から、常に言葉を惜しまず正確に伝えようとします。しかし、彼のその誠実さは疎まれる時のことが多いようです。彼の通り名は、彼の率直で過剰な言葉遣いにいら立った人々の多さを表しています。
どんなことでも納得を得ようと熱心になる彼は、都会ではいいカモでした。苦い思い出はその時のものでしょう。
ケイスは所持品として、食料3食、松明1本、そして3d6枚のコインを持っています。
初期コイン…13枚
引き続き、装備をランダムで決めていきます。
武器…1/ダガーもしくは棍棒
防具…2/ブリガンダイン
兜または盾…バックラー
小物…18/タバコのパイプ
用具…17/携行袋
道具…18/のこぎり
イメージしやすい結果になりました。ケイスは装備を全体的に軽装でまとめているようです。乾かした草を詰めて吸うパイプ、摘んだ薬草を詰める携行袋、邪魔な植物や小枝を切り倒す小型のノコギリを持ち歩いています。
作成時のキャラクターは、魔導書を1つ所持しています。この魔導書に書かれている魔法は任意で選んでいいようです。
ケイスは《Pacify/鎮静》の呪文を獲得しています。この呪文が効果を発揮すると、周囲のクリーチャーたちは戦いや暴力を嫌い、遠ざけます。血を流さずその場を離脱するのにかなり有効そうです。
冒険の開始
QUEST SPARKS…5/Goblin Diplomacy(ゴブリン族との外交)
ケイスはその日の治療に必要な薬草を摘み終えて、危険な森からエルフの集落へ戻ってきた。エルフの村は不穏なざわめきに満ちていて、ケイスが出発する前とは明らかに違った。ケイスは待たせていた患者のために胃腸薬を調合しながら、留守中に起きた恐ろしい出来事について聞き出すことにした。
「皆震えあがるのも無理はないよ。野蛮なゴブリンたちが突然集落にやってきて、〈酋長の冠〉を渡せと言って来たんだ」
ひきつった笑いを浮かべる農夫のドーシーを見て、ケイスは顎をさすりくどくどと言った。
「返せというのは、どういうことでしょう。
我々がゴブリンからその〈酋長の冠〉を奪ったという事実があれば、返せという言葉も筋が通ります。
しかし、我々が冠をゴブリンから奪ったことなど一度もありませんね。ならば、返すことなどできないはずです」
「ああ、つまり身に覚えがないって奴だ」
一言で片づけて、ドーシーはため息をついた。
「あいつらを納得させなきゃ、次は血を見ることになりそうだ」
「ゴブリンたちは数が多いし、我々よりよほど戦争慣れしていますからね。戦争になれば我々には大きな被害が出るでしょう。
男が殺されるのはもちろんだし、彼らはよく、女子供の生首を杭に刺して飾りますよ」
「よしてくれよ……」
ケイスは薬をフタエシイバの葉脈にくるんでドーシーに処方し、今にも襲い来るだろうゴブリンの恐怖にすくみあがっているエルフの集落を探索することにした。
1:賭博師フェロリア
NPC Oracle…〈酋長の冠〉に詳しい人物は?
名前…12/フェロリア
背景…7/ギャンブラー
評判…3/”残酷な”
善良なエルフたちは、〈酋長の冠〉について何も知らなかった。それをいくらゴブリンたちに説いても、ゴブリンたちは頑として聞き入れず、ただ約束の日時に〈酋長の冠〉を引き渡せ、と一方的に告げて姿を消したようだ。
〈酋長の冠〉など聞いたこともないが、それがただのゴブリンのでっちあげだとしても奇妙な行動だ。いかに狡猾で冷酷なゴブリンとはいえ、ありもしない物のためにエルフの集落に攻め込んだりするだろうか?
〈酋長の冠〉は確かにこの村にあるはずだ。ただ、その場所を皆が知らないだけではないだろうか。
だとすれば、まずは〈酋長の冠〉について、何か知っている人物を探すことになりそうだ。その人物がこの集落にまだとどまっている可能性は高い。もともとこの集落は、人の出入りが激しい方ではないのだ。
村のひなびた食堂で〈猿の果実酒〉と呼ばれるエルフの安酒を飲んでいる青年に近づき、ケイスは声を掛ける。
「旅の賭博師の、フェロリアさんですね。お話を聞かせてもらえますか。お話というのは、ゴブリンと〈酋長の冠〉の話です。
これについて何か知っているとすれば直近でこの村を出入りし、あのゴブリンたちの集落に近づいている姿を目撃されているあなたしかいないので、ゴブリンとの戦争を回避する鍵に……」
「わかった、わかったから。いきなり一方的に長々話さないでくれよ」
フェロリアは顔をしかめて、言葉を遮った。
「確かに俺は最近この村に来たばかりの流れものだが……ゴブリンと、〈酋長の冠〉?それが俺に関係あるって言いたいのか?」
「はい。正確には、あなたが関係しているなら話を聞きたいということですが、私はあなたが関係していると思っています」
「疲れない?その話し方」
大きくあくびをするフェロリアを、ケイスの落ち窪んだ目がじっと見つめている。
「俺はさすらいのギャンブラーさ。踏み込んだ話を聞き出したいなら、ギャンブルに勝つことだな」
「ギャンブルに?」
ケイスは呟くように聞き返し、木のテーブルに瘦せこけた手を置いて身を乗り出した。
「あなたが何か知っているなら、それを聞きたい。私はギャンブルをしたいわけではないんです」
「あんたの都合なんて知らないね」
フェロリアは使い込んだダイスを弄び、右の口角をちかりと上げた。それだけで、そのさすらいの賭博師の冷酷な本性が垣間見える、そういったたぐいの笑みだ。
「もちろん、あんたにも賭けてもらうぜ。俺が持ってる情報と同価値のものをな」
「それは、何ですか?」
フェロリアは目を細め、ケイスをじっと見つめてから、その視線をテーブルの上に動かしていく。そこにはケイスの、枯れ枝の様な五指がある。
フェロリアは挑発する様に声に愉悦を含ませて、冷たい瞳でケイスを見た。
「そうだな、あんたの指を折らせてくれよ。何本か……そう、サイコロ1つの出目の数だけな」
「……」
ケイスは黙って椅子を引き、フェロリアの前に座った。
決して公平な取引とは言えないが、この男が何かを知っているのは確かなようだ。今取引を蹴り、フェロリアがこの村を出てしまったら、〈酋長の冠〉に関する情報を完全に取り逃してしまう可能性もある。そう思えば、選択の余地はないも同然だった。
「そうこなくちゃな」
フェロリアは声を弾ませて、カードを配り始めた。
Oracle:ケイスはフェロリアに勝つだろうか?
Answer:3/はい、さらに…
勝負はスタンダードなポーカーで行われた。
ケイスは正確無比な読みを発揮し、フェロリアを相手に互角以上の戦いを繰り広げた。何度目かのショウダウンを迎えたその時、張り詰めた沈黙を破ってフェロリアが笑い出した。
「参った、参った! あんた、お堅そうな顔して随分強いなあ」
「私が勝ちました。〈酋長の冠〉について、あなたが知っていることを教えてください」
ケイスは淡々と告げた。フェロリアはカードをかき集めて揃えながら、肩をすくめて見せた。
「もちろん。あんたが満足できる話を聞かせられるだろうよ」
Open Question Oracle:フェロリアはどのような話をするだろうか?
Answer:1-Barter/3-Blighted/2-Captivity
Interpretation:フェロリアはゴブリンたちと取引を行ったが、ゴブリンたちは対価を支払うのを拒み、フェロリアを捕らえた。フェロリアは脱獄ついでに、ゴブリンたちが暮らす領域を荒廃させる呪いを浴びせてきた。
「旅をしていれば、何かと役に立つものを運ぶこともある。連中が俺に取引を申し出てきたのも、そういうことだと思ったんだが……我ながらとんだ甘ちゃんだったな」
フェロリアは語り始めた。
「俺の持ち物を全て取り上げて、俺を牢にぶち込みやがったのさ。大した牢屋じゃなかったから簡単に抜け出してきたんだが、そのままにしておくのも癪でね……」
「それで、〈酋長の冠〉を盗んだのですか?」
ケイスは先回りをして尋ねたが、それは核心に迫る問いにはなり得なかったようだ。フェロリアは片眉を意味ありげに上げて、その問いを黙殺した。
「こう見えて、魔法は得意な方なんだ。だから、その恩恵を浴びせてやった……《Blighted/荒廃》の呪いをな。奴らのねぐらにある、なけなしの畑を枯らしてやったのさ」
「……それはまた」
ケイスは黙り込んだ。倫理的な面で彼を責めることのむなしさは、なんとなく感じ取れる。賭けの商品に指を差し出させるようなタガの外れた賭博師にしては、ごく穏当な報復のようにすら思えていた。
ケイスはゴブリンのねぐらにある「なけなしの畑」という言葉が、少しだけ気になった。
「それは、何の畑でしたか? 野菜とか……煙草とか」
「そんな感じじゃあなかったな。ごく小さかったし、日当たりも悪い。あれは……」
フェロリアは顎をさすった。その眼差しは話し始めたときより柔らかで、ケイスが彼からある程度の信頼を勝ち取ったことがうかがえる。
「薬草の畑だったみたいだ」
「薬草……」
ゴブリンの薬草の畑が枯れて、〈酋長の冠〉が奪われた。この事実に因果関係はあるのだろうか? 少なくともケイスにとっては、それは無関係には思えなかった。
「ありがとうございました。あなたの話は、この事件の解決につながるはずです」
「おおげさだねえ」
フェロリアは肩をすくめて、ケイスを見送った。
2:ノールの娘ガルファ
Open Question Oracle:ケイスはどのような出来事に出会うだろう?
Answer:17-Rescue/3-Blighted/5-Death
Interpretation:荒廃したゴブリンのねぐらから迷い込んできたゴブリンが、男女の二人連れを襲っている。男は死に、女は息がある。今すぐ助けなければ危ないだろう。
SPECIES:4/Other(エルフ・人間・ドワーフ以外)
村はずれの自分の医院に戻ろうとしていたケイスは、鋭い悲鳴を聞きつけて飛び出した。ダガーを上着の下で掴み、得意の呪文《鎮静》を早くも思い浮かべながら駆けだす。それは明らかに、命を危険に晒された無力なものの叫びだったのだ。
集落近くの丘の下を通る道で、二人の旅人が三体のゴブリンに囲まれ、襲われている。旅人の方はフード付きのマントを被っていて姿は分からないが、どうやら同士討ちではなさそうだ。
ケイスが丘から下る道を駆け下りたとき、ちょうど片方の旅人がゴブリンの棍棒によって打ち倒され、動かなくなった。それを見下ろした旅人が叫ぶ。その悲痛な悲鳴は女性のもののようだった。武器で防ぐ余裕がなくなった彼女に、ゴブリンは容赦なく刃こぼれした剣を叩きつけようとする。
考えている余裕はなかった。
ケイスは呪文書を手に、《鎮静》の呪文を詠唱した。
INT check…10/成功
「おあ……?」
ゴブリンがぼんやりと声を漏らし、剣を下ろす。
これだけ殺気立っていた相手に対して、そう長い時間の効果は見込めないはずだ。ケイスは棒立ちになっている女性の手を掴み、走り出した。
DEX check…6/成功
なんとかゴブリンたちが殺意を思い出す前に、女性を引っ張って遠くまで逃げることができたようだ。慣れた森へ飛び込んで木々の間に身を沈め、生い茂る草の間から見透かしてゴブリンたちの動きを見守る。
張り詰めた沈黙が過ぎ去る。フードの女性が、不意にぐるる、と唸った。
「あ、ナタ、は……?」
フードがするりと外れ、その下の顏が明らかになる。尖った鼻面に短い獣毛。犬頭の獣人、ノールの特徴だった。
ケイスはまじまじとその顔を見る。人間やドワーフならいざしらず、平地で集団生活を営む、縄張り意識の強いノールがこのようなエルフの集落近くをうろついているというのは珍しいことだ。
「あなたはノールですか。珍しいですね。ノールがエルフの集落のそばをうろついて、ゴブリンに襲われるなんて。男性のほうはあなたの仲間ですか? 私が着いたときはもう殺されていて、助けられませんでしたが」
「あ……恋人、です……」
ノールの女性はうつむいて言う。ケイスは淡々とくぎを刺した。
「そうですか。けれど、恋人の死体を取りに行くのはお勧めしませんよ」
「わかっています……助けて下さって、ありガトう、ございました」
ノールは口腔の構造が違うので、共通語の発音にはぎこちなさがあるようだ。しかし、聞き取る分には問題ない。
ケイスは改めて彼女の身なりを見た。短剣を一振り携えた、旅人の服装だ。戦いを生業にしているようではなさそうだった。
「私はケイスといいます。我々の集落は今、ゴブリンに宣戦布告を受けて困っています。ゴブリンに襲われていた経緯を聞かせていただいてもいいですか? そこに何か役に立つ情報が隠れているかもしれません」
「宣戦布告……? ア、イエ、わたしの話でよけレバ……」
Oracle:ノールの二人連れが襲われたのは、〈酋長の冠〉と関係があるだろうか?
Answer:2/はい、さらに…
ノールの女性は、ガルファと名乗った。恋人と故あっての旅の途中だったという。小高い丘の下の道を通っていたところを突然ゴブリンたちに遮られ、〈酋長の冠〉について問いただされた。何も知らないと答えたところ、それ以上の問答もなく襲われたらしい。
しかし、話を聞くにつれて奇妙な点が見えてくる。
それは、ゴブリンたちが、ガルファたち二人がほぼ間違いなく〈酋長の冠〉を持っているはずだと思い込んでいるという点だ。
ゴブリンたちは「冠を持っている方には気を付けろ」と言い、一方的に襲い掛かっておきながらひどく慎重な防御体勢で距離を詰めて牽制を行って来て、ガルファを口々に脅しつけた。そして、不自然に時間をかけた攻防でようやくガルファの恋人オゴンを打ち倒したのだ。
これではまるで……
「なぜかゴブリンたちは、ガルファさんが〈酋長の冠〉を持っていると思い込んでいたようですね。
〈酋長の冠〉は、我々の集落が彼らから宣戦布告を受けている原因でもあるんです。ゴブリンたちは、私たちエルフの集落に〈酋長の冠〉があると決めつけて脅しをかけてきている。
なのに、ガルファさんが〈酋長の冠〉を持っているとも思い込んでいるのは、妙な話です。この齟齬は何を意味しているんでしょう?」
「わたし、持ってマセん、冠なんテ……」
ガルファは嘘をついているようには見えない。ケイスは考え込んだ。
「少なくとも分かったことが一つある。
我々エルフの集落に本当に〈酋長の冠〉が持ち込まれていて、それを探し出してゴブリンたちに返却すれば解決する……そんな簡単な結末ではなさそうだということだ」
ケイスはガルファの傷を手当てすると、背を向けて別れを告げた。一人残されたかよわい女性はしばらく所在無げにたたずんでいたが、やがてとぼとぼと歩き出し、エルフの集落から離れていくようだった。
3:冒険者エローウィン
Question:次に物語に登場するのは、どのような人物だろう?
NPC oracle:5-Wary/5-One
Goal:6/隠された宝物を見つけ出す
Name:5/エローウィン
Role:18/Scout
Interpretation:「隠された宝物」を追い求める冒険者。人間の女性で、名前はエローウィン。斥候の心得があり、野外での行動に長ける。用心深く、しっぽを掴ませようとしない態度を取る。
ゴブリンたちと接触しないように、ケイスは慣れた森の中を通って集落に戻ることにした。
エルフたちに恵みをもたらすこの森はエルフの領域であり、別の種族が立ち入ると厳しく排斥されるのが掟となっている。エルフたちは森の植物の変化に敏感なため、別の種族が立ち入った形跡はすぐに見てわかるのだ。
ケイスの鋭敏な感覚は、踏み折られた雑草や、折られた小枝の生々しいささくれを敏感に感じ取った。エルフではない誰かが、この森に踏み入ったのは明らかだ。
ケイスはダガーを抜き、用心深くその足跡を追った。
木々のはざまに紛れるように、人間が一人佇んでいる。
木綿のシャツに皮の幅広のズボン。詳細な刺繍を施した厚手の帯を胴に巻き付けて防具代わりにした、短い栗色の髪の女性だ。腰の後ろに、磨かれた木製のカジェルを挿し込んで携帯している。
足跡を追うのは簡単だが、忍び歩きはケイスの本分ではない。距離を詰めると彼女はあっさり感づいて振り向き、見事な手早さでショートボウに矢をつがえた。
「それ以上近づかないで」
「あなたは我々エルフの森に勝手に踏み込んでいます。あなたが私に命令をするのはおかしいですよ。あなたが出ていくべきなんです」
「エルフの森……ああ。だから何だって言うの。私が踏み込んじゃいけない理由にはならないわ」
「あなたがその態度を変えるつもりがないなら、我々は対立するしかありませんよ。
それは、私の様なエルフは慣れ親しんだ森に他種族が踏み入るのを嫌うし、特にあなたの様な傲慢な人間が草木を踏み荒らしたならその代償は血肉で支払うほかないと感じているからです。しかも、あなたは譲歩の意思を見せません」
「まだるっこしい話し方するのね。全部私が悪いって言いたいの?」
女王の死以降、ただでさえ排他的なエルフは種全体がますます高慢になり、他種族との共存を拒むようになっている。そして、人間の傲慢さ、無神経さが特に鼻持ちならなくなっている。ケイスと彼女の対立は、まるでその縮図のようだった。
「聞きたいことがあります」
「答えるなんて言ってないけど、それでも良かったらどうぞ」
冒険者は冷ややかに答える。ケイスは構わず続けた。
「あなたは、〈酋長の冠〉を知っていますか?」
Question:エローウィンは〈酋長の冠〉を求めているだろうか?
Answer:4/はい、さらに…
冒険者は片眉をきりきりと上げ、ケイスの顔を用心深くうかがっている。ケイスは落ちくぼんだ眼下に落ちた影の下から、陰気な眼差しで彼女を見つめ返した。
「知っているようですね」
「〈酋長の冠〉は、どこにあるの?」
「答えるとは言っていませんが、問いたいならば好きなだけどうぞ」
「……」
ケイスの陰鬱な声に刺激されたようで、冒険者は見るからに緊張を高めていく。弓の弦が引き絞られる音が聞こえる。彼女が指を緩めたとき、一直線に飛んでくる矢がケイスに突き刺さるだろう。
この冒険者もまた、〈酋長の冠〉を求めているようだ。人間であるこの冒険者が〈酋長の冠〉を求めていることは、ゴブリンたちの態度と何か関係があるのだろうか? ケイスは見定めるように目を細め、日差しを受けて鋭く輝く矢じりを見つめた。
頭の隅で、何かが繋がりつつある。そんな予感があった。
「賭博師フェロリアは、ゴブリンの集落に囚われ、集落で育てられている薬草を全て枯らして遁走した」
冒険者は一言も口を挟まず、ケイスの言葉を待っている。
「それから、ゴブリンたちは何かに追い立てられるように、〈酋長の冠〉を探し始めました。
それはなぜ?
〈酋長の冠〉が盗まれたと思った? それなら、フェロリアさんを追うはずです。旅のノールを襲う必要はない」
「私にわかるように説明してくれる?」
弓を構えたまま、冒険者は冷ややかに言う。ケイスはゆっくりと吐息し、続けた。
「ゴブリンたちが今、危機に瀕しているということ。
ゴブリンたちは捕らえた賭博師に手痛い反撃を受け、更に薬草を失い、戦い続ける力を失っている。
そして、そんなゴブリンたちの集落に今、『簒奪者』が入り込み、居座っているんです——」
ゴブリンたちの奇妙な行動は、全てその『簒奪者』への恐怖に起因するものだ。
外部からやってきた『簒奪者』は、ゴブリンたちを制圧し、集落に居座った。
そして、ゴブリンの集落に本来あるべき〈酋長の冠〉を差し出すことを解放の条件にした。
しかし、何らかの理由でゴブリンたちの集落から〈酋長の冠〉は消えていた。だが、『簒奪者』は耳を貸さない。
刻限までに〈酋長の冠〉を差し出さなければ、ゴブリンたちは全て屍となって杭に晒される——どんなにゴブリンたちが哀願しようとも、突きつける条件は、ただそれだけだった。
ゴブリンたちは死に物狂いになって集落の周辺を探索し、狂気じみた脅迫を繰り返し、何とかその刻限までに〈酋長の冠〉を探そうとしている。だが、おそらくそれが実ることはないだろう、とケイスは踏んでいた。
「〈酋長の冠〉は、真の目的ではない。
私は十分に分かりやすく話をしています。それに、あなたにならわかるはずです。
『簒奪者』の一人である、あなたなら」
「……ふふん。よくもまあ、そう思いつきをぺらぺら並べ立てられるものね」
冒険者は鼻で笑い、ゆっくりと弓を下ろすと、緊張で凝り固まった上腕をほぐすように伸びをした。
4:簒奪者たち
「お名前を、教えていただけますか。
名乗っておくことは、あなたにとっても損にならないでしょう。あなたたち『簒奪者』の目的が……私の推察通りだとしたら」
ケイスは淡々と語り掛け、冒険者に近づいた。冒険者は眉間にしわを寄せたまま、余裕たっぷりににっこりと笑んで見せた。
「名前くらいなんてことはないわ。私はエローウィン……『簒奪者』なんて物騒な名前は名乗ったことはないけどね。冒険者パーティ、『暁の矢』の一人よ」
「暁の矢……彼らが今、ゴブリンの集落にいるということですね」
「……あんまり踏み込まれると、殺しちゃうかもよ」
ぴしゃりと牽制される。
どうやらケイスの推察は、彼女にとってひどく都合が悪い内容のようだった。
その理由も、すでにケイスには分かっていた。
人間の冒険者パーティである『暁の矢』が、ゴブリンの集落に居座り、ありもしない秘宝を要求している。そして、ゴブリンたちは近隣のエルフの集落に脅しを掛ける——〈酋長の冠〉を用意できなかったエルフの集落は、当然ゴブリンたちに攻め込まれるはずだ。
しかし、そうはならない。今だけは、そうはならない。
『暁の矢』が我が身の危険も顧みずゴブリンたちを殲滅し、さっそうとエルフの集落に現れるからだ。
「人間の勢力が、われわれエルフの集落に莫大な貸しを作ることができる。
たった数人の冒険者パーティが、弱体化したゴブリンの集落一つを揺さぶるだけで……とても効率よく」
「人間に助けられるのは嫌?」
エローウィンは冷笑した。
「あんたたちエルフを皆殺しにした方がいい?」
「その選択肢もありうるというわけですね。
エルフたちがそういった取引も通じない程に頑なな様子なら……まずはゴブリンたちに殺させ、そして生き残りは『暁の矢』が片付ける」
ケイスはエローウィンを見つめた。エローウィンは事ここに至り、弓を構える気を見せない。ただケイスの出方を注意深くうかがっているようだ。
ここしばらく、近隣の人間の勢力と、エルフの集落は相互不可侵の状態が続いている。女王の没後、人間とエルフの関係は冷え切っているため、交渉の場すら設けられずにいるのが現状だ。
これは積極的に大規模な交易等を行わない傾向にあるエルフにとっては何ら支障のない状態だが、人間たちには「エルフの集落に遮られた方面には隊商を出せない」という大きな負荷を与えているようだ。
つまり……
「エルフの集落一つを救った報酬として、通商の許可を求める……あなたたちの目的が、それだとしたら」
「……! だとしたら?」
エローウィンはあきらかに驚愕を滲ませてから、それを慎重に覆い隠して聞き返す。
それすらも演技である可能性は、十分にあった——
ケイスは、はっきりと言った。
「見なかったふりをすることも、やぶさかではありません」
「……。正気?」
エローウィンはこれまでの慎重さをかなぐりすてたように声を荒げて反問し、大股で一歩ケイスに近づいてくる。ケイスは掴んだダガーをあえて胸の前に構えて見せて警戒を示したまま、真剣な表情で続けた。
「人間たちがこの地域の交易路を確保することは、エルフにとってはなんら損にはなりません。このような機会がなければ、エルフと人間が交渉の席に着く機会すら巡ってこないのもわかっています。
『暁の矢』がゴブリンを滅ぼし、その貸しをもってエルフの領域を隊商が通ることを容認する。それはきっと、エルフと人間の関係を発展させていくことにもつながるはずです。
あなたたちがそれ以上の利己的な行動に走るのでなければ……私は沈黙を守ると誓いましょう」
皮肉気に震える息を含んで、エローウィンが言う。
「……人間なんて汚らわしい種族、近づきたくもないのに? あんたたちエルフがそんな寛容さをみせるなんて、ムチャよ」
「近づきたくもなくても、近づくときはやってきますよ。かつて女王が存命の時に、我々エルフと人間とドワーフは共存していたはずなんですから。そして今、我々はそれを理想とすべきではないですか?」
エローウィンはしばらく黙っていた。そしてため息をつき、弓を片手に提げたまま背を向けた。
ケイスは念を押すように、その背へ語り掛ける。
「貸しを作るにとどまらず、エルフの集落に損害を与えようとするならば、私はこの事実すべてを公表します。
あなたたちがどのように私の口を塞ごうとしても、これはかならず大陸全土のエルフが知るところになるでしょう」
「……そうなれば交易路どころじゃない、か。わかったわよ」
エローウィンは実感を込めた声音で呟き、大股に歩きだして森を去っていきました。
5:暁の矢
ケイスは薬を調合しながら、ドーシーの話を聞いていた。
農夫ドーシーの表情は明るく、いつもより口数も多い。
「いやあ、人間どもも捨てたもんじゃないな。まさか、俺たちの集落を襲ってきたゴブリンたちを一匹残らずやっつけちまうなんて!」
今日はドーシーの胃薬はいらないようだ。ケイスは湯を沸かしながら、摘んだ薬草を揃えて机に並べていた。
「聞いたか? 『暁の矢』って連中だそうでな……エルフと人間の関係の改善のために力を貸したいって話だぜ。そのためにあの血に飢えたゴブリンどもを叩きのめしてくれるんだから、なんとも頼もしいじゃないか」
「関係の改善、か」
ケイスはぽつりとつぶやいた。
「女王の没後……誰もが背を向け合い、憎悪を育て、刃を研いでいます。
その言葉が一つ出てくるだけで、我々にとっては大きな進歩になりうるかもしれませんね」
「そこまで難しいことは考えちゃいないがなあ。せっかくお湯を沸かしたんだし、お茶を淹れてくれたっていいんじゃないか?」
ケイスはにこりとも笑わずに、茶葉を用意した。苦い薬草茶の入った壺を目にしたドーシーが「うえ」と唸ったが、どうやらそのまま頂くことに決めたようだ。
(暁の矢)
ケイスは、その名を胸の内で繰り返す。
(彼らの企みが、これで終わるとは思えない……彼らを監視できるのは私だけだ)
混迷を極めたこの大陸で、為すべきことを見極めるのは難しい。すべては善悪を越えた先にあり、常に苦しい選択を迫られる。
それでも、考え続け、戦い続け、立ち向かわなければならない。その先に進むべき道があると信じて。
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