The Widow’s Tale プレイログ

プレイログ

The Widow’s Tale(寡婦の物語)は、夫である王が死に、軍勢に囲まれて今にも落ちんとしている城に残された未亡人となり、この状況から生き残る魔法を編み出すために必死で苦労するソロジャーナルです。生還できる確率は非常に低く、何らかの理由で死亡する確率が高いです。
プレイにはトランプとジャーナルのほか、ジェンガを使用します。

最初のページ

私の夫、この国の唯一にして真なる王、神の威光をその血潮に受け継ぎし者、ライムンド二世がこの世を去った。
私は未亡人と呼ばれるが、もちろんそれは私の名前ではない。魔女と呼ばれることもあるが、それもまた私の名前ではない。私の名前は王妃ベイリリス。この王宮で、今の私はとても孤独だ。
私の防御魔術が城を鎧い、敵が流れ込んでくるのを防いでいる。だが、この魔法がどれほど続くのかはわからない。
この魔法が続いているうちに、私は次の魔法を完成させなければならない。この死にゆく王城から逃れ、生き延びるための、奇跡のような大魔法を。

王が没してから1日目

1d6…5

♦の6 城の明かりが消えかけている。魔法で明かりを灯さなければ。

♣の5 私は王を愛していたのか?本当に愛していたのか?それはどのような愛だったのか?

♥のJ 永遠の眠りの呪文を習得する。

♣の3 王には多くの敵がいた。それは有能ゆえか、無能ゆえか。王は私にどのような影響を与えただろう?

♥の5 古傷を癒す魔法を習得する。

薄暗がりに沈む王宮を彷徨って、燃え尽きた蝋燭の燃え滓を集め、代わりに魔法の光を灯して歩いた。闇に覆われていた壁の彫刻が瞬く灯りに再び浮き上がって、かつての栄華の日々を否応なしに思い起こさせる。
音楽。囁き声。貴族たちの間で流行していた高く硬いヒールの音。衣擦れの音。王の到来を告げるラッパの音。今思えばなんと賑やかだったのだろう、あの権謀術策に彩られた日々は。

我が夫ライムンド二世は、おそらく今や暴君と綽名されていることだろう。政敵を誅し、不敬を罰し、威名を地の果てまで轟かせることに関してはおよそ手段を択ばない、苛烈な君主だった。
本当の彼はもっと優しく繊細なのだ、と言えればどんなに良かったかと思うが、彼の本当の姿は妻である私が一番よく知っている。王のガウンを脱ぎ捨てた本来の彼は、世間から見た暴君のイメージなど生易しいほどにもっと苛烈で、残酷で、暴虐無比の男だ。
彼の名を呟くと、全身の熱が引いて、凍てつくような汗が肌を濡らす。私に向かって伸ばされるあの威圧的な手。男らしい口元によぎる酷薄な笑み。脳裏から離れない。
彼はもうこの王宮にいないのだと自分に言い聞かせても、長年に渡ってしみついた恐怖は消えようとしない。きっと、私のこの乱れた息が絶えるその時になっても。

呼吸をゆっくりと落ち着け、私は目を閉じる。

夫を愛していたのかと問われれば、私は答える言葉を持たない。
ただ、これだけは言える。
彼は、私のすべてだったのだ。望むと望まざるにかかわらず、間違いなく。

燃え尽きていく蝋燭の下で読み解いた魔導書のページは、2つの魔法を私に授けた。
古傷を癒す魔法と、永遠の眠りを齎す魔法。

私の背に刻まれた、王の鞭による古傷は、魔法によって跡形もなく癒えた。
永遠の眠りを齎す魔法は、酷い重傷で苦しみ続けていた近衛兵に使った。
近衛兵の青い眼は死の一瞬、苦悶から解放されて悲しいほど澄み渡っていた。

「最後までお仕え出来ぬこの身の不始末、どうかお許しあれ」

微笑を含んだ忠義の言葉に対して、私は笑むこともできず立ち尽くして、耳を澄まし、ただ彼の末期の吐息を聞いた。
傷ついた近衛の呻き声も絶え、暗い王宮はいっそう静まり返ってしまって、夜が来るのが恐ろしくて仕方なかった。

私は何のために、王の鞭による古傷を治してしまったのだろう。
どんな形であれ、それは夫が残した形見に違いなかったのに!

王が没してから2日目

1d6…4

♣の6 王は私を愛していたのか?本当に愛していたのか?それはどのような愛だったのか?

♥のQ 開錠の魔法を習得する。

♠の6 城の長い廊下をさまよう。

♠のQ 城の武器庫を見つける。

魔導書を紐解くうちに、開錠の魔法を覚えてしまったのは皮肉だった。今の私は、錠の内側に籠らねばならぬ身の上だというのに。宝石箱に鍵をかけ、それを魔法で開いて、何度か手すさびのような練習に取り組んだ。

私の手元にあるこの魔導書以上に、この状況に役立つものが王宮に眠っているとはまず考えられない。無駄なことをしていると自覚しながらも、自室をふらりと出て広すぎる薄暗い王宮をさ迷い歩いた。
物陰に隠れている侍女のすすり泣きが聞こえたが、声を掛けることはできなかった。この王宮に残っている僅かな人々は、城壁の外に詰めかけ刃をぎらぎらと輝かせている反乱軍以上に、私を恐れているに違いないのだ。

我が夫が暴君と呼ばれているなら、私は魔女と呼ばれているに違いない。
もちろん、そのままの意味で、私は魔女だ――私の体を今この瞬間も巡っている、すでに滅んで久しい北方王国の血は、それを受け継ぐ娘に恐ろしい魔力を授けることで有名だ。その魔力の大半は、今は反乱軍に包囲された王宮に防御の魔術結界を張り巡らせることに注がれている。
だが、魔女、という呼び名は、ただ魔法が使えるというだけの意味ではない。

王は意外なほどに、そして危険なほどに純粋だった。正妻に迎えた私以外の女を見ることはほぼなかったと言っていい。王の愛情も、怒りも、苛立ちも、不安も、全て受け止めるのが私の役目だった。
それを光栄なことと言えるほどの強さは、私にはなかった。身体の負担以上に、精神の負担で心が軋んでいた。側妾を迎えてくれればどんなに楽かと思わずにはいられなかった。
傍らから見れば、私が王を狂わせていたように見えていただろう。北方の魔女を妻に迎えて、賢王は変わり果てたのだと。誰もが私を恐れ、その名を呼ぶことすら忌んだ。
だが、それは間違いだ――ライムンド二世は、私ごときの存在で変えられるような、矮小な男ではない。私はこうべを垂れた路傍の草であり、彼はそれをへし折り荒れ狂う嵐。存在の格がそもそも違ったのだ。

長い廊下の先にある扉を魔法で開錠し、部屋に立ち入った。
剣、槍、弓、鎧。そこは、いずれも一級品の拵えの武具が整然と並ぶ武器庫だった。
剣を試しに手に取ったが、重くて振るえそうにない。私の武器は、やはりここにはないようだ。

王が没してから3日目

1d6…1

♠の8 城の礼拝堂に足を運ぶ。

礼拝堂には埃が積もっていた。
礼拝堂に座す壮美な彫刻は、私が信じる神とは異なる姿を表わしている。北方王国の滅亡と共に、我らの神もいずこかへと去ってしまったのだろうか。
どこか冷めた心地で、私は壁面を覆いつくす煌びやかな彫刻の前に跪き、指を組み合わせて像を見上げる。それは祈りの真似事で、祈りではない。薄闇の中に沈む神の像は、私に一瞥すらよこしていないようだ。

王もまた、祈りを好まない男だった。
教会権力との兼ね合いで仕方なく王宮に築いたこの礼拝堂に足を向けたことは、数える程度しかないはずだ。
最初の一回は、私を連れてやってきた。その時、壁面の彫刻はまだ未完成で、滑らかな石に彫刻家が鑿を打ち込む音が響き続けていた。

「くだらぬと思うか」

王は冷ややかに言って、神像を見上げた。

「おれはくだらぬと思う。だが、おろそかにして良いとも思わぬ」

その瞳はどこか遠くを見るようで、私はぞくぞくとする。
王の横顔が穏やかな時ほど、惨たらしい策謀がその頭蓋の中で火花を散らしているのだ。

「教会に侮れぬ力があるゆえではない……祈りが必要な時というのは、どうもあるものらしい。許されねば生きていけぬ弱い者が、この王宮には大勢いる」

それほどの惨事を、これから引き起こすということだ。
官吏か、貴族が、騎士が、神に祈り、許しを請わねばならないほどの何かを。

王が私を見て微笑んだ。
私は震える指を組み合わせて祈りを真似、にっこりと笑って見せた。

追憶が途切れて、今の私はただ孤独に、斜陽も薄れゆく礼拝堂で立ち尽くしている。
私は掌に灯していた魔法の灯りを握りつぶして、垂れこめた闇の帳の向こうに、美しい礼拝堂と、王の記憶を押し込んだ。

王が没してから4日目

1d6…1

♣の9 王が死ぬ直前、私はそれを夢で予知していた。

根を詰めすぎたようで、しばらく寝台でぼうっとしていた。魔導書を手にとってもなかなか集中できず、思考が彷徨ううちに押し込めていた記憶があふれ出してくる。

王は、暗殺者の凶刃に斃れた。
凶事を仕果たしたその暗殺者を打ち砕いたのは、私の魔法だった。

「……為せり!」

私の魔法が生み出した水晶の刃に胸を貫かれながら、暗殺者は血の霧とともにその言葉を喉から迸らせた。
どうと倒れた暗殺者にもはや一瞥もくれず、私は寝台の上で物言わぬ屍と化した夫を見つめていた。

この時が来るのはわかっていた。めったに見ない予知夢を、この前の晩に見ていたから。
夢で見た光景の通り、王は喉を割かれて寝台の上に横たわっている。苦悶し乱れた寝具も、寝間着の淡い生成りの色合いも、見開かれた目の澱んだ色も、すべて夢の通りだった。
私は血の海を踏んで、王の屍に近づいた。ひどく静かになった王の額に指先で触れて、そのまま見開かれた眼に青ざめた瞼を被せた。こうして俯いていれば、もう私の顔を見る者はいない。

唇が、笑みに歪んでいく。
零れる笑いを、止められない。

王よ。

暴君の恐怖に捩れ、震え、千々に乱れ行く暗黒の世。
原因であるあなたがしぶとく命を拾おうなどとは、よもや思っておりますまい。

もとより、我々夫婦が向かう場所など、ここ以外になかったのではなくて?

崩落

防御の魔法が綻びて、城壁が突き崩されていく。
私は魔導書を閉じて、最後の呪文を唱えた。

永遠の眠りの魔法。
罪深い魔女にはぜいたくなほどの、苦痛なき安らかな眠りがもうすぐやってくる。

寝台に横たわって、頭上に垂れ込める闇を眺めた。
反乱軍の足音が幾重にも重なって、大きな生き物の鼓動のように響いている。
王が没してからのこの数日間は、とても孤独で、とても安らかだった。孤独であることは、きっと私によく似あっていたのだ。死後の世界に何があるにしても、一人安らかに居続けたい。だからこそ――

「われらの神よ」

呟く。

「願わくば、此の死出の旅をば独り歩ませたまえ」

そこにいない神に一言祈って、私は目を閉じた。

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