このプレイログについて
「Hamsters & Himbos」は、巨大ハムスターが出たのでマッチョを率いて退治するゲームです。
正確には退治ではなくて、この事件の原因を突き止めて解決するのが目的になります。
「Hints & Hijinx」を使用して作られたゲームなので、調査と推理を楽しめる完成度の高いシステムになっています。……そう言い切ることにいくばくかの疑問を感じていないわけではありません
ジャーナル
導入
「町長、ハムスターが出たぞ」
町長室の執務机の前でスクワットをしながら私に報告しているこの若者は、この町で一番キレキレの太ももを持つ「Big Thighs」。真面目で勇敢な青年だ。
「それもただのハムスターじゃない、巨大ハムスターだ!」
見事なサイドチェストで鍛えられた腕の筋肉を見せつけて捕捉してくるのは、「Big Arms」。この町一番の腕力を誇る、真面目で勇敢な青年だ。
「我々は問題を解決しなければならない。市民のために。そうだろう町長!」
朗らかな大声と共にシャツのボタンがはじけ飛び、私の頬をかすめて壁にびたりと当たる。この屈強な肉体の持ち主は「Big Heart」。真面目で勇敢な青年だ。
とはいえ、何が問題なのかよくわからない。私はひとまず筆記の手を止めて考え込んだ。ハムスターが出てきて、それも巨大ハムスターだという。それを市民のために解決しなければならないということは……
私は立ち上がり、町長室の窓のブラインドを上げた。うららかな日差しが降り注ぐ我々の町ウィローデールを見下ろすと、確かに異変が起きている。
町の至るところにいるのは、車くらいのサイズのげっ歯類だ。それは人間に攻撃こそしないものの、驚くほどの図太さであちこちをのし歩き、ゴミ捨て場をあさり、花壇を荒らし、子供を泣かせている。陽だまりを求めて移動しているので、道路にたまり場を作って渋滞を引き起こしたりもしているようだ。
確かにこれは由々しき事態だが……私はパイプから口を離し、三人の若者を振り向いた。
「あれはモルモットじゃないかね?」
あいまいな沈黙。なにせ彼らはマッチョなので、詳しいことはわからないようだ。
だが、世の中には適材適所というものがある。この町の市長であるこの私は、数々の難事件を解決してきた名探偵……が出てくるミステリ小説が大好きなのだ。きっとこの事件を抜群の推理力で解決できるに違いない。
「我々の力で、この事件を解決しよう」
「さすが町長」
「全力で協力しよう」
「この町を救える名誉、光栄なほどさ!」
快い返事が返ってきた。いろいろ突っ込みたいところはあるけど、本当にいい子たちなんだよなあ……
私はコートを羽織って、帽子を被り、さっそうと町長室を飛び出した。
調査を始める
まず、三人のマッチョな若者について説明しておこう。一応彼らにも普通の名前はあるんだが、もはや誰もその名前で呼んでいない。ひょっとしたらご両親さえも。三人の名前はそれぞれ、アレックス、バーナード、チャールズだ。とはいえ、この名前で呼ぶ機会があるかどうかはわからないな。
Big Thighsは配達夫だ。ウィローデールの地形には高低差があるが、彼の脚は簡単にそれを踏破する。常にスクワットをしているから、プリンやケーキみたいなものを運ばせるのには注意が必要だ。
Big Armsはパン屋だ。朝になると彼のパン屋からは「ぬうー!」とか「ふんっ!」とか聞こえてくる。彼が渾身の力で捏ねたパン生地で焼くパンは絶品だ。常に腕の筋肉を見せたがるので、冬でもノースリーブだ。
Big Heartは庁舎の警備員だ。正直な話、彼が満面の笑顔でエントランスに立ってるのに変な気を起こす奴なんかいないさ。彼はマッチョのくせに甘いものが好きなので、よく差し入れにクッキーを渡している。
私の名前はデクスター、ウィローデールの町長だ。気軽に「町長」と呼んでくれたまえ。52歳の男性、好きな言葉は「禅」だ。
普段はイタリア製のスーツで決めているが、これからの私は「ガムシュー」……名探偵だ。このジャケットを脱いで、クローゼットの奥にしまっていたトレンチコートを着てみようか。
私は地元の読書クラブを経営していて、これがわが町の文化・教育推進事業の一端を担っていると自負している。わが町から人気作家でも輩出されたら最高なんだがね。
さて……そんな私が、ハムスターたちを見て気づいたことだが。
彼ら、ずいぶん毛並みがいいね。小さな生き物が突然拡大されたと考えると、毛の一本一本も雑に太くなってモップみたいになるはずなのに、このハムスターたちの毛並みはさらさらでふかふかだ。この発見に意味があるかどうかはわからないが……暇があったらちょっと触っておこうか、ちょっとだけ。
調査は若者たち頼みで行うことになる。彼らの能力はこんな感じかな……
Big Thighs d8
Big Arms d10
Big Heart d12
彼の大胸筋には、かなり頼る羽目になりそうだ。
地図を書く
1.町長のオフィス
2.町立図書館
3.町一番のパン屋
4.小麦畑
5.古ぼけた風車小屋
6.取水塔
7.郵便局
8.劇場
9.町の広場
10.新聞社
11.墓地
12.金物屋
13.病院
13の場所すべてで調査を行ったら、推理としゃれこむことになりそうだな。
1回目の調査:町の広場
66:海賊に出くわしてしまった。海賊は「隠れ家の宝を探してくれ」と頼んでくる。
なに、この……何?
まずは町の人々に聞き込みをして状況を把握するために町の広場に赴いた私たちは、子供向け映画から飛び出してきたかのようないかにも海賊らしいいでたちの海賊たちに囲まれて呆然としていた。
今はマッチョたちのポージングで威嚇しているが、武器で襲い掛かられたら大変だ。緊迫している私たちに、ひときわ豪華な身なりの海賊が話しかけてくる。
「宝を探してくれ!」
「困っているようだし、探してやるのもやぶさかでないな」
「どんな宝だ? 言ってみたまえ!」
「私たちに声を掛けたのは正解だったとも!」
マッチョたちが快く請け負っている……嘘だろ、しょっぱなから海賊の宝を探す羽目になるのか?
とにかく、Big Heartに任せてみようか。
Big Heart…7/成功。手がかりを1つ得る
「パワー!」
Big Heartがそう叫ぶと、町の広場の石畳に取り付けられていた頑丈な落とし戸がめくれるように勢いよく開かれた。地底に暗い穴が続いていて、金属製の梯子が掛かっている。
この町に住んで長いが、こんな縦穴なんて見たことがないぞ。ずいぶん長い間見つからなかった道に違いない。
「こんなところに宝物庫への道が!」
騒いでいる海賊たちを私としてはとりあえず一斉検挙したいんだが、今のところ悪いことはしていないからなあ。物見高い市民たちが集まって人垣ができているが、どうやら海賊に何かされた人はいないようだし。
困惑して立ち尽くしている私に、海賊は紙切れを押し付けてきた。
「こいつは礼だ。それじゃあな!」
Clue…56/町の劇場での集会について書かれた秘密結社のメモ
こんなもの、どこで拾ったんだろう?
私の町で何が起きているんだ?
Clue…1
2回目の調査:新聞社
41:地響きが鳴り渡り、足元が崩れ始める。
町で起きている事件を調べるために新聞社へ向かった我々は、突然起きた地震に足止めを食らった。
あちこちにたむろしている巨大ハムスターたちも困惑し、のっそりしていた雰囲気が嘘のように甲高く鳴いて走り始める。
自信は収まる気配を見せない……歩道に敷かれた石畳がぼろぼろとはるか彼方へ落ちていく。この町の下に巨大な空洞があるかのように!
「Big Thighs! 走るんだ!」
「走りますとも。もちろん、皆の希望を乗せてね!」
頼もしい言葉と共に、Big Thighsは歯を輝かせ、私たち全員を引っ掴んで走り出した。
Big Thighs…8/成功。手がかりを1つ得る
彼は我々を掴んで力強く跳躍し、そのまま新聞社のエントランスに着陸した。難を逃れたマッチョたちは悠然と並んでポージングし、互いの度胸と健闘を誉めあっている。
一連のあまりの出来事にあっけにとられた新聞社の面々を私は見回し、腰が抜けたのをごまかすようによろよろと立ち上がって、パイプをゆっくりふかした。
「失礼、みなさん。少々お聞きしたいことが……」
Clue…51/何のために作られたのか全く分からない機械の組み立て指示書
巨大ハムスター発生事件については新聞社の方でも調べているが、手掛かりがまるでつかめないらしい。ただ、時を同じくして現れた奇妙な機械の組み立て指示書は、この事件に関係しているかもしれないということだ。
調査のためにと特別に写しを貸してもらえることになった。日頃の人徳のたまものだな。
Clue…2
3回目の調査:金物屋
11:秘密の部屋を発見する。しかし、中に入るとすぐに扉がロックされてしまう。
機械のことなら……と考えた結果、われわれは金物屋に向かった。この町一番の金物屋は、豊かな品揃えが売りだ。
店主は留守のようだ……店先を控えめに覗くマッチョたちをよそに私はひょいひょいと中に入り込み、謎の機械に関連する何かが見つからないだろうかと無遠慮にあちこちを検めていた。
そして、謎の隠し扉を見つけ、当然開けて、当然入っていったわけだが……
「参ったな、開かないぞ」
私は首をかしげて、鉄の扉のドアノブをがちゃがちゃと回した。
勝手に入ったのはまずかったかもしれないが、閉じ込められてしまうのは困るな。
「Big Arms、この扉をこじ開けてくれ」
「アイアイサー!」
Big Armsの上腕に、巨大な筋肉の山が盛り上がった。
Big Arms…6/成功。手がかりを1つ得る
鉄の扉を強烈な拳が殴りつけ、吹き飛ばした。粉塵が舞う中、我々は油断なく周囲を確かめるが……鍵をかけた人物は見当たらない。
金物屋の店内に戻ってみるが、やはり誰もいないようだ……そもそも、この隠し扉はなんだったんだ?
「そこで警戒しておいてくれ。私は隠し部屋を確認してくるよ」
「心得た!」
壊れた隠し扉の横で威圧的なポージングを決めるBig Armsを背にして、私はもう一度隠し部屋に戻った。
Clue…61/奇妙な形をした、あまりにも大きすぎる帽子のコレクション
これは……何だ?
サイケデリックな色彩と歪んだようなデザイン。被ったら簡単に肩まで隠れてしまいそうなサイズ感……それでも、これは帽子に違いなかった。それも、一つじゃない。ずらりと並んでいる。
これは、誰のためのコレクションなのだろう?
Clue…3
4回目の調査:町立図書館
65:有毒ガスを警告する看板がある。というか、すでに緑色のガスが垂れこめている!
巨大ハムスター事件の謎を解く鍵は、この町そのものにあるかもしれない。そう思って図書館に向かった私たちは、物騒な看板に出迎えられる羽目になった。
「毒ガス注意だって!?」
シュー、と不穏な音が耳に届いてくる。どうやら図書館の奥から毒ガスが噴き出しているらしい。巨大ハムスターたちが逃げまどっていて、周囲はふかふかの毛皮が行きかい、パニック状態だ。
なんで。どうして。なんのために。わけがわからなかったが、私たちは図書館に行かなければならないのだ。
「Big Heart! 吹き飛ばすんだ!」
「お任せを!」
頼もしく我々の前に立ちはだかったBig Heartが、その巨大な肺から強烈な息を吐き出した。
Big Heart…11/大成功。2つの手がかりを得る
Big Heartの目覚ましい肺活量により、図書館を襲う毒ガスは晴れた。我々はハンカチを口元に当てて、毒ガスの発生源へと赴いた
Clue…66/ハムスターの毛がたくさんついた、包帯
Clue…55/ソケットから引き抜かれた巨大なワイヤーやケーブルの山
「これは……?」
包帯もハムスターの毛が大量についているのは不気味だし、図書館の敷地内に太いワイヤーの束が放り出されているのもなんだか奇妙だ。看板を立てたのは図書館の職員だったらしい……早めに周囲の避難を完了させたのは褒めるべきだろうか。
一連の毒ガス騒ぎで、ハムスターたちもバニックに陥っている。ハムスターの暴走に巻き込まれたら病院送りだぞ。行ける場所がかなり限られてしまうな。
Clue…5
5回目の調査:小麦畑
33:マッチョの一人がホットドッグのホットソースをこぼし、不必要に注目を集める
開けた場所をもとめて小麦畑に向かった私たちは、ホットドッグの屋台と行き会った。
Big Thighsがホットドッグを買い求めたそのとき、そばを駆けまわっていた巨大ハムスターが突っ込んできた。激突こそかわしたもののホットドッグは取り落されて、Big Thighsの白いシャツに真っ赤なシミが広がった。
「キャー!」
赤いソースまみれのマッチョは目立つ。すれ違った女性が悲鳴を上げた。巨大ハムスターははるか向こうのハムスターだまりに飛び込んで行って、戻ってこないようだ。
参ったな……これはBig Thighsの機転に任せるしかなさそうだ。
Big Thighs…5/成功。手がかりを1つ得る
「ご安心ください、ご婦人!」
「我々はウィローデールの町長の友人! この事態を収めるために汗をかいております!」
「困ったときはぜひご相談を!」
三人並んだマッチョが、ポージングと共に歯を光らせて朗らかに言う。ご婦人は気押されて黙り込んでしまったようだ。とりあえず落ち着いて、我々は小麦畑を探すことにした。
Clue…12/泥まみれの、サイズにして30(70cmくらい?)はある長靴
最初は農地に敷かれたシートかと思ったが、明らかに形が変だ。私は足を止めて泥の中を探り、大きな――大きすぎる長靴を引っ張り上げた。
靴……どう見ても長靴だ。だが、あまりにも大きすぎる。こんなもの、何のために作ったんだろう。そして、なぜそれを小麦畑に放置しているんだ?
Clue…6
6回目の調査:墓地
12:液体で満たされた樽がぐらぐらと揺れ、手掛かりを吐き出す
墓地には巨大な樽が置かれていた。見慣れた光景に妙なものが現れるのにもだいぶ慣れてきたが、動いているとなるとまた別の話だ。なんだあの大きな樽は。グラグラ揺れている……中で液体が揺れる音まで聞こえてくる。沸騰しているのか?
樽に空いた小さな注ぎ口から液体がばらまかれ、その液体を避けるように巨大ハムスターが逃げ回っている。墓地を騒がしくする罰当たりな樽……これはBig Armsの出番だな。
「あの樽を押さえるんだ!」
「お安い御用です!」
勇ましく飛び出したBig Armsが、樽にがっぷり四つで組み付いた。
Big arms…2/失敗。ダイスのグレードが下がる
「うわー!」
揺れる樽にしがみついたBig Armsは、樽を押さえきれず弾き飛ばされ、パニックに陥っている巨大ハムスターの波にのまれて見えなくなってしまった。さらにばらまかれた液体がしゅうしゅう煙を上げている。どうしよう、この煙は吸っていいやつか?
これはどうしようもなさそうだ。Big Armsを回収したら、すぐに墓地から撤退しよう。
Big Thighs d8
Big Arms d8
Big Heart d12
現在のそれぞれの能力は、こんな感じだ。
Clue…6
7回目の調査:取水塔
61:リスの群れがどんぐりの焼き方について白熱した議論を交わしていて、どいてくれない
……何だね? これは。
小麦畑の近くの取水塔に、巨大な長靴の主がいるかもしれない。そう思いついた私たちは水源地のそばにそびえる取水塔を目指していたのだが。
取水塔の前には巨大ハムスターはいなかったが、代わりにリスなりに立派な体格のリスたちが大きな尻尾をふりふりしながら大激論をかわしている。とてもまたいでいける雰囲気じゃない。
いや、本当に何だね?
困惑している私をよそに、Big Heartが見事なポージングを決めながらすり足でリスたちの輪の中へ入っていくのが見えた。
Big Heart…5/成功。手がかりを1つ獲得する
Big Heartはリスの群れを前にして、どんぐりの焼き方について画期的な発想を開陳した。突然乱入してきたマッチョに対して冷ややかだったリスたちも次第に真剣になり、彼の話を聞くためにいつの間にか集まって来ていた。
とりあえず、道を開けるのには成功したようだ。
我々は忍び足でリスたちの後ろを通り抜け、取水塔へと急いだ。
「こ、これは!」
そしてようやくたどり着いた取水塔を前に、私は驚愕を隠せなかった。
Clue…43/壁に不可解なメッセージが殴り書きされている
取水塔の壁一面の落書き……これは一体何なのだ?
とりあえず、写真を撮っておこう。
Clue…7
8回目の調査:劇場
56:ハムスターの着ぐるみを着た人間が、巨大ハムスターたちに何かを講義している。
なおもどんぐりの焼き方についての知識をせがんでくるリスたちをふりきってやってきたBig Heartと合流して、我々はハムスターの群れを突っ切り街中へと戻ってきていた。
気になるのは劇場だ……秘密結社がここで会合を計画しているらしいからな。これはきっと巨大ハムスター騒動に関わりがあるに違いないんだ。
「ここで何をしているのかな」
「おっと、動くんじゃないぞ!」
「むむむ、怪しいぞ」
劇場のドアを開け放ち、三匹のマッチョが思い思いのポーズを決めて牽制する。
そのホールには、想像もしていなかった光景が広がっていた。
まず、ハムスターだ。巨大ハムスターたちが広大な舞台にみっしりと集まっている。
そして、そのハムスターたちを前に立つ巨大な着ぐるみ。これもハムスターのデザインのようだが、顔のところを切り抜いて人間の顔をそのまま出しているので見間違えようがない。
「な、なんだお前らは!」
着ぐるみハムスター男が叫んで、逃げ出そうとする。
ここは逃がすわけにはいかない。私は三人の若者たちに向かって、とっておきの合言葉を叫んだ。
「Teamwork Makes the Dream Work!!!」
「「「Yes,Sir!!!」」」
ぴったりと息を合わせて、この町を守る三人の若者たちがハムスター男にとびかかっていく。
Teamwork Makes the Dream Work…2+4+10=16/大成功。2つの手がかりを得る
暴れまわるハムスターの流れを飛び越えたBig Thighsがハムスター男を追い詰め、Big Armsの力強い腕がハムスター男を取り押さえた。なおも暴れようとするハムスター男の顔面はBig Heartの広く深い胸に埋もれ、しばらくもがき続けた後におとなしくなった。
「取り押さえましたぞ!」
「お疲れ様。さて、この男は何をたくらんでいたのだろう?」
私はあらためて、周囲を見回した。
Clue1…44/奇妙なシンボルが刻まれた磁石のコレクション
Clue2…23/破れた布地だが、それを織りなす糸の一本一本が異様に巨大である
ふむ……。
「何かわかりましたかな?」
Big Armsが上腕二頭筋を見せながら聞いてくる。私は難しい顔で唸りながら、その布地をつまみ上げてルーペでよく観察した。
Clue…9
推理
私はパイプを手に町長室に立ち、大通りを埋め尽くす巨大ハムスターの群れを眺めていた。
さて、今回の巨大ハムスター出現事件……
この事件を紐解くには、我らの平和な町ウィローデールの忌まわしき過去に踏み込まなければならない。
ウィローデールを開拓したのは、伝説的な海賊「天竺鼠団」の一派だ。彼らは終わりのない死闘と無限の航路に疲れ、流れ着いた温暖な岬の地を終の棲家とした。
だが、発展したウィローデールに目を付けた邪なる存在がいた……邪教の信徒の集団、「Big Evil」である。Big Evilと天竺鼠団はウィローデールをめぐって死闘を繰り広げた。
そして、天竺鼠団は忽然として消えた……。
それ以降、歴史の影に隠れて、Big Evilはウィローデールを影から支配していたのだ。
天竺鼠団が消失したのは、Big Evilによる邪術によるものだった。Big Evilが信仰する邪神「Big Big」が存在する異空間に転送し、生贄とするためのポータル魔術……勇敢な海賊たちは、その餌食となったのだ。
しかし、おとなしく邪神の餌食にならないからこそ海賊なのだ。
海賊たちはBig Bigのどれもこれも巨大な所持品を引っ掻き回して隠れ、ちょこまかと逃げて、異空間を生き延びていた。そして、空間を超えてウィローデールに干渉できる魔法のマシンアームを探し出した海賊が、それを装着してウィローデールの取水塔に「不可解な落書き」を記した。それは、天竺鼠団の火を絶やさない残党たちへのメッセージだった。マシンアームはすぐさまBig Evilによって破壊され、「巨大なケーブルのワイヤーの山」と化してしまったが、それは数百年前に決着がついたこの争いに再び火が付くのには十分だった。
天竺鼠団の残党は世界中から海賊の残党を呼び集めた。その中には天才的なエンジニアがいた。彼は取水塔の不可解な落書きから様々な法則性を導き出し、「機械の組み立て指示書」を作り上げた。海賊たちが工具を手に汗を流してこの機械を作り上げる。それは、Big Bigと飽くなき追いかけっこを続けている天竺鼠団をこのウィローデールに呼び戻す空間結合機だったのだ。
空間が結合し、天竺鼠団が戻ってくる。海賊たちはそれを歓声を上げて迎えた。
しかし、この時イレギュラーが発生した。
海賊の一人が、自宅で飼っている「ハムスターの毛がついたままの包帯」を結合した空間に落としてしまったのだ。
空間結合は非常にデリケートで、様々なものに影響を受ける。ウィローデールに帰還した天竺鼠団は、なんと一人残らず巨大ハムスターになってしまったのだ。
驚いたのはBig Evilの面々だった。
天竺鼠団が帰還したことで、Big Bigとウィローデールの距離が近づいている。Big Bigの「帽子のコレクション」や「巨大な長靴」や「生地片(Big Bigのスカーフだ)」が次々にウィローデールに現れる。金物屋の主人はもちろんBig Evilの幹部なので、その信仰のために帽子を集めていたのだろう。きっと彼も持っていたはずだ。Big Evilのメンバーの証明である、「磁石製のエンブレム」を。
Big EvilはBig Big召喚の儀式を進行させ、ハムスターとなった天竺鼠団にてんやわんやの海賊たちはそれをなんとか阻止しようとする。味方が一人でも多く必要だったのだ。そのために、私に「Big Evilの集会について書かれた紙片」を渡したというわけだ。
推理判定…6/成功。推理は的中している
……そして。
決戦の時は来た。
ウィローデールの劇場で、海賊たちと邪教の信徒が睨み合っている。
海賊たちの後ろには巨大ハムスターたちがわらわらと群れ、困り顔の海賊にニンジンをもらっている。
邪教徒たちの後ろには、まさに異空間へのポータルが開こうとしている。
私と三人の若者たちは、そこへ堂々と割って入った。
「そこまでだ!」
私は凛々しく言った。
「幾百年の時を超えてウィローデールを蝕む邪教、今こそ成敗の時!」
Big Thighsが決断的なスクワットをしながら重々しく言った。
「我々も戦いましょう、天竺鼠団の名のもとに!」
Big Armsが鍛えられた上腕と白い歯を見せつけて高らかに言った。
「ウィローデールの明日のために!」
Big Heartが大胸筋を震わせて、頼もしく言った。
「町長!? まさかこの儀式に感づいていたというのか!?」
「ええい、こしゃくな海賊どもめ!」
「皆Big Big様の生贄に捧げるまでよ!」
口々にわめきたてる邪教徒たちを前に、海賊とマッチョは笑いをかわす。
負ける気がしない。
光の中に、我々は立っているのだから!
乱れ飛ぶハムスターの群れの中で、海賊たちはそれはもう見事な奮闘を見せた。うちのマッチョたちほどではなかったが、それにしてもだ。邪教徒たちは次々に殴り飛ばされ、ポータルの向こうに消えていった。
そして、ついに邪神を呼び出すポータルは無事に閉じていく――
「まさか町長が頼りになると思わなかったぜ。助かったが……」
朝日が昇る。海賊たちがハムスターを掻き分けて近づいてくる。我々はずらりと並んで、握手に応えた。
「ウィローデールで一番頼りになるのはこの私だ。実感してもらえたかな」
「全く、その通り」
「町長はこの町一番の切れ者」
「読書クラブも経営している!」
若者たちの言葉に私はガラにもなく照れて、帽子を目深にかぶった。海賊たちも少し和んだように笑いを交わし、落とした帽子を拾ったり服を整えたりしながら軽口をたたく。
しばらくそれを眺めて、私は言った。
「それで、このハムスターたちはいつ戻るんだね?」
「あ」
図体に似合わずかわいらしく鳴いた巨大ハムスターが、私のポケットを漁るように頭突きをしてきた。
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