おじいちゃんは、ピグマリオン。「私だけのコッペリア」プレイログ

プレイログ

このプレイログについて

私だけのコッペリア」は、「あなた」だけの人形「コッペリア」を作るソロジャーナルです。
今回はやや設定をいじり、ピグマリオンが毎年クリスマスになると自身の末裔の家庭の女の子に特別な人形をプレゼントする、という形でジャーナルを書こうと思います。また、いくつかの結果をかなり大胆に拡大解釈しています。
正式な設定と内容が知りたい方は、上記リンクから。

ジャーナル

導入

毎年クリスマスになると、おじいちゃんから大きな荷物が届く。そこにはいつも、とびきりのプレゼントが眠っている。
クリスマスから大みそかの間だけ動いて止まる、私の大事なお友達。新しい年には連れていけないけれど、思い出はずっと残ってる。

一年目

性別/4…わたしと違う性別。つまり、男の子。

瞳の色/5…緑。若草のような柔らかで淡い緑。

髪の色/3…金色。干し草のような、温かで素朴な金髪。

髪型/2…短い。金色のふわふわした髪を短く切っていて、形の良い耳に少しだけ毛先がかかっている。

服装/1…和服。あまり見慣れない、アジアの民族衣装。

アクセサリー/2…指輪。石に薄らと灯っているこの輝きが消えた時、彼は動かなくなる。

お人形が目を覚ます。淡い緑の、ちょっとすねたような瞳。そこにだけやってきた春の色。きっとこの子が、こんな色の草原を見るときは訪れないんだけど。

「おなまえは?」

このプレゼントが届いた時のいつもの儀式。お人形はそっと唇を開いて、優しい声音で一言名乗った。

「ハヤト。侍の末裔だ」
「侍って、どんなことをするの?」
「刀を持ってる」
「刀って、見たことないな。あなたは持ってる?」

ハヤトは自分の体を見下ろし、首を振った。私はその手をそっと取り、箱の中からハヤトの体を引き起こした。起動中を示すランプが、指輪に灯っているのが見えた。

コッペリアと何する/1…料理を楽しむ

ハヤトは料理を知っていた。肉じゃがという、豚肉を入れたポトフで、ちょっと甘めの味付けがポイントだそうだ。私の家にはない材料ばっかりで苦戦しながら、クリスマスのお昼ご飯を一緒に作った。

「侍のおうちでは、クリスマスのお昼に肉じゃがを食べるの?」

じゃがいもの皮をむきながら、私はハヤトに聞いた。ハヤトはしきりに首をかしげてコンソメをお湯に溶かしながら、しばらく考え込んでいた。

「侍は、何でも食べるよ」
「えらいのね」
「そう、えらいんだ」

変わった味をママは少し嫌がって、パパは面白がった。こう見えてミートパイに意外と合う、とハヤトは自信たっぷりに言い切った。

「今回のお人形は、少しいい加減な子なのね。凄く説得力はあるけど」

ママが少し、眉をひそめた。

二年目

性別/6…わたしと違う性別。今度も、男の子。

瞳の色/2…青。暗く濃くて、明るいところで見ないと青だと思わない。

髪の色/4…銀色。磨かれた金属のような、人間にはない光沢の髪。

髪型/4…長い。不思議に輝く銀髪が、肩を包むように長く伸ばされている。

服装/1…今度もアジアの民族衣装。詰襟の……中国の服かな。

アクセサリー/5…帽子。黒いつば付きのハットをかぶっていた。

暗い紺色の瞳に光が差し込んで、海底のような青がその瞼の間で輝く。長い銀髪がさらりと揺れて、薄い唇が何かを呟くように微かに開いた。

「おなまえは?」

お人形はゆっくり身を起こして立ち上がり、帽子を脱いで胸に当て、一礼した。

「私は空燕(コンウェン)、天険と雲嵐の狭間に住まうもの」
「それって、どこにあるの?」
「……あのあたり」
「あっちには薬屋さんがあるわ」

空燕は部屋の中をあいまいに指さした手を引っ込め、咳払いをした。
私は抱えられたままの帽子を受け取り、帽子掛けに掛けた。

「空燕が眠るときは、この帽子を胸の上に置いてあげるね」

弾んだ声を掛けると、空燕は銀のまつげを伏せた。

「不要、そんなに気に入ってない」
「そうなの? じゃあ、なんで帽子なんか」
「脱いで挨拶をすれば見栄えがすると思ったまでのこと」

色々考えるタイプみたいだ。感心しきりに、私は目を丸くして瞬きをした。

コッペリアと何する/5…音楽を楽しむ

空燕は楽器が得意なようで、同じ箱に細長い横笛と丸いリュートが入っていた。長い脚を組んでソファに座りながら、空燕はリュートを抱えてぴん、と弾いた。
月明かりを思わせるような、静かで冷たい音が響いて、にぎにぎしいリビングがしん、と寂しいほど静かになる。

「この楽器は、月の琴という名だ。満月のように丸いからな」
「それに、音もお月さまみたいよ」
「……」

空燕は少し目を丸くして、どこか嬉しさを押さえるように唇をムズムズさせた。

「そう思うのは、私だけじゃなかったみたいだな」

ゆったりと静かな音色が響く。目を閉じると、瞼の裏に夜空が広がる。空を削ってしまいそうな高い山峰の上に、眩むくらいの星が輝いて。

きっと空燕が眠っても、夜空を見たら思い出す。この音色と、幻の夜空を。

三年目

性別/3…わたしと同じ性別。つまり、女の子。

瞳の色/4…銀。信じられる?きらきら輝く星屑みたいな瞳。

髪の色/3…金色。月明かりを閉じ込めたみたいな、光を秘めた髪。

髪型/5…長い。立った形で箱に収められていて、毛先が膝まで届くくらい。

服装/3…アジアの民族衣装。黒地に色つきの糸で刺繍が施された裾の長い服。

アクセサリー/5…帽子、もといサークレット。瞳の色と同じ銀色の宝石と銀のチェーンで頭と額を飾っている。

黒い服を身につけた女性の形のお人形が、眩いほどの金の髪を揺らして身を起こした。
持ち上がった瞼、銀の瞳。信じられないほどの美貌が生命の輝きを宿してしまう。星空が立ち上がってきたみたいな神秘的な一瞬。息を呑んで私は言葉に詰まり、最初の一言がなかなか出てこなかった。

お人形はぼうっと目を開けたまま、私の言葉を待っている。私はなんとか呼吸を喉に通して、蚊の鳴くような声で尋ねた。

「お、おなまえは?」
「……」

お人形はまだ間延びした沈黙をしばらく落として、そして。

「やー狭っこいとこ入っとったから体中バキバキのゴリゴリやわー! あんた音聴く? 音! 全角度からエグい音するで! ワシの球体関節!」

それはまるで、妖精の森に住まう小鳥のおしゃべりのような、鈴を転がすような、可憐で美しい声。
それにかなり離れた地域の訛りがてんこ盛りの口調で賑やかに言って、お人形は長い髪を後ろに払い両腕をぐん、と真上に向けて伸ばし縮みさせた。

「おー名前やったな、ザフラやザフラ! 異邦の言葉で花っちゅー意味でな、どやワシにぴったりやろ。短い間やけどよろしゅーたのんまっせ、ご主人さん!」
「花、好きなの?」
「そうは見えまへんけど~みたいな顔してようけ聞きないな! そら好きに決まっとりますがな、花が嫌いなワケあるかい!」
「見たことある?」

何気なく、私は尋ねた。
ザフラのけたたましいおしゃべりが途端に止まり、その美しい銀色の瞳が窓の外に積もる雪を見た。

「見たこと、ない」

おじいちゃんが作った人形は、工房と箱の中しか知らずにここに届くのだ。

「そうなんだ」

コッペリアと何する/6…買い物を楽しむ

冬の街を歩くザフラを、すれ違う人が皆目で追いかける。お人形は寒さをなんとも思わないみたいで厚着を嫌がったけど、ただでさえ目立つザフラが季節に合わない薄着をして出歩くのはあまり良くない気がして、私のコートとマフラーを貸してあげた。

ザフラの銀色の瞳も、賑やかな街を落ち着きなく注視している。時折圧倒されたようなほうっ、という息をマフラーの中に籠らせているのがわかった。
私は隣に並んで、声を掛けた。

「びっくりしちゃった?」
「びっくりもこっくりもあるかいな、ひっくりかえらんだけでも褒めてほしいわ。おるとこにはおんねんなァ人っちゅーもんは……」
「あんまり大きな声で話さない方がいいよ」

ザフラのマフラーに抑えられた金髪がふわふわと弛んで、彼女が歩くところだけ映画のポスターみたい。

「お花、買って帰ろうね」
「こうなったら一番ええ花買って、ウチの箱に入れてほしいわ!」
「それって、お葬式の時にするんだよ」

ザフラはしばらく黙り込んで、小さくすん、と鼻を鳴らした。
クリスマスの空の色を焼き付けるように空を見上げて、軽く目を閉じて、それからしばらく何も言わなかった。

ジャーナルを終える

今年もおじいちゃんからお人形が届く。
お人形が見られるのは、クリスマスから大みそかまでの世界だけ。
新しい年には連れていけない、大事な私のお友達。

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