【DC44 Shakedown】ボルテージ・デビル【プレイログ】

プレイログ

はじめに

『DC44 Shakedown』は、対戦型SFレースTRPG『Double Charger 44』のマスターエディションに収録されているソロジャーナルRPGです。AGSマシン(未来の乗り物)と出会い、練習と調整を経て大会へ出場するまでの物語を体験できます。

本プレイログは、『DC44 Shakedown』のプレイヤーの1人である馬弓さんからの依頼で、ほぼ原文ママで掲載しています。

 


プレイログ

①出会い

  • マシンとの出会い:8(有力メーカーまたはショップのマシンを中古で買った。マシンのクオリティ+4)
  • マシンの長所:3(ストレートでの最高速度を求めた。関連スペック:POW)
  • マシンのデザイン:5(何らかの具体的なモチーフを持った特徴あるデザイン)
  • マシンのカラー:9(パープルのボディカラー)

クオリティ:0→4

ただ一人でストリートを飛ばしていたいだけなのに、いつの間にか待ち伏せされるようになった。同じ女だから、とかそんなくだらない理由で話しかけられた気がする。煩わしい人間関係は極力絶ってきたつもりだったけど、ちょっといい顔をしただけで勘違いしてくる奴というのはどうしてもいるらしい。面倒だけど、邪魔をされるぐらいならマシンなんて適当に売り払って乗り換えればいい。多少チューンに金をかけていたからそこそこの値にはなったし、これで二度とあの女に会うことはないだろう。名前、言ってたっけ。私は教えてないからいいか。

馴れ馴れしい店員の話を聞き流して、この店で一番コスパが良いマシンを選んだ。

「ボルテージ・デビルですか!ナイフのような鋭い造形、ストイックなお客様にピッタリですね!」

私みたいな、相手の質問には素っ気ない相槌しか返さないくせに、自分の聞きたいことだけはずけずけと話してくるような客はやりづらいだろう。だから、笑顔を絶やさずお世辞を並べ続けるこの店員は、きっと普段からいい仕事をしている。その律義さが鬱陶しいのだが。敵を作る趣味はないので、最低限の反応は返しておく。無駄な波風を立てない振る舞いは昔から得意なつもりだったけど、あの女みたいな人間はいつも私の邪魔をしてくる。……確かに繊細な走りは良かったけど。

 

②練習

  • 練習の成果:6(振り回されてばかりで全く乗りこなせない。危うく事故を起こすところだった。マシンのクオリティ+0)
  • マシンの短所:2(立ち上がり加速、低速域の挙動など)

クオリティ:4

苛立っている。最高速度こそ優れてはいるが、低速域のコーナリング性能に難がある。それだけなら好きなだけ練習すればいいのだが、コーナーひとつ処理する度になぜかあの女の走りが脳裏をちらつく。遅いふりをして後ろを走ったときに見た、低速コーナーの処理の滑らかさ。僅かな進入角度のずれも許さないと言わんばかりのあの走りを、気が付けば参考にしている自分がいる。あわよくばもう一度確認したいとすら思い始めていることを認めたくない。そんな調子で走っていたからか、集中力を欠いてトップスピードのままスピンしかけて事故った。幸い誰も巻き込まなかったが、側面にできた大きな傷が、塗装が所々落ちた紫色のボディが、痛々しい。こんなミスはしたことがないのに。全部あの女が悪い。

 

③チューニング

  • 作業環境:1(著名なチューナーと知り合いだったため、仕事を依頼した。マシンのクオリティ+4)
  • 発生した問題:3(あなたは資金に余裕がなく、このままでは満足のいくチューニングができない。最悪の場合、多くの財産を失う可能性もある)

クオリティ:4→8

腕のいいメカニックに連絡を取った。修理だけでなく低速域の挙動も改善させたかったけど、事故ったせいでそんな金はなさそうだ。開口一番“修理を頼みたい”などと言ったものだから、ついにバトルでもしたのかと興奮気味に食いついてきた。

「で、何があったわけ?」

「別に。凡ミスして死にかけただけ」

「凡ミス!ああそうか、そうなんだ」

何がそんなに面白いのか、凡ミス、凡ミスと呟きながらしげしげと傷を眺めている。しばらくそうした後、頼まれてもいないのにコンピュータのログを勝手に見始めた。

「つまらないミスだよ。最高速を制御しきれずにバランスを崩して―」

「え。君、本気で言ってる?」

さっきまでの楽しげな表情はどこへ行ったのか、怪訝な目が一瞬こちらを向いて、またすぐコンピュータの画面に戻った。溜息をつきながらこっちに来いと手招きしている。状況がわからないまま隣に行くと、ログのある一点に目が留まった。

「君の言う凡ミスをしたのがここ。見て、ブレーキスラスターに自動補正がこんなにかかってる」

「……事故の前に?」

「気づいていなかったの?中古で買ったならよくあることじゃないか」

確かにブレーキスラスターの左が劣化しているのは気が付いていた。でもそれは事故の後のことであって、事故のダメージによるものじゃなかったのか。最初から劣化していた?見逃したのか、私が。

「確かにこれは凡ミスだね、それもとんでもなく初歩的で面白くもなんともない。どんな話が聞けるかと思ったらそんなことか……君らしくないね」

事故なんて起こしたことがないし、そもそも私は人と走らない。いつもダメージシールドには最低限の機能しか求めていないから、一歩間違えていたら本当に死ぬところだったのだ。事の重大さをようやく理解し始めたとき、初めて恐怖を感じた。

「で、これからどうするの?メインエンジンとブレーキスラスターを直したところで、今の君はまたつまらないミスでこの子をダメにしそうで嫌だなあ」

そういう仕事だからか、それとも性格的なものか、コイツは私と違ってマシンに愛情のようなものを注ぐ。こうなったら厄介だ。もう同じ失敗はしません、そう証明しないと金を積んだとしても動かないだろう。

「私は、人の走りに興味がない」

「そりゃそうだ」

藪から棒に話し始めた私に、何かを期待したように話の続きを促してくる。知った風な態度が気にくわない。

「……でも一人、いい走りをする奴がいたんだ。遅いし、マシンに振り回されてるようなガキだけど、教科書通りのお手本みたいな奴よりずっといい走りだった」

ひとたび言葉にすると、ずっと目を背けてきた気持ちが、そう複雑なものではないのだとわかった。彼女の走りには独特の癖のようなものがあった。初心者にありがちな勘違いから起こるミスだと高を括っていたが、今思えばそれは違う。職人が細部にこだわるような、情熱に満ちているような、個性と呼んだ方がふさわしい類のものだ。

「ねえ、名前もわからないド素人をストリートで見つける方法はない?」

本当に私らしくないし、馬鹿みたいだ。けどそんなことはどうでもいい。メカニックはひとしきり腹を抱えて笑うと、涙を拭きながらこう言った。

「ある訳ないだろ。でも、理由はよくわかった。そうだな……“コイツ”なんて呼ぶのをやめなよ。ちゃんと名前で呼んでやるんだ。そしたら修理を考えてもいい」

 

④結末

クオリティ:8

グレード:B
「悪くない。だが俺の敵じゃねえ」

ボルテージ・デビルには大したチューニングもできなかったが、元々プロになりたいわけでもない。十分だった。それに、マシン特性に合わせて走り方を変えるのは得意だ。毎夜毎夜、彼女に待ち伏せされた時間にストリートを走り込んだ。いくら低速コーナーの処理が上手くなっても、彼女にかける言葉は何ひとつ思いつかない。そもそも私の言葉など受け取るだろうか。もう何度浮かんだのかわからない不安を頭の隅に追いやろうとして、ふと見覚えのあるマシンを視界の端に捉えた。急いで横に停めて、マシンから降りる。

「ねえ」

ぶっきらぼうな声が出た。どうしても名前が思い出せない。波風立てないようにと身に付けた対人関係のスキルが、何の役にも立たない。

「あ……」

こちらに気が付くと、私のマシンにぶつけないよう気を配りながらコクピットハッチを開けた。逃げ出したい気持ちを抑えて、ほとんど漆黒にも見えるこげ茶色の瞳を見つめる。これが初めて見る表情なのか、それとも元からこんな顔をしていたのかわからない。口をつぐんでいると、暗がりの中で彼女の目が無邪気な子供のように微笑んだ。

「マシン、変えたんですね」

「……ええ」

「なんていうの?」

「ボルテージ・デビル」

「かっこいいな……でも、ちょっとあなたに似てる」

ようやくコクピットから降りて来た彼女は、以前より堂々としているように見えた。私の横を通り過ぎ、傷が直ったばかりの紫色をうっとりと眺める。

「例えばほら、ここのシャープなカット、一人にしてくださいって言ってるみたい」

こんなにはっきりとものを言う人だっただろうか。元々知らなった、知ろうともしなかった彼女のことが、ますますわからない。

「あ、違うんです。そうじゃなくて……ごめんなさい。でも、また会えてよかった」

名前すら憶えていない私に対して、非難しようなんて気はみじんも感じられない。安心している自分が滑稽で、ひどく惨めな気分だ。

「私、ちょっとだけあなたのことが嫌いだったんです。自分の方が速いからってわざと遅いふりをするし、どれだけ頑張っても追いつけないし。でも、私だってあれから速くなったんです。だから、これからは思いっきり私の前を走ってください」

「違う。遅いふりなんてしてない。私はただ……見ていたかっただけ。そう、あんたの繊細な、単調なコーナーひとつにまで魂を込めるような、あんたの走りが、きれいだから」

驚きと喜びが入り混じったような瞳は大きく見開かれていて、なんとなく、こういう素直なところが苦手だったのかもしれないと思った。何のためらいもなく自分を表現できる真っすぐさが、私の臆病さを優しく照らしてしまうから。でも今は、その痛みが怖くない。やがて互いに笑みがこぼれると、どちらからともなくマシンに乗り、夜明けまで走り続けた。

 


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