「ストーンシャイア邸の殺人」マーダーミステリー系ソロジャーナルプレイログ

プレイログ
10月13日の夜、私は旧友エベネザー・ストーンシャイアの屋敷へ招待された。

このプレイログについて

A Murder at Stoneshire Manor」は、いわくありげな洋館に招かれた5人の客の中の一人となり、館の主人を殺した犯人を捜すソロジャーナルです。
ミステリー系ソロジャーナルの汎用システム「Hints & Hijinx」を使用して作成されています。

「A Murder at Stoneshire Manor」はCC-BY 4.0 license下で公開されています。そのライセンスの範囲内で作品内の文章や画像を使用することは認められています。そのうえで、ゲームに添付されているパブリックドメインの画像がこのプレイログの雰囲気に若干そぐわないため、NPC用の画像は別途用意して使用しています。

【セットアップフェイズ】

導入

10月13日の夕刻。
夕食の時刻を前に、空は暗く暗雲が垂れ込め、遠い山々がざわめいていた。
私はホールのソファに腰かけ、繊細過ぎて陰鬱でもある屋敷の意匠のひとつひとつに目を凝らす。こだわりすぎるのも、やりすぎるのも、本人の人格を知っていればむしろ微笑ましくなるというもの。なにもかも、エベネザーらしいセンスが感じられた。

その屋敷の意匠にいかにも馴染んだ華奢な女性が一人、しずしずとホールへ姿を表わした。
帽子を取って挨拶をすると、彼女は美しいカーテシーと共に名乗った。

「私はアデレード。エベネザー様とは親しくさせていただいております」

寝不足だろうか、目はうっすら充血し、マニキュアで彩った爪はかじられている。
私は礼儀正しく挨拶を返した。

少し遅れて、今度は盛装の男性が入ってくる。シルクハットに整えられた顎髭……身長は高く恰幅がいい。そして何より目を引くのは、その礼服の上から厳ついガンベルトを巻いているというところだ。
扇で口元を隠したアデレードが、ためらいがちに話しかける。

「あの、貴方様は?」

「俺の名はオスカー。ふん……ストーンシャイアとは切っても切れない縁、といったところかな」

どこかせせら笑うように、オスカーは言った。何か掘り下げて尋ねたい気もしたが、その腰に吊られた銃の厳つさを目にするとどうにも黙ってしまう。
私はおとなしく挨拶を返し、読みかけの本を開いた。

「……夕食までは間もないようだな」

涼やかな女性の声が響く。
長ズボンにベスト、黒くつややかな巻き毛を垂らした男装の女性が、その立派な帽子を取って挨拶をした。

「ぼくはワルダ。ストーンシャイア氏とは……『ビジネス』の仲さ」

それだけを言って、彼女は黙り込んでしまった。
奇妙な空気が流れる中、その日最後の来客がホールへ現れる。

「おや、客人がお揃いのようだ」

背の高い牧師服の男が、慇懃な物腰で私たちを見回した。

「私はエリヤ、牧師をしております。今宵の夕食の席を楽しみにしてまいりました。ひとつ、ご友誼を……」

柔らかな声だが、どこか心ここにあらずと言った風情だ。上滑りなその声はホールの高い天井に吸い込まれてしまった。見も知らない来客たちは一度顔を見合わせ、言葉少なに自己紹介を終えた。

私を含めた五人の客が、ホストを囲んで夕食を楽しむことになっているようだ。
しかし、そのホストであるところのエベネザーの姿が見えない。私はソファから腰を上げ、周囲を見回した。

「客がこれだけ揃っていて、主人の顔を誰も見ていないのは奇妙ですな」
「私、探してまいりますわ」

アデレードが腰を上げ、客たちの間の奇妙な緊張から逃れるようにホールを出ていった。
私を含めた他の客たちも、まずはエベネザーを探そうとおのおので決めたようで、広い屋敷の中を歩き回り始める。

私はこっそり借りていた本を書庫に返したかったが、まずは食堂の扉を開けた――
そして、この屋敷の主人が一向に姿を表わさなかった理由を目にすることになった。

エベネザーの喉は深々と切り開かれ、鮮血を垂れ流していた。
その血は彼が倒れ伏しているダイニングテーブルのテーブルかけを真っ赤に染め上げ、床に流れ落ちていた。

「エベネザー……!」

旧友の変わり果てた姿を見て、さすがの私も気が動転した。
よろめき、後ずさり、引っかかった椅子ごと転んでしまう。そのときにテーブルクロスを巻き込んだものだから、かなり大きな音が響き渡った。

「何事だ!?」

四人の客たちが次々に飛び込んでくる。そしてエベネザーの屍を見て、絶句し、立ち尽くし、やがてよろよろと起き上がろうとしている私を見た。
男装の麗人ワルダが、冷ややかに目を細めて尋ねた。

「あなたのお名前とご職業を、もう一度伺っても?」
「かまいませんとも。えー……」

私は咳払いをした。

「私の名前は、レイノック。……探偵をやっております」

外で雷がひらめき、薄暗い屋敷の中を束の間照らした。
唸るような豪雨が窓を叩き、闇色の木々を激しい風が掴んで振り回している。

「この嵐は、しばらく止みませんなあ」

私はのっそりと間延びした調子で言って、パイプに火をつけた。

主人公について

私はレイノック。40歳の男性だ。
かつて「名探偵」と呼ばれたが、暴いた犯人を追い詰め自殺させてしまったことで世間の信頼は失墜。以降は、地道な素行調査や人探しに全力を注ぎつつましい生活を送っている。
エベネザーは、こんな私の数少ない昔からの友人だったのだが……

Play the Fool d12 周りの目を欺き、警戒されないためのスキルだ。
Play the Expert d10 決断的に、熟練のスキルを発揮する。まあ、はったりであることもある。

確実にわかっていることが一つある。
それは、私はエベネザーを殺していないということだ。
だが、状況が悪い。このままでは私が犯人にされかねない……名探偵の手腕、再び見せつける時が来てしまったようだ。

ストーンシャイア邸について

ストーンシャイア邸は小高い丘に建てられた由緒正しい邸宅だ。幽霊屋敷と呼ばれることもあったと聞いている。
現在嵐でストーンシャイア邸は孤立し、建物の中には私と四人の客。あとはこの屋敷の使用人しかいない。

これからこのストーンシャイア邸を歩き回り、手掛かりを探さなければならないようだ。ストーンシャイア邸の間取りとにらめっこしつつ、探し回る場所を決めていこう。

1:ホール
2:食堂
3:ビリヤード室
4:トロフィールーム
5:キッチン
6:地下室
7:庭園
8:書斎
9:使用人の宿泊施設
10:屋根裏部屋
11:女性の客室(アデレードかワルダ)
12:男性の客室(オスカーかエリヤ)
13:エベネザーの寝室

よし、こんなところでいいだろう。
四人の客は私を疑っているようで、必ずしも協力的ではなさそうだ。だが、真実に近づくためには、あらゆるものを使わなければならない。彼らが望むと望まざるにかかわらず、ね。

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【捜査フェイズ】

【1】食堂-♠の5

みなはホールに身を寄せ合い、動揺と不審の視線を交わし合っている。
この沈黙に付き合っていては何も始まらない。まずは殺人現場である食堂を調べておこう。私が食堂に入ろうとすると、牧師のエリヤが腰を上げた。

「あなたを一人で食堂に入れるわけにはいきません」
「なるほど、私を疑っているわけですな」

そう不自然なことでもない。私は頷き、エリヤと共に食堂に入った。
惨劇の痕が生々しい。エリヤはハンカチで鼻を抑え、顔をしかめている。

「食事の用意をしていたメイドさんを呼んでいただけますかな」

私は慇懃に、エリヤへ頼んだ。

「話を聞かなければならないようですから」

そしてしばらく、一人でその場を調査し、メモを取っていたが……いっこうにエリヤは姿を見せない。私が顔をしかめて使用人の廊下へ近づくと、ドアの向こうから囁くような笑い声が聞こえた。

――もう、ダメですよ……
――いいじゃないか、ちょっとくらい……

何をしてるんだ、あの男は?
私はあきれ果てて、ドアを勢い良く開けた。

Fool…4/Haunt.失敗し、心霊現象が起きる

ドアを勢い良く開けたが……
そこには誰もいなかった。
ぽかんと立ち尽くす私に、後ろからエリヤが声を掛けてくる。

「レイノックさん、どうしました。そっちに用があったので?」

↓Fool d10
Expert d10
clue 0

【2】ホール-♦の1

私はうすら寒い体をさすりながら、ホールへ戻ってきた。
暗い窓辺に立つ長身の影に、すぐに気づく。オスカーがパイプを咥え。雷がひらめく窓の外を見ているようだ。あいかわらず、腰に吊ったガンベルトに大きな拳銃が光っている。
銃を前にするとどうしても気後れするが、素通りするのもおかしな話だ。私は咳払いをして、オスカーに近づいた。

「ふん……探偵って話だったが」

野蛮そうな太い眉を逆立てて、オスカーは私を振り向いた。

「早速食堂に飛び込んで、まるで見つけられちゃ困る手がかりでもあったみたいだな」
「まさしく、その手がかりを求めて飛び込んだんですよ」
「どうだか」

オスカーは紫煙をゆっくりと吐いた。

「あんたが探偵だって話なら、それらしいことの一つや二つ言ってみたらどうだね」
「はは、それらしいことですか」

探偵小説の悪い影響だ。こういったことを期待されるのは珍しいことじゃない。

「そうですなあ」

私は顎をさすり、オスカーの精悍な顔をじっと見つめた。

Expert…9/成功。手がかりを1つ得る。

「ふむ、こういうのはどうでしょう……オスカーさん。あなたはアメリカ出身で、こちらには一山当てるために赴いた。エベネザーに近づいたのは、伝統の権威に少しでも手を伸ばすため……」

オスカーはつまらなさそうに、片目だけを冷たく細めた。

「あんたの言う探偵らしさとは、あてずっぽうの侮辱の言葉を連ねることなのかね?」
「とんでもない」

私は呑気に笑ってみせた。

「伝統、権威……そういったもののためでしょう。あなたがポケットの中で弄り回しているそれは」
「……」

手がかり…♣の10/コイン。片面は獅子、もう片面は盾の意匠。

オスカーは眉間にしわを寄せ、左のポケットから手を出した。しばらくはそのまま知らぬ顔を続けようとしていたようだが、やがて諦めてもう一度ポケットに手を戻す。
その手が取り出したのは、金色のコインだった。一般に流通している通貨ではない。美しい浮彫が施されている。片面は盾、もう片面には獅子。
見覚えのあるデザインだ。

「そのコイン、見覚えがありますねえ。
都市部の商工連合会の幹部クラスに配られる、符号のようなものです」

私はにやりと笑いかけた。

「言っちゃあなんだが、昨日今日渡航してきたアメリカ人に名刺代わりで配られるようなもんじゃない。どこで手に入れなさったんで?」
「……クソ」

低い声にひやりとしたが、銃を抜く気はないようだ。
オスカーの厚い爪が、コインを勢い良く弾いて飛ばす。私はそれを空中でキャッチした。

「あのシルクハットを被った女さ。ソファの上に置いてたんでね……失敬しといたのさ」
「ほーお、ワルダさんが?」

確かに彼女はビジネスと言っていた。このコインを持っているような立場――商工連合の幹部ともなれば、思っていた以上の大人物だったようだ。

Fool d10
Expert d10
clue 1

【3】使用人の宿泊施設-♦の6

私は邸宅の中をさまよい、いつしか使用人の居室に足を向けていた。彼らに聞き込みをしてみるが、どうにも言葉少なだ。どうやら私はかなり警戒されているらしい……なにげなく火かき棒を手に取ろうとしたら横合いから奪われてしまい、思わず苦笑を零してしまった。

(火かき棒一つで何ができるって言うんだね?)

議論したい気持ちはあったが……
余計なことは言わず、ただのんびりと笑って暖炉の中を覗き込む。

Fool…2/失敗。何も進展しない。

そのとき、後ろに立つ影に気づいて私は振り向いた。
ぶんっ! と豪快な音を立てて火かき棒が振り抜かれ、私の頭を叩き潰しかけたそれが鼻先にびしりと突きつけられた。

「何をうろちょろ嗅ぎまわっているんだ」

怒りに燃えたオスカーの目に、私は思わず両手を上げた。
さっき一杯食わせたのは、あまり賢いやり方じゃなかったかもなあ。

「参ったね、撃たないでくれると助かるな」

使用人たちは壁に近づくほど引っ込んで、私とオスカーのやり取りをひやひやと見ている。
私はそれ以上の刺激を避け、使用人たちの居室から早々に立ち退いた。

↓Fool d8 
Expert d10
clue 1

【4】庭園-♠の4

私はアーチの大窓の前に立ち、豪雨が揺すっている薔薇の植え込みを眺めていた。
犯人が外部にいるとしたら、この嵐の中に身を投げ出したのだろうか? 考える必要がありそうだ。

Expert…8/成功。手がかりを見つける。

おや、庭園に何かが落ちている……きらきら光っているな。
灰捨て場から風で飛ばされているように見える。私は上着を脱ぎ、窓を開けて庭に飛び出し、それを引っ掴んで戻ってきた。
このほんの短い滞在時間でずぶ濡れになってしまったが、それだけの成果はあったようだ。

手がかり…♣の9/純金のマネークリップ

紙幣を留めておくクリップ……それも純金製だ。
水滴を拭き取ってよく見ると、美しく装飾された「W」の字が彫られている。
これがなぜ、庭園に落ちていたのだろう?

クリップを懐に戻したところへ、エリヤがやってきた。怯えるように視線を彷徨わせながら、猫背気味にこせこせとやってくる。
一応まだ私を疑っているはずなので、目を離すわけにはいかないということだろうか。私は鷹揚に笑い、エリヤに向き直った。

「こういうときに牧師殿の存在はありがたい。使用人の皆さんを落ち着かせてくださると助かりますな」
「は、はあ……庭園を見てらしたんですね」
「ん? まあ……」

顎をさすって言葉を濁すと、突然エリヤは床に跪いた。
私がろくに反応できないうちから、エリヤは次々に何かを床に並べ始める。よく見るとそれは、指先ほどの大きさの小鳥のミニチュアのようだった。

「ああ……コレクションですかな? よく出来ていらっしゃる」

たじろいでいる私の言葉になど耳を傾ける様子ももなく、エリヤはコマドリのミニチュアを手にして指の腹ですり、と撫でまわした。

「カルロ……いつか戦場から帰った時は、コマドリの遊ぶ庭が欲しいと言っていた」
「……エリヤさん?」
「メイスン……飛び立つヅバメの影に驚いて、笑われてたっけ」
「あの?」
「ハロルド……スズメが、スズメが、ううっ」

エリヤは鳥のミニチュアの上に倒れ伏して、しばらくはうなるようにすすり泣き、やがて子供のようにわあわあと泣き始めた。
それは私がそっとアーチ窓の前を立ち去っても、廊下まで聞こえるほどの音量で続いていた。

Fool d8 
Expert d10
clue 2

【5】ビリヤード室-♦の8

この邸宅には立派な遊戯室がある。客も何気なく立ち寄りやすい場所のはずだ。少なくとも、いい大人が泣きわめいているのを聞くよりはよほど気安く過ごせそうだ。ため息をついて気を取り直し、薄暗い室内へ踏み込もうと灯りを探す。
その時、私は物音に気付いてぴたりと足を止めた。
薄暗い部屋の一角で、メイドが何かを探している。それだけなら怪しむようなものではないが――男物の立派なボストンバッグを開け、中を検めているようだ。

ふむ……どうしたものか。
何気なく近寄って声を掛けてみようか。

Fool…5/成功。手がかりを見つける。

私は灯りを点けた。飛び上がらんばかりに驚くメイドに歩み寄り、にこやかに言う。

「お嬢さん、何かお探し物かな?」
「あ……、うう、これは、そのっ……」

ボストンバッグを背にかばうメイドのスカートから、紙切れが一枚ひらりと落ちた。

手がかり…♦の9/ぼろ負けのハズレ馬券。

「馬券……それも大外れだ」

私はそれを拾い上げてまじまじと眺めた。

「お嬢さんがオスカーさんの荷物をこそこそ漁ってまで欲しかったものってのは、こいつかね?」
「ち、違っ……その……お金、……」
「正直でよろしい」

私は苦笑して馬券をポケットに押し込んだ。

「このことは黙っておいてあげるから、人様の者に手をつけるのはこれきりにすることだね」

オスカーはどうやら、ギャンブル癖があるようだ。
それにしても、競馬でこれだけ気持ちよく負けるというのは……並大抵でははないな。

Fool d8
Expert d10
clue 3

【6】トロフィールーム-♠の9

トロフィールームというのは、エベネザーが手に入れてきた勲章やトロフィーのたぐいがたくさん飾ってある小部屋だ。客にとってもあまり興味を引かない場所ではあるが、出入りが自由な部屋の一つではある。調べてみる価値はあるだろう。
その小部屋に向かう廊下に踏み込んだ時、背の高い影が背を丸め、外套の前を掻き合わせたのが目に入った。
エリヤだ。あたりを伺い、落ち着きのない視線を彷徨わせている。そして、何かを外套の中に隠したようだ。

これが事件に無関係とは思えないな。上手く揺さぶれば手がかりを掴むことができるだろう。
見たところ、不安定で脆い所のある男のようだ。ここはめいっぱい圧力をかけて、隠した証拠を提出させよう。

Expert…5/成功。手がかりを1つ得る。

「れ、レイノックさん……」

たじろぐエリヤにずかずかと歩み寄って、私は冷たく言葉を突きつけた。

「隠したものを見せてもらえますかな」
「こ、これはそういう……」
「手がかりを隠さないよう監視する必要がある。そう言ったのはあなたのはずだ!」

弱弱しい反論をぴしゃりと跳ねのけて、証拠を差し出すまでじっと睨みつける。
エリヤはやがて、震える手で紙切れを取り出した。

落ち着きのある青灰のこまやかな質感に、藍で刷られたライン。端にはエベネザーの紋章が刷られている。私も何度か見たことがある……当たり前の話ではあるな、それを受け取ってここに来たのだから。
間違いなく、エベネザーが自分のために誂えて使っていた便箋だ。そして、筆跡も……

手がかり…♠のQ/涙の染みがある、エベネザーからの伝言。文面は「すべてが終わったら私のもとへ来るように。我々は話さなければならない」と書かれている

「穏やかじゃありませんなあ。こいつをハンカチ代わりにしてたので?」

私は笑みを含んでエリヤを見た。

「……もういいでしょう」

エリヤは外套の襟を立て、すたすたと立ち去ってしまった。

Fool d8
Expert d10
clue 4

【7】キッチン-♣の5

エリヤとエベネザーは会う約束をしていたということか。しかし、二人の間に何があったのだろう?
思案しながら歩いていた私の足は、いつの間にかキッチンに吸い寄せられていた。
致し方ないことだ……この、ステーキを焼く素晴らしい匂い! 夕食を食べ逃した私の胃が騒いでしょうがない。いったい、誰が焼いているんだろう?

キッチンを覗き込むと、そこには意外な人物がいた。
ベスト姿の上からエプロンを着込んでいる、男装の麗人ワルダだ。

「きみ、おとなしく座って待っていたまえ」

私を振り向こうともせず、ワルダはぴしゃりと言った。

「ここの肉がダメになってしまう前に、たいらげてしまうのさ」
「ははあ、なるほど、冷蔵庫が停電で使えないという寸法だ」
「説明が要らないようで助かるね」

ストーンシャイア邸は郊外の小高い丘の上にある。
このキッチンの馬鹿でかい冷蔵庫の中のものが腐ってしまうまでに、電気が復旧する見込みは薄そうだ。

「まあ、おとなしく待ったところで、ここの素晴らしい赤身の肉はぼくがほとんど平らげてしまうつもりだけれどね」
「端っこの脂身でも結構、ご相伴にあずかりましょう」

私は機嫌よく声を弾ませた。

Fool…7/成功。手がかりを1つ得る。

私とワルダはキッチンのテーブルを使って、ささやかな晩餐を楽しむことにした。
とはいっても、ささやかなのはテーブルと椅子だけさ。うっとりするような最高品質のステーキが、見事な焼き加減で提供された。

私は食事を終えてゆったりと息をつき、ふと視界の端に引っかかったものに気づいた。

手がかり…♣の7/経済新聞

経済新聞だ。
キッチンには似つかわしくない読み物だな。
私は何気なく手を伸ばし、それを開こうとした瞬間……
ワルダの手が稲妻のように伸びて、その新聞をひったくった。

「ワルダさん?」

鋭く睨みつけるまなざしに怯んだ素振りで、私は更に新聞へ向けておろおろと手を伸ばす。ワルダはそれを蠅のように払いのけて、頑なな背を向けた。

「人のものに手をつけようなんて、感心しないね」
「てことは、そいつはワルダさんのものなんで?」

イラだったように一瞥をくれて、ワルダはずかずかとキッチンを去った。

Fool d8
Expert d10
clue 5

【8】地下室-♥の6

そこはかつて地下牢だったらしい……ぞっとしない話だ。ともあれ、犯人が隠れられる場所の一つではある。私はランプを手に、地下室に続く階段を下りていく。
地下室の見通せないほどの濃い暗闇に光を投げかける。石造りの床が空気をひんやりと冷やしているようだ。革靴の底を鳴らして一歩踏み出した途端、闇の中を白いひらひらしたものが横切った。

「……!!」

とっさには悲鳴も上げられず硬直し立ち尽くす。
見間違いではなかった。闇に滲むような白いひらひらしたものが翻り、人の腕のようなものがぼんやりと見える。
幽霊……幽霊だ!
ぎゃ、と悲鳴を遅れて上げかけたところで白い影はぱたぱたとこちらへ駆け寄ってきた。

「あら、レイノック様」
「……! ……! ぎ、ぐぐ、う、アデレードさん……」

私に、何ということもないように声を掛けてきた貴婦人は……亡きエベネザーが招いていた客人の一人、アデレードだった。
血の気のない真っ白な細面は、正体が分かっていてもなんとなく怖い。表情が乏しいのも、生気のなさに拍車をかけている。
だが、私は探偵としてこの事件を調査しているのだ。ここは平静を保たなければ。

Fool…2/失敗する。手がかりは見つからない。

「……レイノック様?」

アデレードが小首を傾げ、私の顔を覗き込むが……
私は腰を抜かして、そのまま床の上にどすんと座り込んでしまった。

「い、いえ、お気遣いなく……」

驚くアデレードに動揺もしきりに言い、私は転がるように立ち上がって階段を駆け上った。

 

↓Fool d6
Expert d10
clue 5

【9】書斎-♠のJ

私はしばらくはソファにまともに座ることもできず、ソファに持たれる形で呼吸を整えていた。アデレードは幽霊の役がはまりすぎているんだ、私が極度に臆病なわけではないはずだ。
ようやく落ち着いてきて、私は立ち上がった。
地下室は後回しにするとして、ひとまず調査を進めよう。今となっては意味のない話だが、エベネザーに借りていた本を書斎に返しておこうかな。私は本を手に、二階の書斎に向かった。

書斎には先客がいるようだ。書き物机に向かって背を丸めている。
無造作にドアを開けて入ったが、私に気づく様子はない。かなり熱中しているようだった。

「エリヤさん?」

声を掛ける。
エリヤは泣いていた。背中を震わせて泣きながら、古い日誌を熱心に捲っている。日に焼けた古いページに、エリヤの涙が落ちて染みをつけていた。

「エリヤさん!」

やや大きく声を張る。泣きはらしたエリヤの目が、私を見上げた。

Expert…10/素晴らしい成功。手がかりを2つ得る。

「ああ、レイノックさん、レイノックさん……!」

エリヤはわっと泣き伏し、私になだめられるまでなかなか顔を上げようとはしなかった。
かなり時間をかけて落ち着いてくると、エリヤは腫れぼったい眼を擦って顔を上げ、ハンカチで鼻をかんだ。

「もう、一人で抱えることはできません。どうか聞いてください……!」
「ええ、もちろんお聞きしますとも。何があったんです?」

エリヤが読んでいた日誌の表紙には「アフリカ遠征日誌」と記されていた。エベネザーは若い頃に従軍していたことがあるらしいから、その頃のものだろう。
エリヤは従軍牧師であり、エベネザーとは戦地で知り合ったのだという。

「たくさんの仲間が死にました。それでも、エベネザーと生きて帰ることができた……それで十分だと思っていたのに」
「エベネザーの死に、あなたは深く悲しんでいたんですね」

エリヤは答えもなく、ただ項垂れた。
私は書き物机に置かれている、数枚のしゃれた名刺に目を留めた。

手がかり…♣の8/数枚の名刺

「これは、エリヤさんのもので?」
「いいえ……この日誌も、名刺も、ここに来た時には机の上に置いてありました」

それも奇妙な話だ。私は名刺を取り上げ、そこに書かれている氏名を注意深く検めた。
メモを取るためにペンを探そうかと、書き物机の引き出しに手を掛ける。エリヤが場所を開けようと、あわててふらふらと立ち上がった。

「……ん?」

椅子の下に、何かが落ちている。金属製の小物のようだ。

手がかり…♣の6/メリケンサック

これはメリケンサック……拳に嵌め込んで打撃を強化する器具だ。手に取るとずしりと重かったが、大きさ自体はかなり小さめだ。
反射的にオスカーの巨体を思い浮かべていたが、オスカーの厳つい手にはこれは装着できないだろう。女性、あるいは子供が手にするものだろうか。

「何か落ちていましたか」

よろよろと椅子を立ったエリヤが尋ねてくる。拾ったメリケンサックを手渡すと、エリヤは困ったように首を捻った。

「これは……こんなものが、なぜ書斎に落ちているんでしょう?」
「さてね」

肩を含めて笑い、私は書斎を立ち去った。

Fool d6
Expert d10
clue 7

【推理フェイズ】

手がかりの確認

嵐は止みそうにない。荒れ狂う風の渦に舞う雨粒が、窓を繰り返し叩いている。

  • 商工連合のコイン
  • 純金のマネークリップ
  • 大量の外れ馬券
  • エベネザーからエリヤへの伝言
  • ワルダの経済新聞
  • 名刺
  • メリケンサック

私が手にした証拠は以上ですべてだ。
この中に、真犯人を指し示す手がかりはあるだろうか?

推理の披露

まずは、事件の前、このストーンシャイア邸で何が起きていたかを推理しよう。
私がこの屋敷に着くより前に、すでに二人の人物が屋敷に滞在していたことがわかる。

一人は「オスカー」。彼はビリヤードルームにひとまず荷物を置き、そこで黙々とビリヤードを楽しんでいる。
アメリカからこの国に渡ってきてビジネスを始め、エベネザーとの友誼を深めるためにこの屋敷に来たはずの彼が、すぐにはエベネザーに会いに行かなかったのはやや不自然だ。彼はこの時平静でなかったため、エベネザーを恫喝し事を荒立ててしまわないよう自分を鎮めてた。
もちろん、それは彼がここに来る直前に少なからぬ財産を散財したからだ。メイドが漁っていた荷物から出てきた「大量の外れ馬券」が、彼の立たされていた精神的苦境を示している。

もう一人は「ワルダ」。彼女は庭園にいたようだ。庭に落ちていた、「純金のマネークリップ」は、彼女のものだ。
しかし、ここで疑問が生じる。マネークリップは現金を留めるための道具だ。たとえ純金でなくとも、これを落としたら探すはずだ。私が窓越しに見て分かるくらいわかりやすい場所に落ちていたのに、なぜか彼女はこれを落とし、拾い上げもせず立ち去っている。

ここで思い出すことがある。
オスカーはワルダから「商工連合のコイン」を盗んでいる。彼はビジネスを始めるにあたり、これが喉から手が出るほど欲しかったはずだ。ワルダとここで出会ったのは偶然ではなさそうだ。
ワルダが庭園にいた理由も見えてくる。ワルダとオスカーは庭園で密談をしていたのだ。この邸宅の庭園はクラシックな王宮風の庭園であり、美しいあずま屋も作られている。二人はそこで会話をしていたのだろう。

庭園で、オスカーとワルダは密談をかわす。それはオスカーからワルダに、この新参者に便宜を図るよう懇願する内容だった。
ワルダはそれを跳ね除けて、立ち上がる。ハンカチか何かを取ろうとしてポケットに手を突っ込み、紙幣が挟まっていないマネークリップを落とす。
オスカーは目の色を変えてそれに飛びつく……それを商工連合のコインだと思ったのだ。
ワルダはその様子を見て嘲笑する。「それはあげるよ」と言葉を投げつけ、立ち去る。
オスカーはマネークリップを地面に叩きつけ、憤懣やるかたなく黙り込んだ。

この後、ワルダは書斎に向かっている。そこにはエベネザーがいる。
エベネザーは書斎の窓から、庭園で起きていた諍いを眺めていたはずだ。
「事を荒立てないでくれよ」とエベネザーは言う。血気盛んな彼女の身を案じたのだ。涼しく受け流そうとするワルダに、エベネザーはいつも身につけている「とっておき」を提出するように強く言いつける。
エベネザーは、彼女にとっても尊敬する人物だ。父親に叱責される娘のような心地だったのではないだろうか。ワルダは諦めて、いつも持ち歩いている「メリケンサック」をエベネザーに渡した。
ワルダはそこで、エベネザーとビジネスの話をしている。「数枚の名刺」は、オスカーのような無礼者ではなく、もっと正式な手段でワルダとエベネザーに友誼を頼んだ人物のものだろう。

そして、ワルダとエベネザーが会話をしているところを、オスカーは庭園から見ていた。
この国のビジネスは非情だ。権威と伝統のガウンを着ていなければ、凍てつくような風がいつまでも止まない。ワルダとエベネザーの会話の光景を見て、自分は永遠にその場には立てないことを痛感しただろう。
エベネザーはワルダを書斎に残し、食堂に降りる。夜の会食の準備を確認するためだ。
その途中の廊下に置かれた置物棚に巨体を隠し、オスカーは刃物を手に待ち構えていた。そしてエベネザーの喉を切り裂き、食堂で刃物を抜いたのだ。

このとき、オスカーは一つの細工をしている。ワルダの私物である「経済新聞」を食堂に置き、返り血を新聞に浴びせたのだ。これが一つあることで、ワルダとエベネザーがこの食堂で会っていたという事実を作り出すことができてしまう。
ワルダはいち早く、いつの間にかなくなっていた自分の私物が返り血の中に置かれているのに気づいた。要らぬ疑いが掛かるのを避けるため、ワルダは隠れて新聞を回収し、血が掛かったページをキッチンの薪オーブンに投げ込んで灰にしてしまった。そして、そのインクが燃えるにおいを誤魔化すために肉を焼き始めた。
彼女の剣幕は、ページが欠けた新聞を見られ、疑いが降りかかることを避けるためのものだろう。

面倒なことに、ワルダはもう一つ工作をしている。
「すべてが終わったら私のもとへ来るように。我々は話さなければならない」……あの「手紙」は、本来ワルダが受け取ったものだ。実際、彼女はオスカーとの密談を終えた後は、エベネザーのもとに向かっている。恐らく二人の密談が始まる前、オスカーの(無為な)話が長くなりそうなのを見て取ったエベネザーが渡した書き付けだったのだろう。
彼女はその手紙をエリヤの荷物に置いた。まるでエベネザーの幽霊がよこしたようなその手紙にエリヤは動揺し、食堂や書斎を探し始める。エリヤは従軍のトラウマで不安定な状態にあり、事件現場を歩き回れば事態が攪乱されていくだろう。
奇妙なのは、彼女がオスカーを疑い、告発しなかったことだが……これについては、直接聞くしかなさそうだ。

推理判定 1d12+1…9/私の推理は的中している。

犯人はオスカーだ。

「バカバカしい!」

ホールに集まった関係者の前で推理を披露すると、オスカーは胴間声を上げて私にずかずかと近づいてきた。
威圧的な気配にたじろぎつつも、私は薄笑いを向ける。

「犯行が可能だったのは、私がこの屋敷に着くより前に屋敷に滞在していたワルダさんとオスカーさんしかいません。そして、ワルダさんにエベネザーを殺す理由はないはずだ」
「俺にだってないね。またそうやってよそ者をつるし上げようってのか、この国は――」

拳を固めて私につかみかかろうとしたオスカーの動きが、不自然に止まった。
軋むようにぎこちなく、オスカーは後ろを振り向く。
ガンベルトから自然にするりと引き抜かれた拳銃が、ワルダの手に握られ、オスカーの厚い腰をつついていた。

「レイノック氏から離れたまえ」

ワルダは冷ややかに言った。

「このぼくから例のコインを盗んだんだ。この野暮ったい銃のひとつやふたつ取られたって文句は言うまいね」
「ぐ、ぐっ……この売女が……!」

私はちょこまかと後ずさって、オスカーから距離を取った。ワルダはそのほっそりした手には不釣り合いな大きな拳銃を掴んで下げ、ため息をついてオスカーを見る。

「すべてレイノック氏の言うとおりさ。ぼくの新聞が食堂に置かれていたからね……手を打たなきゃいけなくなった。返り血を浴びた新聞を焼いて、エリヤ氏の荷物に書きつけを置いた。ひとつは、要らぬ疑いを買わないため……もうひとつは」

鋭い瞳が、その手に掴まれた拳銃を指し示す。

「早いうちに事実を指摘したら、この無法者が暴れ出して犠牲者が増えかねないから……だ。そのために、エリヤ氏を利用させてもらったよ」
「そ、そんな……」

消沈するエリヤをよそに、私は肩をすくめて笑った。

「そして、もう時は満ちたと思われたわけだ」
「そのとおり」

ワルダは土に汚れた布にくるまれたものを、テーブルに置いた。
湿った布がばらりと開くと、鮮血に汚れた大ぶりなハンティングナイフが現れる。
なるほど、これが現場から消えた凶器というわけか。
戦慄と動揺が走り、アデレードが声もなく卒倒した。

「アメリカ犬は何でも土に埋めたがる。炭鉱夫の血筋だからかい?」

ワルダの冷ややかな嘲笑には、暗い憎悪が籠っていた。
怒りにぶるぶると震えるオスカーに銃口を向けたまま、その引き金に指先がわずかにかかり……

「およしなさい、ワルダさん」

私は思わず声を上げた。

「警察が来るまでは、私たちがちゃんと殺人犯の面倒を見ていますからね」
「……おためごかしに付き合うのは好きじゃない」

ワルダは苦渋を声に滲ませる。

「だが、不思議と好きだったんだ……あの人のお説教を聞くのだけは」
「エベネザー……」

彼女はよほどエベネザーを慕っていたようだ。私は頷いて、エリヤにも目配せをした。

「すべてが終わったら、皆で集まってお食事を」
「私たちは話さなければならない……そうですね」

エリヤが続けたその言葉に、ワルダの頬を涙が一筋伝った。そして、オスカーに向けた銃口を下ろした。
じきに嵐は止み、眩しい陽がこの幽霊屋敷に射すだろう。悲しみを乗り越えて、思い出を噛み締める。そんな時間が、私たちには少しあってもいいはずだ。

【fin】

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