ゲームについて
You’ve killed a man by wym_lawson
導入
目の前には二人の警官がいる。灰色の壁、古臭いスタンドライト。私はパイプ椅子に座って、薄笑いを浮かべて警官たちを見ている。
「青野原クレアさん。先生をやってらっしゃるそうですね」
「形式的な質問なので、お話を伺いたいと」
警官がそれぞれ、笑みもなく淡々と言う。
だが、向けられる視線は鋭く冷たい。
この尋問で犯人の首根っこを摑まえる。そう言っているようだ。
この町で見つかった死体について、警官たちは一つでも多くの情報が必要だ。
そして、私はそれを伝えるわけにはいかない。
なんせ、犯人は間違いなく私なのだから。
Time:0
Suspicion:1
ジャーナル
【wave1】
7…警官があなたに死体の写真を見せる。あなたはどう反応するだろう?
写真には首に縄を掛けられて白目をむいた、若い女の死体が写っていた。長い髪が乱れて周囲にばらまかれ、その髪に紛れて縄が地面に横たわっている。
私はその写真を眺めて、かすかに眉を寄せて見せた。
「いたましい写真ですね」
「こちら、先日見つかった遺体です。警察は殺人と見て捜査を進めています」
写真を引っ込めながら、警官はわずかに瞼を伏せる。その一瞬、私の顔を注意深くなめるように見つめていたのを私は見逃さなかった。
いきなり死体の写真を見せてくるとはね。動揺させて何か失言させようとしたのだろうが、このくらいは予想済みだ。
Time:0
Suspicion:1
【wave2】
10…被害者に恨みを抱いているほかの容疑者が見つかった。私への容疑はだいぶ弱まるようだ。
被害者の名前は赤城まりん。17歳の女性。私の教え子だ。
赤城まりんが失踪する直前に、私と一緒にいるのを見た人物がいたらしい。その人物については教えてくれそうになかったので、私はただ大人しくその内容を肯定するしかなかった。
どうやらまずいところを見られたみたいだ。どう言い訳したものか思案する。
「被害者とはその時、どんなお話を?け
「個人的な話です。私と彼女は親しかったものですから」
「なるほど」
無表情に淡々と言うが、態度だけでごまかせる範囲はもう超えている。警官の視線を感じながら、表情に緊張をにじませていないか慎重に踏みとどまって考える。
その時だった。取調室に据えられた内線電話が鳴り、警官の一人が壁に駆け寄る。
緊張したせわしない調子で、一言二言と言葉が交わされる。私は耳をそばだてることはなく、ただ手持ち無沙汰に残ったほうの警官を見ていた。
私は軽く吐息して、警官に微笑みかけた。
「大変なお仕事ですね」
「……」
警官は雑談に興じる様子はないようだ。やがて警官は戻ってきて、電話の内容が伝えられる。しばらく待つと、警官は注意深く私の顔を見た。
「……鳥飼 天(とりかい そら)さんをご存じで?」
「教え子ですね」
「ああ、はい。彼は……」
私は微笑んだ。少し恥じらうように、気の毒そうに、目を細めて優しく。
「プライベートな話ですので……詳細には話せませんが」
「被害者の恋人だった」
「彼が何か?」
「……死体発見以降、行方が知れないと」
これは私も知らなかった話だ。鳥飼くんはまりんのことが好きだったし、まりんは鳥飼くんとよく行動していた。恋人であると誤解したまま捜査が続けば、彼の怪しさはいよいよ際立つだろう。
これは、早めに帰れるかもしれない。私は憂いの顔のまま、うつむいた。
「まあ……」
笑うのは、まだ早い。
Time:0
Suspicion:1
【wave3】
10…ツイスト!
1d6…3/前のイベントは良いほうに影響する。
「鳥飼天の自宅を捜査したところ、このようなものが見つかりました」
警官はクリアファイルを私に差し出した。中に納められた写真には、どうやらノートのページや貼りけられた写真で埋まった壁が写っているようだ。
「赤城まりんさんに対してはかなり本気だったようですね、彼は」
「知らなかったわ」
私はぽつりとつぶやいた。警官の表情を見るに、かなりマズいものが見つかったのだろう。盗撮映像、狂気じみた手紙、盗んだ下着。
それだけの狂気を飼っているからこそ、まりんは彼を手近に置いていたのだから。
「歪んだ子は、います。まだ高校生でもね」
「お察しします」
静かに言う警官に、私は肩をすくめて見せた。
Time:1
Suspicion:1
【wave4】
3…二人の警官は、「良い警官と悪い警官」のアレをやりはじめる。
「いい加減にしろ!」
警官の一人が大声を張り上げた。
「さっきからのらりくらりと躱しやがって」
「まあまあ。こんな状況でスラスラ話せというほうが無理です」
もう一人の警官が愛想笑いをする。
「ねえ、青野原さん」
「……驚いた」
私はにこりともせずに言った。
「こんな古臭いこと、本当にやるんですね」
二人の警官は顔を見合わせた。
Time:1
Suspicion:1
【wave5】
4…うそ発見器の使用をどうにかして断る。
「こう長引いてしまうと、あなたとしても本意ではないでしょう。うそ発見器に掛けて一通り確認したら、今日はお帰りいただいて結構ですよ」
ふふん、なるほど、そう来たの。警官は騙せても機械は騙せないかもしれない。その手の機会の信頼性は眉唾物らしいが、それを誤魔化す方法も思いつかない。
私は眉を寄せ、髪をかき上げた。
「いい気分はしませんね」
「任意なので、無理にとは」
「やめておきましょう」
私ははっきり言いきって、目を閉じた。
「その手の機会は信じていないんです。嫌な思い出があって……」
Time:1
Suspicion:1
【wave6】
4…ツイスト!
1d6…2/前のイベントは良いほうに影響する。
「……青野原クレアさん」
警官が、つぶやくように名を呼んだ。
私は静かに視線を向けた。
「あなたのことを思い出しました。あなたは10年前……」
「ええ、事件の時はお世話になりました」
「……」
警官は目を伏せて首を振った。痛ましいものを見たような曇った表情だ。どうやら、私にひどいことをしてしまったと思っているらしい。
警官の良心に訴えかけても効果は薄いかもしれないが、私は陰鬱な眼差しのまま小さくかぶりを振った。
「ずっと前のことですから。恨んでなんかいませんよ」
「……我々は職務を果たせなかった。悔やむばかりです」
警官はそう言って黙り込んでしまった。
ついでにこの長ったらしい尋問も終わらせてはくれないかしらね。
Time:2
Suspicion:1
【wave7】
16…警官は世間話をして、私の趣味について尋ねる。
重たく押し黙った私と警官を見て、もうひとりの警官が怪訝そうな顔をする。
パイプ椅子に腰を下ろして同僚と私を見比べ、考え込むような沈黙を落とす。
「目を離した隙に、話が進んでるみたいだな」
「こっそり進めたつもりはありませんでしたよ」
「ふーん……」
警官は腕組みをして背を反らし、パイプ椅子の背中を鳴らした。
「まあ、気にしてるわけじゃないよ。世間話なら加えてほしいってだけさ」
「……過去の事件に関わっていたんです、青野原さんは」
「過去の事件……なるほどな」
その事件は二人の警官にとって特別な意味を持っていたようだ。警官は目を細めて考え込んでから、軽く嘆息した。
「そして、今回の事件ってわけか」
「どうやら、あなたたちとは縁があるみたいですね」
10年前の事件の時関わった警官の顔なんて覚えていなかったが、どうやら目の前の二人がその警官のようだ。私はにこりともせず、その運命を皮肉をあげつらった。
「まったくだな。だが、元気そうで良かったよ」
「それはどうも」
「気分転換ってやつが功を奏したかい?」
「?」
すぐには意味が分からず、首をかしげて視線をやる。警官ははにかんだように笑ってみせた。
「ほら、事件の直後に俺が教えてやっただろ。毛糸の指編みだよ」
「……ああ」
おぼろげに思い出す。大柄な警官が広い肩を丸めて私に近づき、太い指を繰って毛糸をくるくると編む光景。その時の素朴な面差しが、目の前の警官と重なった。
「あれからも続けてますよ、編み物」
「! お、そうか。へへ。なんか、嬉しいもんだな」
柄顔を見せて警官は喜色を滲ませているが、私は心を冷たく鎧ったままだ。
まりんを殺したのは私だ。どんなに厳しく追い詰められたとしても、バレるわけにはいかない。
Time:2
Suspicion:1
【wave8】
5…私が犯罪に関与していると思しき、不審な動画が見つかる。
駅の構内の監視カメラの映像が再生される。
その暗く粗い映像の中には、寄り添って立ち、歓談している二人の女がいた。
一人は私、もう一人はまりん。
二人の顔は時折意味ありげに近づいて、躱しあうような謎めいたキスをする。
「ここに映っているのは?」
警官が冷たい声で尋ねる。
「私とまりんですね」
私ももっと冷たく答える。
「私とまりんは恋人でした。聞かれれば答えていましたが、だれも聞かなかったものですから」
「しかし、あなたは教師で被害者は生徒ですよ」
「だから、秘密にしていました」
隠し事。それがどれほど私の不利に働いているのかは、まだわからない。ただ、空気がじっとりと冷たくのしかかってくる気がする。
Time:2
Suspicion:2
【wave9】
8…警官は私に同情し、私が無実だと言い出す。
「青野原さん。私は、あなたが犯人ではないと思っています」
警官の一人が突然言い出した。私は陰鬱な眼差しのままため息をついた。
「被疑者の心ならもてあそんでもいいと思うのは、あなたたちの悪い癖です」
「ええ、わかっています。あなたは10年前、我々警察によって深く傷つけられたんですからね」
いかにも私の油断を誘おうとしている様子だ。私は殊勝な警官の顔を盗み見た。
「私、早く帰りたいんです」
「できるだけそれが叶うように手配します」
ほら、肝心のことはのらりくらりとかわすつもりのようだ。私は心を閉ざすという意思表示のように、瞼を伏せて視線を遮った。
根気で本職の警官に勝ろうとしても無駄だ。なんせ、彼らはこの時間の分も給料が出るんだからね。私にできるのは、消耗をできるだけ減らすことだけ。
【wave10】
6…著名な連続殺人鬼が起こした事件である疑いが出てきた。そういうことになれば私としては都合がいい。
にわかに取調室の外が騒がしくなってきた。やがて呼び立てられた警官が険しい顔で戻ってくる。
「殺人鬼セクメト……近隣で同様の事件を起こしているみたいだ」
「なんだって、連続殺人鬼の仕業?」
警官たちがせわしなく話しているのが耳に入る。
殺人鬼セクメトの名前なら私も聞いたことがある。日本国内で数々の猟奇殺人事件を起こしているシリアルキラーだ。ちょうど折よく、この現場の周囲での活動が確認されているようだ。
なんとか、そいつのせいだってことにならないかしら。
Time:2
Suspicion:1
ジャーナルの中断
私はまだ取調室にいる。時間は遅々として進まないようだ。
だが、何をしてでも切り抜けてみせる。今はまだ、捕まるわけにはいかないんだから。
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