このゲームについて
「Pyres of a Cursed Kingdom」は、トランプを用いて王国の命運を背負った巡礼の過酷な旅を描くソロジャーナルです。
日本語訳もされている「Her Odyssey」と同じAspire SRDを使用したシステムです。
Pyres of a Cursed Kingdom is a Miracle M game created by Moro de Oliveira and is licensed under the BY NC SA 4.0 license.
URL: https://miraclem.itch.io/pyres
このプレイログについて
このプレイログは「Pyres of a Cursed Kingdom」を基に作成されたものであるため、当該作品と同じくCC BY-NC-SA 4.0のライセンス下で公開されます。製作者はぱむだです。
導入
王国はもはや呪いによる災厄を避けられない。
次の”皆既日蝕”を以て、呪いはついに絶対のものとなるだろう。
民の魂はことごとく貪られ、大地はとこしえに呪われる。
それを防ぐ方法は一つだけ。
古代の書物に記された、二つの「聖なる篝台」に火を灯す。
さすれば、この絶望的な呪いは王国の大地より払われ、真なる夜明けが訪れるだろう。
薪に火を灯すために、一人の巡礼者が旅立つ。
彼女の名は——
巡礼の作成
私の名前はアグナ。18歳の女性、赤い髪、金色の眼。
王国の聖なる篝台を目指す、最後の巡礼だ。
最後というのは、私が失敗したらもう後はないという意味だ。
私の能力値は以下の通り。
Steel 3
Wisdom 1
Edge 2
Cunning 1
Steelは力強さ、強靭さ。私はこれに優れている。Edgeは敏捷さ、素早さ。十分な鍛錬を積んできた。知恵・共感(Edge)、推論・知覚(Cunning)……そういったものは、あくまで人並といったところだ。
私は腐敗しゆくこの偉大なるアナトリア王国の騎士だ。策謀は不得意だが、積み重ねてきた鍛錬は裏切らないだろう。
プレイヤーはジョーカーを抜いたトランプから引いた14枚のカードの山を2つ作り、それぞれにジョーカーを1枚ずつ入れてシャッフルし、この2つの山を合わせました。これがイベントカードの山札となります。
このゲームは、1日の始まりにイベントカードを1枚引き、それに応じた出来事をジャーナルして、適宜判定を行うことで進行します。
巻末には性質・場所・行動などのd100オラクル表が多数用意されているので、これを任意で振ることで起こった出来事について更にイマジネーションを膨らませることもできます。
判定は、「使用する能力値の数だけ10面ダイスを振り、1つでもイベントのカードの数以上の出目があれば成功」という形式です。10,J,G,Kは全て「10」と換算します。
判定によって重要なリソースである「魂」が増減することがあります。1つでもイベントのカードの数以上の出目があれば成功、2つ以上あれば大成功※(魂を1点獲得)、1つもなければ失敗(魂を1点失う)、失敗してる上にゾロ目が1つでもあれば大失敗(魂を2点失う)です。魂を消耗した状態で旅を終えると、バッドエンドの危険が大きく高まります。
カードのスートによってイベントの内容は4つに分類され、それに応じて使用する能力値も限定されています。敵との遭遇(♠)ならSteelかEdgeのみ、など。同じ能力値を2日以上続けて使用することはできません。
ジョーカーを引いたとき、聖なる篝台に辿り着いたことになります。2つ目の篝台に火を灯したとき、旅は終わります。
※本来は「成功しかつゾロ目があれば大成功」ですが、途中までこのルールで進めちゃったので今回はこれで通します。
ジャーナル
1日目
イベント…♠のJ/敵と遭遇。”魂なき狩人”
性質…97/狡猾な
場所…63/墓標
行動…40/破壊
呪いに魂を蝕まれ怪物と化した狩人たちが、死者の安息を約束するはずの墓地を荒らしまわっている。そこに残されたわずかな罪なき魂すらも墓の下から掴みだし、貪り食い、呪いに蝕まれた空虚を埋めようとしているのだ。そうして、彼らは約束の”皆既日蝕”を待ち望んでいるのだろう。
非常に強力な敵だ。だが、見逃すわけにはいかない。私は剣を抜き、静かに狩人たちに歩み寄った。
「死者に安寧を。邪悪に断罪を。災厄に浄化を」
私は静かに唱えながら、暗い空のわずかな光を縁に宿してつるりと滑らせる鋭い刃を狩人たちに向けて構えた。
敵は3体。1体でも手こずる敵だというのに、彼らは連携を得意とするのだ。厳しい戦いになりそうだ。
ダイスロール(Steel)…2,2,3/大失敗
魂なき狩人と切り結ぶが、敵の力量は侮れないものだった。鮮やかな黄緑の朧な光を眼下の奥に揺らがせながら、狩人は鎌の刃をついに私の胸に突き立てる。冷たい刃が肉と皮膚を裂き、温かな血肉から魂の欠片を確実に奪った。
私はその場に頽れそうになり、剣を杖に何とか逃げ出した。
魂:10→8
2日目
イベント…♠の5/敵と遭遇。”魂なき魔女”
性質…63/凶悪な
場所…30/神殿
行動…74/猖獗
死者の安寧を守ることが出来なかった屈辱は、私の心に暗い影を落としていた。だからこそ、旅人の止まり木となる村に到着したとき、おぞましい流行り病が民を苦しめていると聞いて、私はどこか猛るものすら感じていた。
私は守るべきもののために戦うのだ。騎士の刃は、その病を流行らせている魔女の悪しき皺首へ向けて振るってくれよう。
ダイスロール(Edge)…10,6/大成功
魔女の討伐は完全にうまくいった。病を振りまく邪悪な儀式を止めさせ、その魂を失った邪悪な肉体を焼却する。この成功は私の魂を多少なりとも癒したが、安全になったところで村に長居することはできない。私は死にゆく朝日が暗い空を染めるのを待たず、旅を続ける。
魂:8→9
3日目
イベント…♣の4/災害。噛みつくような疾風
テーマ…51/慈悲
王国の大地は起伏に満ちている。王国を旅して薪に近づくためには、様々な地形を踏破する必要が出てくる。
「天の絶路」とも呼ばれる天険の、崖に臨した危険な山道を、私は一人登っていく。マントを肩に巻きつけ、身を低くして、吹き付ける風に体を攫われないように、靴底に取り付けた棘を地面に食い込ませる。
登山の心得を必死に思い出し、見下ろすだけでめまいがするほどの谷底に風一つで気まぐれに攫われる、その破滅的な時が来ないように祈り続ける。
ダイスロール(cunning)…6/成功
私は「天の絶路」を踏破し、古き伝説が残る地シルヴァーン高地へ踏み入った。
魂:9
4日目
イベント…♥の6/旅人と遭遇。神経質な人物
性質…100/放棄された
テーマ…41/誇り
シルヴァーン高地はすでに荒廃していた。魂を失った怪物たちにとって、昔語りの地の民はただの餌でしかなかった。もはや陥落し放棄された砦に行きつき、私はそこで一晩の眠りを得ようとした。
「誰か!」
鋭い誰何の声と共に、弩弦を巻き上げる微かな軋みが聞こえた。私は油断なく剣の柄に手を掛け、半壊し静まり返った厩の壁に飛び込んで身を隠した。
空はすでに暗く、砦には病んだように赤い夕陽が射しこんでいる。揺らぐような斜陽は暗闇以上に目を惑わせ、声の主がどこにいるかをはっきりさせるのも難しい。若い女の声のようだが……。
私は焦げた木の壁にぴたりと背中を押し付け、声を張り上げた。
「人の言葉を話せるなら、お前は人間だな。私もそうだ。戦う必要はないはずだ」
「怪物のみが人を害するわけではない」
声の主は冷淡に言い切った。私は眉尻を逆立て、声を荒げる。
「だが、すでに滅亡に瀕したこの地で、今更人同士で争ってどうなるというのだ。理が通らぬ話だ」
「理屈が通らぬのが、破滅というものだろう」
そんな話をしているんじゃない。私はいらいらと叫んだ。
「戦う必要はないと言っているんだ!」
「それは貴様の事情だ。死にたくなければ、ここを出て行け」
緊張感が肌にぴりぴりと走る。弩がどこかで構えられている。射線が通る場所は限られているが……どこまで対処できるかは未知数だ。なによりこのままでは、守るべき王国の民との戦いになってしまう。
言葉だ。この射手を、説得しなければ——
ダイスロール(Wisdom)…1/失敗
私が口を開いたその時、短い弩の矢が、私の首をかすめて壁に突き立った。射線が通ったことで木々の陰に隠れて立つ射手の姿がようやく見定められるようになるが、そのころには射手は次の矢を構えている。
「なぜ……!」
私は絞り出すように叫んだ。射手の表情は判然としないが、返された声は暗い屈辱と悲しみに沈んでいた。
「これは、誇りの問題なのだ」
もはや、言葉が通じる段階は過ぎている。話し合い、分かりあえるはずの、人間同士であってもだ。
私は剣の柄から手を離し、手を軽く挙げて歩き出す。砦を立ち去るその時まで、射手の視線は私の背中に注がれていた。
魂:9→8
5日目
イベント…♦の4/悍ましき絵画
場所…77/トンネル
テーマ…85/劫罰
暗いトンネルを、松明を頼りに歩く。揺らぐ炎がわずかに先の道を照らす。圧し掛かるような暗闇は、私のか細い存在すら絶望に染め上げようとしているかのようだ。
王国の古き伝説に記された「聖なる篝台」。その所在を知ることは、王国の古き歴史を知ることに繋がる。だからこそ、このシルヴァーン高地に残された遺構、その地下に降りる道を見つけた時、私は迷わずその闇に満ちた危険な道を目指した。
この先に何があるのか。あるいは、何もないかもしれない。危険が口を開けて私を待ち受けているかもしれない。安全を確保しながら進めるほどの余裕は、私の巡礼の旅にはない。
「この道……」
私はふと足を止めた。つづら折にどこまでも続くトンネル。思っていたより道幅は広く、堅牢な壁に守られた空間は荒廃していない。ここはただの道ではない。この空間自体に、何か意味があるのではないだろうか?
私は松明を持ち上げた。頼りない炎が、トンネルの壁を照らす。
そこには、絵が描かれていた。極彩色の塗料がきっちりと塗り込まれているのが目に留まる。
赤。それも、とても鮮やかな赤。
「——……!」
私は息を飲み、立ち尽くした。まるで釘付けになったかのように、目が壁面から離せなくなる。
そこに描かれていたのは——
「これは、呪いの……起源」
——アナトリアの民は、古くより「魂」の解明を行っていた。
「魂」は人の奥深くに秘され、その全容を見せぬ奥深いもの。それを深く知るためには、「解剖」を行う必要がある。そう、人の肉体に刃を差し込み、取り出した魂に無限大の業苦を与えることでしか、人は「魂」に迫れないのだ。
最初は死罪人を使っていた。次は奴隷を。だが、それでも真理に迫ることはできなかった。
アナトリアの王は一計を案じた。
「人の肉体であるから、禁忌なのだ」
アナトリアに住まうのは、純然たるアナトリア人だけではない。遠き昔、戦乱を逃れてこの地に移住したエルスの民。王は、彼らを「人ではないもの」と定めた。それは神がこの地に齎した恵み、生まれながらにして消費され、酷使され、解剖されるために存在している、人の似姿をした「畜生」であると。
魂の解明は、無限の恵みへ繋がる。無数のエルスの民の魂を礎に、アナトリアの栄華は極まっていく。
だが、誰も気づいてはいなかった。
魂は、貫かれ、切り裂かれ、引きはがされ、そして捨てられても、滅びることはない。だからこそ、魂への責め苦は終わることなき苦しみなのだ。
廃棄された魂は、そのおぞましき悪行への尽きぬ恨みを抱いて漂う。
この地の長き歴史を経て、消耗されつくしたエルスの民の魂は、王国を飲み込む「呪い」となったのだ。
私はその受け入れがたい歴史に青ざめ、立ち尽くしていた。
我らの偉大なる王国は、そんなにも恐ろしい犠牲の上に成り立っていたのか。
そして、王国を飲み込む呪いとは……。
ダイスロール(Cunning)…5/成功
私はその恐ろしい歴史を描いた絵画の前にこうべを垂れ、しばらく瞑目した。
「すでにこの地は呪いに溢れ、赦しなどどこにもない」
諦めを込めて、呟く。
「それでも……」
それは欺瞞かもしれない。傲慢かもしれない。
だが、誓いだ。
「それでも、私はこの国を救うのだ。私のために、私のたったひとつの魂のために」
魂:8
6日目
イベント…♠の2/敵と遭遇。”魂なき修道女”
性質…55/感傷的
行動…59/悲嘆
テーマ…22/遺産
王国の恐るべき歴史が描かれた「語り部の回廊」の先には、荘厳な礼拝堂があった。
石造りの遥か高い天井には、無数の交差する鋭利な穹窿が張り巡らされている。どこから差し込んでいるのか、乳白の光が、静謐な空間を柔らかく包んでいるようだ。
その光は大理石の柱を伝い、壁龕に並ぶ聖者たちの彫刻に触れては、頬や指先に鋭い影を刻みながら流れ落ちて、まるで息づくような緊張感を漂わせていた。
床は磨き上げられた黒い石で敷き詰められ、歩むごとにかすかな反響が響く。空気には乾いた香草と蝋燭の匂いが混じり、遠い時の彼方から祈りの余韻だけが残されているかのようだった。
私は黒い敷石を踏みしめ、歩みを止める。
ここは地下深くのはずだ。この美しい光は、いったいどこからくるのだろう。
それに、この清冽な空気は、幾百年も地下に秘されていた場所のものではない。
静かな足音が響く。
磨かれた床に翳るような影を落とし、一人の痩せた女の姿が祈祷台の前に佇んでいる。
焦げ茶の布で髪をまとめた、質素なローブを着た修道女。だが、ただの修道女であるはずがない。
私は警戒を滲ませ、身構えた。
「幾億の祈りの果て、ついに悪しき太陽はその眩き眼を閉じる」
修道女の声はおごそかで、悲しみに満ちていた。
朽ちた肉の眼窩に、鮮やかな黄緑の光が揺らぎながら灯る。
私の前にいるのは、間違いなく「呪い」によって魂を失った怪物だ。だが、人の言葉を口にして、確かな知性さえ感じさせる。何より、この場所の神聖ともいえる空気はなんだというのか。私はたじろいで息を飲み、まずはその動きを見ることしかできない。
“魂なき修道女”の眼窩の光は、私を見据えているようだった。
「アナトリアの騎士よ、ようこそ。歓迎されざる来訪を、それでも私は歓びます」
(話しかけてきた、だと……)
魂を失った怪物と会話が成り立ったことなど、今までなかった。どうやらこの修道女は、ただの怪物ではないようだ。古き歴史を秘したこの礼拝堂で、何かしらの役割を負ってここに存在し続けたのだろうか。
“魂なき修道女”の声が、静謐に響き続ける。
「ここはエルスの民の魂を慰めるための礼拝堂」
私は胸を突かれる思いで、わずかに後ずさった。
不滅の魂を辱められ、苦しめられたエルスの民たち。その魂が漂い、集まり、この王国を飲み込む災厄を引き起こそうとしている。
だが、その魂は、本来ならばこの荘厳な礼拝堂で慰められ、眠りについているはずだったのか。
ならば、なぜ、この災厄は起きたのか。
「アナトリアの王は、自らが辱めた魂の怨念を恐れ、この場所を創った。
そして、エルスの祷り手たちに命じ、その尽きることのない憎悪と怨嗟を祈りによって縛り付けさせたのです」
その簡潔な言葉が語る、為政者のあまりの醜悪さに、私は眩暈すら覚えた。
アナトリアの王は、エルスの民は人ではないと断じ、数々の非道な行いを許しておきながら、引き裂かれた魂の怨嗟を封じるために、またもエルスの民を利用したというのか。
そこには同胞への想いも、魂の安寧もない。ただただ、力と栄華を求める人間の残酷さがあるだけだ。
修道女の干からびた両手が、胸の前で祈りの形に組まれた。
尽きることのない悲しみが、その声には込められていた。
「この礼拝堂は……慰めの場ではなく、永遠の檻」
「……だが、その檻はとうに破られている」
私は低い声で指摘した。
エルスの民の魂はすでに王国に溢れ、この災厄を引き起こしている。
この礼拝堂は、エルスの民の魂を鎮めることはできなかったのだろうか。
(いや……)
目を逸らしている。自覚はあった。その問いの答えは、分かっている気がした。
修道女は、ゆっくりと私に歩み寄ってくる。
「エルスの民は、人ではない。
お前たちの王が、そう言ったのだ。
人ではないのだから、人との約束など。王の命令など」
その声は僅かに震える。笑っているのだろうか。
「我々、エルスの祷り手こそが、呪いを編み上げた。
引き裂かれ、苦しむ同胞の魂を王国に放ち、幾百年後のこの王国で、災厄をもたらす”偉大なる呪い(ダムネーション)”を造り上げるために」
やはり……。
アナトリアの王は、エルスの祷り手を隷属させて、エルスの民の魂を封じたつもりでいた。だが、それは最初から成し遂げられてなどいなかった。
それは当然だ。先に裏切ったのは、王の、王国の方だったのだから。
「この災厄の元凶が、貴様というわけか」
私は吐き捨てた。修道女は、首を振る。
「”元凶”がエルスの祷り手……。
その言葉が真実であるかどうか、あなたはすでに分かっているはず」
「黙れ!」
元凶。これを引き起こした全ての根源。それがなんであるか。
目を逸らすことはできない。これほどの悲劇を引き起こした、アナトリアという国の罪から。
(私に何ができるというのか——エルスの民を前にして!)
揺らいではいけない。戦わなければいけない。鋼のように、確かな心で。
ダイスロール(Steel)…8,6,7/大成功
剣の一閃が、修道女の痩せこけた体を切り捨てた。
皮と委縮した肉が張り付いただけの喉が、かそけき息をけは、と吐いて、力なく言葉を零す。
「幾億の……祈りの果て……」
「ついに……悪しき太陽は……その眩き眼を閉じる……」
私は剣を下げ、黒い床の上で音もなく砕けていく修道女の肉体を見下ろしていた。
「それは、呪いだ。祈りなどではない……」
「お前たちは、同胞の魂をすら呪っていたのだ。王国への憎悪に取りつかれ……虐げられた者の安寧を祈る務めすら、忘れてしまった」
吐き捨てる。
修道女の眼窩に灯る黄緑の光が揺らぎながら消え、呪われた肉体はそのまま動かなくなった。
魂:8→9
7日目
イベント…♥の10/旅人と遭遇。恐怖に怯える人物
名前…71/イゾルデ
背景…24/盗賊
性質…48/不屈
場所…67/村
テーマ…27/執着
礼拝堂を去り、地上の風を浴びる。朽ちゆく王国の風は変わらず荒んでいるが、新たな空気を十全に持ってきてくれる。私はまだあの礼拝堂の香草のにおいを付けたままの髪を風に放ち、今自分がいる高台から見渡せる風景に視線を配った。
幾つかの民家が集まっている集落があるようだ。この古き伝説が残る地で暮らしてきた人々なら、何かを知っているかもしれない。私は下に降りる道を探すことにした。
陽が落ちるころ、私はようやくその集落への道を見出した。踏みしめる人もいなくなり黄色によじれた下草に埋もれつつある小径へ、私は長い影を落として急ぐ。
しかし、その足は夕闇を徹して響く金属音を聞きとめ、止まった。
(戦っている……いったい誰が?)
私は剣を抜き放ち、走った。集落の近くで起きた戦闘。魂なき怪物たちが民の血肉を貪っているのかもしれない。そうであれば、見過ごすことはできない。
すでに黒い影に沈みつつある木々に飛び込んで、走る。古ぼけた金属鎧を着た虚ろな肉体が、錆びた剣を誰かに向かって振りかざしているのが見えた。呪いによって魂を貪られ怪物と化した、”魂なき戦士”の姿だ。
凄まじい膂力で振り下ろされた分厚い刃を、研ぎ澄まされた短剣が受け止めた。火花が走り、一瞬だけその短剣を持つ人物の指や手首が照らされて目に焼き付く。しなやかで細い、女のものだ。
「助太刀を!」
私は叫んで剣を走らせ、怪物の背を断ち割った。
「! お前は……?」
「私はアグナ、アナトリアの騎士!」
頽れていく怪物を眼下に、私は決然と名乗る。
怪物と戦っていた人物は、小柄な女性のようだった。擦り切れた木綿の服に分厚い皮の胴着、骨片と鉄辺を縫い付けた重そうなマントをその上から羽織っている。澱んだ水のような暗緑の目と、短く不揃いに切られた焦げ茶の髪は、ますます濃くなる夕闇の中で半ば沈んでいるようにすら見えた。
女性は短剣をぱちりと仕舞い、上がった息をゆっくりと整えた。
「怪物と戦う時は、いつも一人が相場さ。助けが来るとはね」
「一人、この地を守るために孤独に戦っていたのか。私は貴方に敬意を表しよう」
「よせよ。降りかかる火の粉を払ってるだけだい」
その手が額を拭い、はりついた髪の束を払う。
「イゾルデ。私の名前だ。元は盗賊……騎士様相手に名乗りたかないがね」
「イゾルデ、か」
私は呟くように、その名を繰り返した。
「夜の宿が要る。案内してはくれまいか」
「旅人なんて来る場所じゃない。宿屋はないよ」
「厩でもいいんだが」
呟くように私が言うと、イゾルデはじゃらりとマントを翻して歩き出した。振り向く横顔は宵闇にもわずかに白く、その凍りついたような表情と瞳の奥の澱んだ疲弊が見て取れた。
「情けない顔をするもんじゃない。私の家でよければ、一晩くらい休んでいきな」
集落の人々は怯え、疲れていたが、イゾルデへの感謝を惜しむことはしなかった。どうやらイゾルデは、たびたびこの集落の見回りを行っては魂なき怪物から民を守っているようだ。イゾルデの表情は硬いが、村の人々から向けられる賛辞にはにかんで答える声は柔らかかった。
彼女は盗賊と名乗ったが、それも昔の話のようだ。破滅の迫る大地では、賊も民も手を取り合う。この試練を乗り越えた先に、アルトリアの未来があるとしたら、それはより正しく美しいものになるかもしれない。イゾルデの家へと招かれながら、私はついそう思わずにはいられなかった。
夜が更けていく。
イゾルデは簡単なスープと、塩水で炊いた雑穀を私に提供した。
これほどのもてなしを受けるのは気が引けると断ろうとしたが、「戦えば腹も減るだろう」と言われて思い直した。彼女は、私を共に戦う戦士として認めてくれたのだ。
「温かい食事はありがたいな」
「騎士様なら、こんな粗末な飯など飲み込むこともできまいと思っていたがね」
「なんの、身に余る馳走だ」
私はスープの湯気を吹き、ぎこちなく笑った。
イゾルデはテーブルの向こうで、古びた椅子に斜めに座り、しばらく私をじっと見つめていた。
「あんた、旅をしてるんだね」
「そうだ。あてのない巡礼の旅だ」
「こんな大変な時代に、旅なんて。変わり者だね」
変わり者だから旅をしているわけじゃない。だが、それをわざわざ指摘する気も起きない。私は匙でスープの中の半透明になるまで煮込まれた鱗茎を掬い上げ、口に運んでから言った。
「私も一人で戦っていた。誰かと共に戦えるというのは、心強かった」
「共に? お前の一太刀で終わったじゃないか」
せせら笑うイゾルデを、私は真摯に見据える。
「あの時、我々は確かに共にいた。あなたが戦っていたから、一瞬で怪物の背まで迫れたのだ」
「ふん……そうかもねえ」
イゾルデは頬杖をつき、私をじっと見つめた。
「あたしはね。この時代になって、やっと居場所を見つけたんだ。王国の空が青く晴れていたころは望めなかった、まるで英雄みたいに遇される場所」
英雄、か。
私はその言葉に複雑な想いを抱く。
盗賊が集落に流れ着き、怪物と戦う。
そうして、盗賊は英雄と呼ばれることになった。
恐れ、怯える人々の心にこそ、英雄は生まれるということなのか。
イゾルデの暗い瞳が、私を見つめる。
「あんた、巡礼なんだろ。『聖なる篝台』を探す、最後の巡礼」
「……なぜ、それを」
私は匙を止めて尋ねるが、イゾルデは構わず続ける。
「篝火が灯されたとき、この呪いの時代は終わる。王国を飲み込む災厄はなくなって、空は青く晴れ渡る」
「ああ……そうだ。私は、この王国を救いたい——」
たとえ、それがどんな業苦に満ちているとしても。
続けようとしたその声は、言葉にならなかった。
口が痺れ、喉がひきつり、息ができない。私は喉を掻きむしってのたうち、そのまま椅子から滑り落ちるようにして床に音高く倒れた。
「……!」
私の喉から力なく、ただ擦れたような息が漏れる。
イゾルデはテーブルに頬杖を突いて憂えた目のまま、私を見下ろすことすらしないようだ。
「終わらせない。終わらせるもんか」
イゾルデは、暗い声でぼそりと呟く。
「この暗い空を、私の英雄の日々を、呪いの時を」
ダイスロール(Wisdom)…4/失敗
イゾルデは私の食事に毒を盛ったようだ。窒息が癒えず、口を大きく開いてばたばたと藻掻くうちに、私の意識は遠ざかっていった。
魂:9→8
8日目
イベント…♥の3/旅人との遭遇。禁欲的な人物
名前…42/ライザ
背景…53/鍛冶屋
テーマ…14/裏切り
あのとき、私の体は引きずられていた。シルヴァーン高地の高い崖から投げ落としてしまえば、私のような旅人など来なかったのと同じになる。イゾルデは至って手軽に、確実に、私をこの呪われた大地から消そうとしていたのだ。
毒が回った手足は完全に力を失い、抵抗できない。私は力なく呻いて、もがくしかなかった。
崖が近づいてくる。
「イゾルデさん」
そのとき、静かな声に呼ばれて、イゾルデは振り向いた。
そこには鍛冶屋の厚いエプロンを付けた、背の高い少女が立っていた。アッシュブラウンの煤けた髪をうなじの上でくくった、化粧っ気のない娘のようだ。
「誰です、その女の人は。何をしてるんです」
「あんたの知ったことじゃないよ、ライザ」
イゾルデはすげなく言うが、ライザと呼ばれた少女は立ち去る気配を見せない。大股に近寄って、崖に向かうイゾルデの道を阻むように立つ。
「その人が誰だろうと、止めないわけにはいきません。こんなところから投げ落としては、死んでしまいますよ」
「こんな世の中だ。人一人死んだところで、誰も気にしやしないさ。取るに足りないことだよ」
イゾルデは冷笑を声に含ませて言う。
ライザはしばらく黙り込み、絞り出すように言った。
「人の命が、取るに足りない世の中なんて、ないですよ」
「あんたのような甘えたガキに、何が分かるってんだ」
二人はしばらく黙り込み、対峙しているようだった。
はたせるかな、ついに「なあ」と切り出したのはイゾルデが先だった。沈黙に耐えかねたのか、それとも。
「ライザ、なんであたしの邪魔なんかするんだ? あたしはあんたが大好きさ。あんたに慕われて、あたしは嬉しかった。あんたが鍛えた剣で怪物を倒したと言った時のあんたの笑顔に、あたしは心底報われた気がしたんだよ」
「……」
ライザは黙っている。イゾルデは私の脚をひきずり、崖に向かって一歩を踏み出した。そして、すぐに歩みを止める。ライザはそこからどかなかったようだ。
イゾルデの声に苛立ちが混じる。
「この女は集落を襲おうとしていた悪党さ。だから、あたしが始末するんだ。そこをどきな」
「どきません」
ライザの不愛想な声が、きっぱりと言い切った。
「あなたは私に嘘をつこうとしています。今の、そんなあなたに従うのは……イゾルデさん自身への、私が大好きな、この集落を幾度も救ってくれた英雄への侮辱だ。そう思います」
「あんたの理屈に付き合うのも飽き飽きだ」
イゾルデが吐き捨てる。私はその険しい顔を見上げている。視界は暗く、ちりちりと粒子が舞っているようで乱れているが、周囲の状況を確認するのに不自由はない。
私の聴覚と視覚は、十全ではないが戻ってきているようだ。毒の影響を堪えて、イゾルデの手を振り払うことはできないだろうか?
ダイスロール(Steel)…1,4,4/大成功
私はイゾルデに掴まれていた足を力強く振り下ろし、その手から抜け出した。地面に手を突いてよろつきながら身を起こし、振り向いたイゾルデの頬に固めた拳を叩きこむ。
「ぐっ!?」
打撃音と、衝撃。まともに入ったはずだ。十全の状態なら脳を揺らして一撃で昏倒させているところだが、どうしても力が入らない。
イゾルデは大きくよろめいて顔を押さえ、私を睨んだようだが、それを悠長に見ている時間はなかった。私はライザに向かって、叫んだ。
「私は”巡礼”だ!」
「……!」
ライザが目を見開く。やはり、この集落の人間は王国の伝承に詳しいようだ。イゾルデが私を簡単に”巡礼”と見抜いたのも、この地に息づく何らかの伝承の知識によるものだったのだろう。
そして、このライザという名の少女も、”巡礼”を知っている。
これは賭けだ。ライザもまたイゾルデのように呪いの終焉を望まない、歪んだ執着を抱えた人間だったら、私はここですべてが終わるだろう。
だが——
(そうはならない)
その確信が、私にはあった。
呪われた大地で、人は様々なものを失う。ただ生きていくだけで、生きようとしただけで。
だが、この少女には、それでも明日を望む希望の光がある。
見開かれたライザの灰色の瞳が、イゾルデを信じられないと言った顔で見据える。
「イゾルデさん、あなたは、なんてことを!」
「ハッ、そいつの言葉を信じるってのかい!」
イゾルデが凶悪に唇を歪め、嘲笑を含んだ声で詰問する。
ライザはもはや、それに応える言葉を持たないようだ。さっとかぶりを振って駆け出し、私の手を取る。その暖かな手の感触に、自分の手足が冷え切っていることを知る。
「巡礼さま、こちらへ!」
ライザは私の手を引き、駆けだした。
魂:8→9
9日目
イベント…♠の3/敵との遭遇。”魂なき学者”
場所…24/坑道
私は見知らぬベッドで目覚めた。ライザの手当てを受けていたようだ。毒はまだ体にまとわりつくようで、手足が酷く重い。だが動けない程度ではなさそうだ。
ライザは、ベッドの傍らに置かれた椅子に腰かけていた。私が目覚めたのに気づいて、こちらに顔を向ける。
「巡礼さま。目が覚めたようですね。体の具合は」
「戦うのに支障はない」
ライザの喜びも驚きもない淡々とした声に、私もまた呟くように答えて身を起こした。
鎧と剣は毒で昏倒した際にイゾルデに取り上げられてしまったようだ。この旅の間常にそばにあった相棒を求めて、つい傍らを手で探してしまう。
「ここは鍛冶屋です。武器なら、ありますよ」
「それは、頼もしいことだ」
にこりともせず、私はため息交じりに言った。
「よく、信じてくれたものだ。私が巡礼だということを」
「呪いが空を覆う時、『聖なる篝火』を目指す巡礼がこのシルヴァーン高地を訪れる。この村の者なら誰もが知る伝承です。あなたがそうであるかどうかは……もちろん、その言葉を信じるしかありませんでしたが」
私はしばらく目を伏せていた。
二人の会話からすると、ライザはイゾルデを慕っていたようだ。そして、イゾルデはこの村を守る英雄でもあるという。ライザがこのような経緯で私を助けたことがどのようなトラブルを産むのか、現時点では想像もつかない。
やはり、ここに長居すべきではない。私はベッドに手を突いて足を床につけ、のっそりと立ち上がった。
「『聖なる篝台』の場所に繋がる伝承を、何か知らないだろうか?」
「はい、道についての伝承があります。呪いが空を覆った時に開く、試練の道」
ライザの淡々とした声に感情の波立ちは全くない。少しだけ心配になった。この少女は、普段からこうなのだろうか? それとも、イゾルデの本性が、そんなにもショックだったということなのだろうか。
差し出口を叩くタイミングもつかめず、ひとまず脱がされてベッドの上に置かれていたらしいコートを取り上げて着る。
「案内してくれるか、ライザ」
「……巡礼さま」
静かに呟いて、ライザは私を見た。
「呪いが空を覆い、試練の道が開いたとき、その道は、すでに怪物で溢れていました。そうでなければ、きっと……」
ライザの言葉が何を意味するのか、私はすでに分かっていた。
そう、もしその試練の道が容易く侵入できるものだったなら、イゾルデは自らその道を進み、『篝台』をその手で毀していたに違いない。怪物の脅威が『篝台』を守っていたというのは、皮肉な話だ。
「その道を進むなら、群為す怪物を打ち倒すだけの力が要る。そういうことだな」
ならば、話は早い。
私は静かに、力強く言い切った。
「私は、騎士だ。その力が、私にはある。あなたの剣が、私を強くするだろうから」
「……ええ。こちらへ」
ライザは立ち上がり、私を鍜治場に案内した。
ダイスロール(Edge)…9,8/大成功
ライザに与えられた剣は、私の手にしっくりと馴染んだ。振るった刃が魂なき怪物を切り倒し、試練の道が目の前に開けた。
試練の道は地下に続いているようだ。私は剣を片手に、離れて私を見送るライザを振り向いた。
「イゾルデに、気を付けろ。あなたは彼女の秘密に触れた。排除されるかもしれない」
「それでも、イゾルデさんはこの村を守ってくれたんです。私にとって、敬愛すべき英雄です。敵だなんて思えない」
ライザは静かに言った。
「この集落で、あなたの巡礼の達成を待っています。この暗い空が、青く晴れ渡る日を」
「必ず成し遂げる」
私は短く、はっきりと言って、暗く長い「試練の道」へと踏み出した。
王国は、呪いに覆われている。
それはこの王国が抱える、暗く深い原罪がもたらしたものだ。
呪いを打ち払うことは、必ずしも正しく、輝かしい事とは言えないのかもしれない。
それは古き罪を、これまで通りそこにいろとばかりに歴史の闇に押し戻すだけの、傲慢な行いなのかもしれない。
それでも——光を見出して、そこに向かって進むしかない。
私は、巡礼なのだから。
魂:9→10
10日目
イベント…♦の2/不思議な文字
行動…6/闘争
テーマ…10/運命
「試練の道」の、魂なき怪物との戦いは熾烈を極めた。
この呪いについて知った今ならば、私にもわかる。彼らはただ呪いに魂を食われた民ではなく、エルスの民の成れの果てだ。王国への憎悪のもとに呪いを編み上げ、放ち、それを「皆既日食の日」に向けてよりいっそう深めんとする、その意志だけで長き時を越えてきた悲しい歴史の証人たち。
そう、彼らには、意志がある。これまで私が戦ってきた怪物のようにわけもわからず私を襲っているのではなく、『聖なる篝台』にアナトリア人である私が到達するのを明確に阻もうとしているのだ。
それは、間違いなくこの道が『聖なる篝台』に続いている事を示してもいた。
「エルスの民よ、とこしえの呪いと化した者たちよ」
群為す怪物を前に、私は高らかに呼びかける。
「王国の巡礼はここだ! 冷酷なる時代に踏み躙られ葬られた無念、この身へ存分にぶつけるがいい!」
怪物たちの怨嗟の叫び。
我らが王国が、彼らに赦されることは決してないのだろう。
胸が痛む。悲しみが満ちる。
それでも私の刃は冴え渡り、呪いの紡ぎ手たちを一人、また一人と切り伏せていく。
そうして、不意に静寂が訪れる——
私の目の前には、扉があった。
石造りの扉には、黄緑に輝く燐光が宿り、奇妙な文字を浮かび上がらせていた。
《唱えよ》
《篝火にて焼かれるべきは、呪いか、祈りか》
謎かけか?
私は剣を片手に下げ、しばし考えた。
呪い。
それは、この大地を覆い、災厄をもたらすもの。
祈り。
それは、エルスの民の悲嘆で紡がれ続けた歴史の経糸。
呪いが王国を蝕み、祈りが呪いを培う。
私が焼くべきは——
私はゆっくりと呼吸を整え、指先で扉に触れた。
指先に黄緑の燐光が集まり、それが描く線に追随する。
問いの下に、私は書きつけた——
「呪い」と。
ダイスロール(Wisdom)…3/成功
「人の心は、根を断ち、元から枯らすことはできない」
悲しみを込めて、私は呟く。
「悲しみが、恨みが、祈りがそこにあり続けるとしても、それが王国の真実なのだ。
そこに、私ができることなどない」
私は巡礼だ。裁くことはできない。変えることはできない。
エルスの民に対してできるのは、ただ、祈ることだけ。
その魂が慰められ、安らかであることを。
「私が剣にて為すべきは——民を貪る呪いを、打ち払うこと」
その呟きを聞いていたかのように。文字を描いていた黄緑の燐光は揺らぎながら渦巻き、扉の中央、一か所に集まる。渦を巻くように巡り、ヒビのように伸びて、扉を縦に断つように走る。
燐光は一度強く輝き、消える。
そして、光の軌跡に断たれたかのように、扉は音もなく開かれて行く。
「……この先に……」
そこに、私の務めはある。
癒えない呪いを打ち払う、聖なる篝火を灯すこと。
私は剣を鞘に納め、歩き出した。
魂:10
11日目
イベント…ジョーカー/聖なる篝台を見つける
ダイスロール(魂)…2/成功。魂を3点回復。
扉の向こうには、沈黙の帳に包まれた薄暗い空間が広がっていた。
壁は煤けた灰色のきめ細かい火山岩で築かれ、冷たい湿気が肌を撫でる。
中央に据えられた篝台は、鈍く曇った鉄の枠に囲まれ、ひび割れた薪が積まれている。長い時を待ち続けたかのように乾ききったそれらは、私の手にある火種を静かに待っているかのようだった。
静謐に沈んだ空気には、薪から滲むバルサムと古い灰の混じった芳香がかすかに漂う。
世界が息を潜めているような、聖なる篝台の前に、私は敬虔な想いで佇んでいた。
静かだが、止まってはいない。ここもまた、今、この時代の王国の、エルスの民の呪いに覆われた空の下にある場所なのだ。呪いと繋がっている場所なのだ。
「私はアナトリアの巡礼。この篝火にて、呪いを浄める」
それは簡素な儀式だった。
私はただ名乗るかのように呟いて、木屑の上で火打石を打ち鳴らし、生まれた火種を篝台に投げ込んだ。
炎が燃え上がる。この質素な部屋を、何ということのないただの灯りが照らす。
ただ、それだけで——
「呪いが、変質していく」
私は掌を上に向け、ゆっくりと握り締めながらつぶやいた。
王国を覆う呪いは、打ち払われつつある。だが、それは穢された魂をますます刺激し、巡礼の旅を危険にしていくだろう。
魂:10
ジャーナルの中断
私は呪いに呑まれることなく、最初の「聖なる篝台」に火を灯すことができた。次の「聖なる篝台」に辿り着けば、旅は終わる。その結果を決めるのは、私がその時どれほど魂を保っているかどうかになるだろう。
これから、「大失敗」をするたびに、私の魂は2点ではなく3点減少することになる。
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