【Aransi Days】アリシャの探偵日記

プレイログ

Aransi Daysについて

Aransi Days」は、謎解き・推理をメインにしたソロジャーナル用汎用システム「Hints & Hijinx」を使用して作られたソロジャーナルです。といっても、Aransi Daysで解かれるべき謎は殺人や失踪ではありません。主人公は夏休みに祖父母の住むアランシ村へやってきた子供であり、子供にとって魅力的な謎は赤く熟れたトマトの影、葦の籠の織目、スリーレヴェリ川の泥土の底に潜んでいるものなのです。

プレイログ

セットアップフェイズ

主人公について

私の名前はアリシャ。8歳の女の子よ。

アランシ村で過ごす夏は、毎年とても楽しみ。というのも、アランシ村を流れるスリーレヴェリ川はとてもきれいで、いろいろな生き物がやってきて、その気になれば1日中だって遊べちゃうから。お昼の一番暑い時間に、雲がさあっと川の上を流れて影が落ちた時の涼しさとか気持ちよさは、普段は味わえないもの。

アランシの村で一番大好きな人は、もちろんおじいちゃんとおばあちゃん! どっちがどう、なんて選べないわ。おばあちゃんの作るラドゥーとペサは、都会の洋菓子店だってかなわないくらい美味しいし……陽気で歌とダンスが上手なおじいちゃんは、いつだって私の自慢だもの。
でも、おじいちゃんとおばあちゃん以外だと、そうね……猟師小屋のレヤンシュおじさんは、この村にとても詳しくて、いろいろなことを教えてくれるから大好き! でも、時々ウソを言うのよ……大人が子供に嘘をつくなんて本当によくないって思うけど、よくない人を好きになったっていいと思うの。

私がアランシの村を冒険するときは、いつも特別な友達といっしょ。
友達を紹介するわね、オウムのラールっていうの。燃え立つような真っ赤な羽に、緑色の羽が縁取りみたいに混ざってるのがすごくオシャレ。キュートな黒いくりくりした目を見てると、本当に私の言葉が全部分かってるんじゃないかって思っちゃう。

そうそう、ラールったら、このアランシの村で遊ぶ時だって本当にマイペース。ラールが一番好きなのは、都会のスーパーでもアランシの商店でも売ってるような、ハルディラムのチャトパタダールなんだから! チャトパタダールを投げてあげると嘴をくわっと開いて、サクサクと食べてしまうのよ。

キャラクターシート

アリシャ 8歳の女の子

Dig D10 謎を見つけて、考えて、冒険して、能動的に行動するスキル。
Drift D12 ゴロゴロしたり、周囲に溶け込んだり、やっちゃいけないことをこっそりやったりするスキル。
Deputy D8 オウムのラールにお任せするスキル。

事件発生

「チャンドゥおばさんがハルワを作って待っているそうだよ」

おじいちゃんがそう言ったとき、私よりもラールが先に小躍りしたわ。
もちろん、私もそれに遅れて飛び上がっちゃった。でも、踊りだそうとしてたわけじゃない――そんなヒマなんてないわ。早く行かなきゃなくなっちゃうから!

チャンドゥおばさんは、村一番の果樹園の女主人。チカンカリ刺繍のオレンジのストールは遠くからだって目立つから、畑道路の向こうから歩いてきたってみんなが手を振って挨拶をするの。

チャンドゥおばさんのガジャル・ハルワときたら、もう絶品!
一度にたくさん作るから、お茶会の前のチャンドゥおばさんのおうちはお菓子屋さんみたいよ。
ああ……ガジャル・ハルワについてわざわざ説明するなんて、バカげてるかしら? でも、知ってることをもう一回繰り返してみるのだって、たまには悪くないわよね。
ガジャル・ハルワは、すりおろしたニンジンを使った柔らかいお菓子。
すりおろしたニンジンに、溢れるくらいのギーと、いろいろなナッツと、幸せな匂いのするスパイスと、そしてもちろん山盛りの砂糖を混ぜ込んで作るのよ。

大きな羽で先に空を駆けていくラールを追いかけて、チャンドゥおばさんの果樹園目掛けて走っていったら、もうお茶会の準備はカンペキだった。
一年ぶりのアランシ村の子たちが、私を見てリズミカルに頭を振って挨拶してくる。
私はちょっぴり大人びた感じを出したくて、両手を合わせて頭を下げてみせたわ。

「さすが、都会の子はちゃんとしてるねえ」

豪快に笑って、チャンドゥおばさんが家から出てきたら、村のいたずらっ子たちが現金にチャンドゥおばさんに駆け寄っていってその手にした鍋に手を伸ばす。お行儀が悪いわ、と私がマユをひそめるより先に、男の子が悲鳴を上げた。

「しょっぱい! これ、しょっぱいよ、チャンドゥおばさん!」

そんなはずがないってみんな思ったわ。ハルワが、それもチャンドゥおばさんのハルワがしょっぱいことなんてある?
何かの間違いよ。私よりもずっと、チャンドゥおばさんの顔がそう言ってた。
でも、その指が掬ったハルワが口に運ばれると……

「ああ、なんてことだい。作った時は最高に甘くてふわふわだったのに!」

チャンドゥおばさんの金切り声で、集まった子供たちの顔色が変わっていく。がっかりして、みんなの反応を伺って、しょっぱいハルワなんかほっといてすぐにでも遊びに行きたいって……
冷たいけど、確かにそれは仕方ないこと。みんなが食べたかったのは、甘くて幸せなチャンドゥおばさんのガジャル・ハルワ。塩味のニンジンのすりおろしなんかじゃないんだから。

「チャンドゥおばさんが、ハルワの味付けに失敗するなんて」

ありえない、と、私は思ってた。
決意を込めて、言い切る。

「これは、事件よ! 私とラールが解決して見せる!」
「ミセルー!」

私と同じ決意を抱いて、ラールが高らかに鳴いた。

アランシの地図

この事件は、アランシの村を駆けまわって手がかりを集めなきゃ解けないに違いない!
そう考えた私は早速地図を広げて、どこで調査をするか考えることにしたわ。

1:チャンドゥおばさんの果樹園。事件が発生した場所。
2:シダルタおじさんのニンジン畑。チャンドゥおばさんのハルワとは切っても切れない関係。
3:猟師小屋。レヤンシュおじさんがこの事件に関係があるとは思えないけど……ひょっとしたら、タメになるアドバイスが聞けるかも。
4:ゴパールおじさんの食料品店。おやつも買いたいし、ラールが行きたいって言うから!
5:村の中心にあるバンヤンの木。夕方になると皆が集まり、ラマナ・ラオ・ジ村長と一緒におしゃべりを楽しむ場所。
6:スリーレヴェリ川のほとり。泳いだり、釣りをしたり。お茶会に集まってたちびっ子たちもよく来る場所のはず。
7:葦の河原にある、子供たちの隠れ家。これも、お茶会に集まってた子たちに話を聞くなら欠かせない。何より、私だって一緒に遊びたいし。
8:村の郵便局。都会のパパに手紙を出しに行こうかしら。
9:ファティマおばさんの作業所。もう90歳になるって話だったかしら、機械みたいに正確に力強く籠を編むのよ。
10:スシラの家。この事件には無関係?とんでもない!いつか都会に出てパティシエになるって言ってた、村一番の甘いもの好きのスシラなら、この事件に興味を持ってくれるはずよ。
11:村の大通り。山の下から物資を運んでくるから、意外なほど広くて立派な道路があるの。人通りは……トラックが着いた時なら。
12:水田。夏にアランシに来れば必ず目にする、青い稲穂がそよぐ段々畑。
13:おじいちゃんとおばあちゃんの家。私が毎朝起きて、おはようを言う場所よ!

探索フェイズ

第1ラウンド:祖父母の家
Complications…3/ラールが空腹を訴えてくる。

朝ごはんを食べて麦わら帽子をかぶって、行ってきますを言っておばあちゃん家から飛び出した。
やる気に満ちた朝だっていうのに、肩に留まったラールときたらずっときいきい鳴いてるの!

「ごはん、いっぱい食べてきたでしょ?」

私のお説教も効果はないみたい。ここはひとつ、我慢比べといきましょう!

Drift…3/Mondi.時間が無駄になり、手掛かりは見つからない。

私は黙りこくってラールに相対したけど、ラールも譲る気はないみたい。こんな小さい体のどこにこんな根気があるんだろうって思うくらいずっと駄々をこね続けて、冒険がなかなか始まらない!
私はとうとう根負けして、とっておきのチャトパタダールを1つ、2つとそのいたずらオウムに咥えさせてあげたわ。

Dig D10
Drift D10
Deputy D8

第2ラウンド:シダルタおじさんのニンジン畑
Complications…12/友達が遊びに誘ってくる。

機嫌を直したラールにお説教をしながら水田のあぜ道を歩いていると、道の向こうから元気な声が呼び掛けてきた。

「アリシャ! こっちに来てたんなら言えよな」
「ダルシャン!」

私はそのきらきらした黒い瞳ですっと背の高い、年上の男の子の名前を呼んだ。ダルシャンはなんとなくアランシ村の人っぽくない、面長のクールな顔立ちだ。長い脚で駆けてくる姿に、午前の日差しがきらきら射している。

「ダルシャンお兄ちゃんと遊びたいって、真っ先に駆けつけてくれると思ってたのに」
「傷ついた?」
「まさか」

ダルシャンは楽しむように肩をすくめて笑う。

「今ここで会ったんだから、これから遊べばいいんだ」

うーん、ダルシャンのこういう明るさは尊敬しちゃうところがあるわ。
彼と一緒に、この事件に挑めないかしら?

Dig…7/Keka.手がかりを見つける。

「ダルシャン、私……今日はほかの予定があるの」
「こんな村に遊びに来た都会っ子に、予定なんかあるのかよ?」

私は力強く頷いた。

「チャンドゥおばさんのハルワについては聞いた?」
「ああ、とんでもなく塩辛くなってて誰も食えたもんじゃなかったってやつだろ」
「そう、その謎を解くの。今の私は、探偵よ!」

自分を指さして、誇らしげに胸を張る。
ダルシャンはしばらくぽかんと私を見てから、じわじわと口元に笑みを広げた。

「面白そうだな」
「でしょ?」
「おれも一緒にやるよ、探偵」
「そうこなくっちゃ!」

ラールが上機嫌に一声鳴く。
私とダルシャンは朝の風を浴びながら村の農道を走って、シダルタおじさんのニンジン畑へ急いだ。

clue..12/ひとつの鍵。

事件の前日、シダルタおじさんのところで、チャンドゥおばさんは大量のニンジンを買っている。もちろんそれは、村中の甘いもの好きにガジャル・ハルワを振舞うためだ。

「その時に落としていったんじゃないかねえ」

シダルタおじさんは泥だらけの軍手を外して、野良着のポケットから鍵を取り出した。
小さな、単純な鍵だ。建物の出入り口の扉ではなくて、戸棚に掛かる鍵だろう。

「チャンドゥおばさんが?」
「ああ、返しといてくれるか?」

現場には必ず向かうことになる。私は鍵を受け取ることにした。

Dig D10
Drift D10
Deputy D8

 

第3ラウンド:ファティマおばさんの作業所
Complications…7/その場所の何かを壊してしまう。

ファティマおばさんはチャンドゥおばさんと大の仲良しだ。

「なんでも、チャンドゥおばさんにガジャル・ハルワを教えたのはファティマばあさんらしいよ」

顎をさすりながら、ダルシャンが言う。

「話を聞いてみる価値はあると思うね」

――そういうわけで、私とダルシャンとラールはファティマおばさんの作業所にお邪魔していた。子供の来訪を喜んだファティマおばさんはお茶の用意をしようとよろよろと引っ込んでいって、作業場の丸椅子には私たちだけが残された。

いやに静かなことに、まず私が先に気づいた。
ファティマおばさんの作業所はもっと賑やかなはずだ。おばさんはお粥みたいに優しくて真っ白な毛の、キールという犬をかわいがっているから。

「ファティマおばさんの犬……キールは、どこに行ったの?」
「そういえばどこに行ったんだろ。死んだって話は聞かないけどな」

ダルシャンが不思議そうな顔をして立ちあがった。
彼の頭が背の高い観葉植物にぶつかって、植木鉢がぐらりとよろめいた。

「あっ」

声を上げたときには、もうすべてが終わっていて……
倒れた植木鉢と、それが激突した置物が、作業所の床にバラバラになって散らばっていた。

Drift…2/Thondi.重大な失敗。手がかりは見つからない。

私とダルシャンで手分けして植木鉢の破片を隠そうとしたけど……
そんなところを戻ってきたファティマおばさんに見られちゃったものだから、それはもう大目玉。

用意されていたお菓子が振舞われることもなく、私たちはこってり絞られて作業所を追い出されてしまった。

Dig D10
Drift D8
Deputy D8

 

第4ラウンド:葦の河原にある、子供たちの隠れ家
Complications…3/ラールが空腹で騒ぎ始める

「お茶会には誰がいたんだ?」

二人そろってさんざんな目に遭い、逃げ帰る最中に、ダルシャンはけろりとした顔で聞いてきた。
私は足を止めて上がっていた息を整え、追いついてきたラールが頭の上に留まるのを待った。

「そうね……真っ先にハルワを食べたのは、パンドゥだったよ」
「振舞われる前に手を出してつまみ食いしたってことか、パンドゥらしいな」

歩調を緩めてのんびり歩きながら、ダルシャンは苦笑する。

「他にはサニーとか、バブルもいたかしら」
「仲良しの悪ガキどもだな。そいつらなら、いつも隠れ家にたむろしてるはずだ」

現場を見ていた子供たちに話を聞くというのは、確かにいい考えだ。
私は心得たように頷いて、ダルシャンと並んで駆け出した。

河原の背の高い葦に隠れた隠れ家は、アランシのいたずらっ子たちのお気に入りの場所のようだった。
隠れ家に近づくとパンドゥが真っ先に気づいて、欠けた歯が見えるほどにいっと笑った。

「俺たちの仲間になりに来たんだな!」
「いや、話を聞きに来ただけ……」

私が言いかけた、その時。
存在を忘れた、もう一羽のいたずらっ子が……
オウムのラールが甲高い声で叫んで飛び回り、人間の髪をむしり始めた。

Deputy…1/Donga.大失敗。ラールは私を困らせることに夢中になる。

またしても、さんざんだった。珍しい来客を迎え入れようとしていた子供たちはオウムに馬鹿にされてわあわあ騒いでいる私にがっかりして、面白くなって、笑い転げ、嘲り始めた。
こんなことじゃ、まともに話なんか聞けそうにない。

Dig D10
Drift D8
Deputy D6

第5ラウンド:ゴパールおじさんの食料品店
Complications…11/ラールが入っちゃいけない場所に入った。もちろん、叱られるのは私だ。

ダルシャンに引っ張られて葦の河原を離れるが、ラールの興奮状態は止まらないみたいだ。

「お菓子くらいあげたらいいんじゃないの?」
「朝にあげた分で全部だったの!」
「そういえば、もう昼だな」

ラールにつつきまわされては振り払っている私をよそに、ダルシャンは呑気に空を振り仰ぐ。

「昼飯のマギーでも買いに行こうか。ゴパールおじさんの店に行ってさ」
「そこにチャトパタダールも売ってるかしら」
「ウッテルカシラー!」

キイキイ騒ぐラールを引き連れて、私たちはゴパールおじさんの食料品店に向かった。

ゴパールおじさんの店は村一番の品ぞろえだ。入り口には駄菓子の棚がずらずら並んでいて、奥には穀物袋が見える。新しい卵や野菜は、木箱に入れて店先に並べられている。

マギーは右側の棚に並んでるみたいだ。ダルシャンが長い首をひょこっと伸ばして、店の奥へ入っていく。
私は何気なく、店に並んだ食塩の袋を見ていた。この地域は岩塩を使用しているので、食塩はうっすらと赤い。都会とは何もかも違うけど、ハルディラムのチャトパタダールだけは同じパッケージで売ってるのよね。

「うわっ、なんだこの鳥は!」

ゴパールおじさんの悲鳴で、私は肩の上を確認した。ラールがいない。店の中に飛んで言っちゃったんだ。

「あ……アリシャの鳥か! 困るよ、放し飼いにされちゃ……」

どたどたと店から駆け出してきたゴパールおじさんが逞しい肩を怒らせて息を切らし、それを追いかけるようにラールが飛んでくる。このままじゃ話を聞くどころじゃないけど……どうしよう?

Deputy…6/Dora.ラールのアシストでこの上なく上手く行った。

その時、ラールは奇跡みたいに気を利かせた。
鮮やかな赤い翼を翻して空を舞い、ずっと前に教えた歌を歌い始める。
リズミカルに短く音が切れるその構造は、オウムの喉でも歌いやすい。楽しく弾んだ響きで、何十年も前のヒットソングが奏でられる。

「おっ?」

ゴパールおじさんの表情が柔らかくなった。

「なんだ、いい歌を知ってるじゃないか、このトリは……」

私の肩に舞い降りて、ラールはなおも歌い続ける。軽く目を閉じて歌に耳を傾け、リズムを取っているゴパールおじさんに、店の中からダルシャンが声を掛ける。

「おじさん、おつりをくれよ」
「ん? おお、会計だな」

すっかり怒りの収まったゴパールおじさんがいそいそと店内に戻るのを横目に、私は周囲を見回した。

clue…9/ペットの首輪

赤い首輪が落ちていた。布製の柔らかいもので、捲れているようだ。まるで、おばあちゃんのお手製と言った風情。まだ風雨に汚れている様子もなくて、最近落ちたばかりといった感じだ。
事件に関係あるかもしれない。私は首輪を拾い上げた。

マギーを買ってお湯までもらったらしいダルシャンが、湯気を立てるマギーのカップを手にのこのこと顔を出してくる。
そういえばお昼ご飯を食べてない。お腹がすいてしまうかも。おばあちゃんちに戻ってもいいんだけど……

「マギー、嫌い? 買ってやろっか?」
「ん……マギー、おうちではあんまり食べないから。食べてみたい」

頷く私に、ダルシャンはにかっ、と揃った歯を見せて笑った。

Dig D10
Drift D8
Deputy D8

第6ラウンド:村の郵便局
Complications…11/ラールが入っちゃいけない場所に入った。もちろん、叱られるのは私だ。

初めて外で食べるマギーは、熱くて美味しかった。夏の日差し、強すぎるアランシ村の緑、川のせせらぎの音、そして湯気を立てるマギー。ダルシャンと並んでマギーをすすった。なんだか些細なことなのに、妙に楽しい時間。
あっ、マギーについても説明しちゃおうかしら、馬鹿げてるって言われそうだけど……マギーっていうのはカップに入ってて、お湯を入れると麺になる食べ物よ。説明終わり!

お腹いっぱいで、私もダルシャンも元気いっぱいだ。飛び跳ねるくらいの足取りで歩き出す。

「しかし、郵便局になんてなんのために行くんだ?」

ダルシャンが首をかしげる。

「アランシは小さくて平和な村で、よっぽどのことがなきゃ変化なんて起きないわ」

私は自信満々に言った。

「なら、きっかけになるものが外から来たから、っていうのも考えるべきよ!」
「小さくて平和だって、変化なんてしょっちゃう起きると思うけどなあ」

不本意そうなダルシャンと一緒に、小さな郵便局のエントランス前の階段を駆け上がる。そんな私を追い越して、ラールは軽やかな羽音と共に郵便局のドアをくぐってしまう。

「あっ」
「あっ」

ダルシャンと揃って間抜けな声を上げた、その時にはもう遅かった。

「うわー何!? 鳥!?」
「ちょっと、書類をもっていかないで!」
「こら、郵便物をかじるな!」

大惨事が起きているみたいだ。ぽかんと立ち尽くす私の隣で、ダルシャンが気まずそうに頬を掻いた。

「あー……落ち込むなよ。一緒に怒られてやるからさ」
「……って! 落ち込んでる場合じゃない!」

ラールを捕まえるのに協力しないと。私は慌てて郵便局に飛び込んだ。

Dig…10/Kathi.大成功。2つの手がかりを見つける。

大騒ぎになったけど、主に私の活躍でラールはおとなしくなった。肩にちょこんと留まっているラールとしょぼくれた人間二人で、郵便局長に思い切り怒られる羽目になった。

「まったく、そうやって大人しくしてれば問題ないんだがねえ」

困った顔の郵便局長さんに謝って、話を聞くことができた。
郵便局の大人たちは本来ならみんな仕事で忙しいから、私と話をしてくれるかなんて運頼みだったはずだ。これもラールのおかげってことかしら?

clue…4/色とりどりのランゴリ粉
clue…10/タイヤの跡

何日か前に送られてきたランゴリ粉の包みが郵便局の前で下ろすときに破けてしまい、お客さんに連絡を取ったりするのが大変だったみたい。郵便局の前には色とりどりのランゴリ粉が散っていて、綺麗なタイヤの跡を浮き彫りにしていた。
ひょっとして、ランゴリ粉についても説明しといたほうがいい? うーん、いらないわよね、絵を描くための色がついた砂についての説明なんて!

「もったいないな」

片付けられてないランゴリ粉の山を見て、ダルシャンが言う。

「この小さな村じゃ、こんなことでも十分事件だったと思うけど……これが事件に関係あると思う?」
「もちろん!」

全然自信はなかったけど、私は胸を張ってうなずいた。

 

Dig D10
Drift D8
Deputy D8

 

第7ラウンド:チャンドゥおばさんの果樹園
Complications…10/新鮮で熱いキールの香り。おばあちゃんのキールが食べたい。お腹がすいた!

日が落ちる前に行っておかなきゃいけない場所がある。
もちろん、ハルワ事件の現場のことよ。

「チャンドゥおばさんは落ち込んでそうだな。自慢のハルワがあんなことになって……」
「いっぱい作ってたしね」

元気で明るいチャンドゥおばさんだけど、せっかく用意したハルワを誰も食べてくれなかったのは悲しいよね。元気づけてあげられたらいいんだけど。

ダルシャンと果樹園に向かう。サポタの果樹園の向こうに、見覚えのあるオレンジのストールが見えて足を止めた。

「あっ、チャンドゥおばさ……」

ぐ~……

突然私のお腹が鳴った。夕食はまだ先なのに、近くの家からいいにおいがする。これはキールだわ、ミルクで煮たお米のにおい!刻まれたナッツの香りまで湯気の中に漂っていて、さっきマギーを食べたばっかりの胃袋が動き出す。

我慢よ、耐えるのよアリシャ!

Drift…6/Keka.成功。手がかりを見つける。

「なんだい、アリシャにダルシャン。果樹園で遊ばれちゃ困るよ」

チャンドゥおばさんがサポタの木の向こうから進み出てくる。言葉ほどお小言をくれてる風もなく、表情は朗らかだ。

「あの、チャンドゥおばさん。昨日はすみませんでした」

私はひとまず顔を曇らせて、言い忘れていたその一言を言った。
チャンドゥおばさんが眉を少し寄せる。

「まあ、あたしも食べてみたけど、とても食べられるもんじゃなかったからね。仕方ないよ」

チャンドゥおばさん渾身のハルワがなぜあんなことになったのかは、おばさんにもわからないという。

clue…3/「騒音を聞いた」という証言

チャンドゥおばさんが言うには、お茶会の直前に、大きな音が聞こえたらしい。
食いしん坊の子供たちを庭先に呼んだばかりなので、ふざけて何かにぶつかったりしたのだろうか、程度に気に留めていたみたいだ。

「暴れてる子なんていなかったわ」
「でも、アリシャが着いたときはもう子供たちはみんな集まってたんだよな?」

ダルシャンが首を捻って言う。

「そうだけど……」

口ごもる私をよそに、やれやれとおばさんはかぶりを振った。

「少なくとも、子供が暴れて何か壊したような跡はなかったね」
「うーん……」

何の音だったのかしら?

「おばさん。私たち、昨日のハルワ事件について調べてるの」
「事件? ぷっ、あはは」

その言葉がよほど面白かったのか、おばさんは笑い出した。

「確かにねえ、あたしのハルワがダメになるなんて大ごとさ! 華麗な解決を頼んだよ、探偵さん」

背中をばしばしと叩かれる。私はよろけて、ダルシャンに支えてもらった。

Dig D10
Drift D8
Deputy D8

推理フェイズ

「十分な手がかりが集まったわ」

パンヤンの木の木陰に座り、私は宣言した。

「十分って感じはしないけどなあ」

渋い顔をして、ダルシャンが隣に座った。
日はすでに傾きかけている。夕飯の時間も、あっというまにやってくるだろう。

「このチャンドゥおばさんのハルワ事件の真相について……ある程度、私の考えは固まってるの。聞いてくれる?」
「そりゃもちろん、聞きたいって思ってるけど」

きょとんとした顔で頷くダルシャンに向き直り、私は瞳を澄み渡らせた。

アリシャの推理

まず、チャンドゥおばさんがガジャル・ハルワの味付けを失敗するなんてありえない。
誰かがハルワに何かしたとしたら、それはニンジンをすり下ろして、砂糖と香辛料とナッツを加えた後よ。

「ニンジン農家のシダルタおじさんは、この時点で容疑から外れるってことか。それと、チャンドゥさんの失敗という路線もなし」

そう。さらに、最初にハルワの味見をしたのはガキ大将格のパンドゥだった。それよりも前にいたずらっ子がハルワに触っているとは考えられないわ。だから、お茶会に集まってる子供たちが犯人というのも可能性は薄いはずよ。

「チャンドゥさんの失敗でもないし、ニンジン屋でも子供でもない……?
でも、誰でもチャンドウさんの家に入れたんじゃないか? チャンドゥさんは鍵をなくしてたはずだ」

あれは家の扉じゃなくて、「戸棚のカギ」なの。チャンドゥさんは数日前に、キッチンの戸棚のカギをなくしてるわ。簡単な小さなカギだから、今は戸棚のカギを壊して使ってるみたい。

「チャンドゥさんの家には誰でも入れたわけじゃない、ってことか……でも、だとすると犯人なんていなくなっちゃうぞ」

まず、整理したいの。
このアランシでは、3つの事件が起きていたの。
ひとつは、チャンドゥおばさんのハルワ事件。
ひとつは、郵便局のランゴリ粉破損事件。
もうひとつは……それについては、あとで話すことにするわ。

「なんだよ、変にじらすな。
事件って言ったって……郵便局の前で積み荷を上げ下ろしするときに袋が破れて、中身がこぼれたってだけだろ? 弁償するってことで決着がついてるみたいだぜ」

ランゴリ粉」の包装は、トラックの中ですでに破れてたみたい。
上げ下ろしの時に裂け目が広がって、中身がこぼれたのね。
ランゴリ粉は駐車場に積みあがって、いくつかの「タイヤの跡」をくっきり浮かび上がらせてた。
そのうちの一つは……

「果樹園に伸びてた、とか?」

違うわね。ゴパールおじさんの食料品店に伸びてたの。
ゴパールおじさんはこの時、郵便局で「グラニュー糖」の包みを受け取ってる。これはもちろん、チャンドゥおばさんからの特注よ。
普段この村の商店に並ぶことはないグラニュー糖。とっておきのハルワを作るために特別にゴパールおじさんに頼んだのね。いろいろあっていつもの卸から買うより、郵送で買った方がお得だったみたい。
問題なのは、このゴパールおじさんが仕入れたグラニュー糖もランゴリ粉と同じ紙袋に入ったってこと。そしてきっと、ランゴリ粉と同じタイミングで破損してる……破れてるの。
だから、ゴパールおじさんは破れた紙袋から新しい袋にグラニュー糖を移し変えて、チャンドゥおばさんに売ってるわ。

「グラニュー糖の袋が破れてた? いい加減だなとは思うけど……
それが何の関係があるんだ?」

この時、グラニュー糖には少量のランゴリ粉が混入してたの。
赤いランゴリ粉が……数キロのグラニュー糖に対して、ほんの一握り。
この村では珍しくて、あまり目にする人も少ないグラニュー糖は……「ピンク色」に着色された状態で、チャンドゥおばさんの手元に届いたということ。
ダルシャン。ピンク色の、キッチンにあるもの……見覚えはない?

「ピンク色の?
……あっ!」

このアランシ村があるインド某地域……
調理用に販売されている食塩は、「ブラックソルト」と呼ばれる岩塩の一種よね。
都会では漂白された食塩が一般的だけど、このインドの地方で販売されている塩はうっすらと……本当にうっすらと、赤い色がついているの。
そう……あの時。
チャンドウおばさんの家にある「食塩」と「グラニュー糖」は、奇しくも全く同じ見た目だった!

「…………」

ダルシャン、何か言いたいことありそうだけど……

「いや、だって……
そりゃこのへんで売ってる塩はピンクっぽいのがほとんどだよ。
でも、色が何であれ、チャンドゥおばさんの味覚は確かだろ? 間違えるわけないよ」

チャンドゥおばさんが間違えた、だけが理由じゃないのよ。
そこで……もう一つの事件が関わってくるの。
それが、ファティマおばさんの飼い犬キールの失踪事件。

「キールか……まだ帰ってきてないのかな。どこに行ったか知ってるの?」

キールはファティマおばさんの作業所を脱走して、ゴパールおじさんの食料品店に来ていたわ。そこに「キールの首輪」が落ちていたからね。
問題は、キールが食料品店からどこに行ったか……
ファティマおばさんとチャンドゥおばさんは大の仲良し。仲良しのおばさんを見て、キールはきっと嬉しくなったんでしょうね。
キールはチャンドゥおばさんの車に乗ったのよ。そう、ピンクのグラニュー糖を買いに来ていたチャンドゥおばさんの車に。

「キールは事件のとき、チャンドゥおばさんの家にいたってことか?」

そう。
キールはチャンドゥおばさんの家にいた。おばさんが気付いていたかどうかは……微妙なところかな。保護してファティマおばさんのところに連れて行こうとしていたのかもしれないし、キールに全然気づかなかったのかもしれないし。
とにかく、キールはチャンドゥおばさんの家にいて、キッチンではしゃいで暴れた。
そのとき、「大きな音」がしたはずよ。

「お茶会の前に聞こえた音、だったな」

キールはキッチンで暴れて、何かをひっくり返した。
ひっくり返した中身は、たくさんあるハルワのボウルのなかの一つに落ちたわ。
おばさんはキッチンに駆けつけて、見ることになるわけね。
一年に一、二回しか買わない貴重な「ピンクのグラニュー糖」が、一つのボウルに流れ込んでしまった光景を!

「ピンクの……」

お茶会に呼んだ近所の人や子供たちはもう庭に集まっていて、時間がなかった。お茶を淹れるお湯も沸いていたし、騒いでる子供たちが喧嘩でも始めたら楽しいお茶会が台無しになっちゃう。だから、手早く味を調えるしかなかった。
おばさんは全部のボウルの中身をまとめて、すりおろして絞ったニンジンを足して、混ぜ合わせてしまったの。
それが見慣れた「ピンクの食塩」であることにも思い至らずに!

「ボウル一つに塩が落ちた時点で、それだけ取り除いてれば……他のハルワは食べられたはずなんだな」

そういうこと。おばさんはとてもとても塩辛いハルワを他のハルワと混ぜてしまって、全部をしょっぱくしてしまったの。
グラニュー糖が溢れるほど入った『いくらなんでも甘すぎる』ハルワを、中和しようとして……最後の最後で、味見の手順を飛ばしてしまったということ。

「なんてこった……」

私たちはこの推理を確かめるために、チャンドゥおばさんの家に向かった。

The Deduction Roll 1d10…6/推理は的中している。

「あれがグラニュー糖じゃなかった……そういうことなんだねえ」

うすうす真相に気づいてはいたみたいだ。チャンドウおばさんは少し悲しそうな顔をした。

「焦ってしまったのさ。みんなが楽しみに待ってくれてると思って……だから、すぐに持っていこうとしてしまって、ありったけのハルワを混ぜてしまったのさ」

「キールがいたことには気づいてた?」

外から元気な、わん!という声が聞こえた。チャンドゥおばさんは、少し笑顔になって厚い肩をすくめる。

「ウチで首輪を作ってつないでおいたよ、ファティマが迎えに来るまではね」

私は拾った首輪を見た。よく見ればなんとなく、おばあちゃんのハンドメイドで作った首輪と言う感じがする。細い毛糸で編まれた、平たいひも状の輪っかだ。

「そういえばファティマがずいぶん怒ってたよ、ちゃんと謝っておきな」
「置物を壊した事、まだ怒ってた?」

ちょっといやそうな顔をしてしまったみたいだ。軽く脇腹をつつかれた。

「そうじゃないよ、隠そうとしたことに怒ってたみたいだよ」
「……」

私とダルシャンは顔を見合わせた。

「一緒に謝りに行ってくれる?」
「俺が同じこと、言おうとしてたよ」

軽く頭を掻いてため息と共に言うダルシャンと、顔を見合わせて……
私たち三人は、朗らかに笑い声を立てたのだった。

【Fin】

プレイ後の雑感

面白いですね、Hint & Hijinx!
Hint & Hijinxでは、ロケーションを1つ1つ調査していって、見つけた手掛かりを組み込んだ推理を作成します。推理に組み込んだ手がかりの数に応じて最後の推理判定の成功率が上がります。
このプレイログでは「5つ」の手がかりを組み込み、推理判定は「1d10」で行いました。Aransi Daysでは推理判定は5以上で成功なので、実はけっこうギリギリでした。
「6つ」の手がかりを組み込んだ推理をすれば、判定は「1d12」で行うことになります。そして、それ以上の手がかりを組み込むごとに固定値が+1されていきます。なので手がかりを見つければ見つけるほど、確実に正解に近づくことができます。

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