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これまでの記録
僕は村魔女として、最初の患者を治療した。
…銀貨 12枚
…評判ポイント 6
…評価 初心者魔女(Novice)
春/第二週
診察
…♥の9
それにしても、お師匠様はいったいどうなったのだろう?机に座ってさまざまな薬の作り方を確認しながら、僕は思考を巡らせていた。
そんな時、外から元気な「わんっ!」という吠え声が聞こえた。
立ち上がってドアを開けると、使い魔が勢いよく飛び込んでくる。
「ご主人、お客さんですよ!」
言われて視線を外へやると、この小屋に続く坂道を、一人の男性が登ってくるようだ。中年くらいの、がっしりとした体格だ。足取りも確かで、前回のように今にも倒れそうということはないようだ。
僕は椅子を用意して、患者の到来を待った。
患者の名前はルダル・ポウ。ハイラノックのパン屋らしい。
彼の手に異変があるのは、すぐに見て分かった。明らかに手のシルエットじゃない。大きく膨れ上がったごつごつしたものを、幾重にも分厚く布で巻いている。ドアを開けて待っていてくれてほっとしたよ、と、彼は苦い顔で語った。
「ドアノブにくっついちまうと、しばらく動けないからね」
布を解くと、釘やボウル、栓抜き、ハサミなどの塊が現れた。それらはどうやら、ルダルの手にがっちりとくっついているようだ。僕はハッと気付いて、彼をベッドのほうへ押しやり、僕の背後でがたがたと揺れていた魔女の大釜へ視線をやった。
「磁石、ですね」
「そう。手が磁石になっちまって、色々なものが節操なくくっついてくるのさ。仕事をするにはパン焼き窯を使わないわけにはいかないから、弱ってるんだ」
僕は弱りはてたルダルの顔をじっと見る。彼の顔色はうっすら青黒い。これは失血のせいではなく、血中の成分が異常をきたしているからだ。それによる慢性的な頭痛も彼を苦しめている。[痛み]を和らげながら、健康な[血]を作れるような薬を処方しなければならない。
働き者の手を痛めつけるような病気を放っておくわけにはいかない。僕は薬の材料について考えることにした。
患者2:ルダル・ポウ/パン屋/磁石指 – [BLOOD★] [PAIN★]
素材の検討
メルトウォーター湖には、「ミナゾコ葦」という葦が生える。名前通り水底に生え、頑丈な維管束の中に油分を湛えているためぴんと上向きに伸びていき水に浮く。この密集地帯は、遠目には水面に灌木が生えているように見える。これを干して挽くことで胃腸薬になることが知られているが、健康な血液を作るよう体に促す効果もある。毒性もないので、薬湯として使い、ゆっくり服薬を続ければほどなく正常な血に戻るはずだ。
メルトウォーター湖に行ったからには「シビレウオ」を捕まえるというのは……あまり快適な仕事じゃないが、やってみる価値があるだろう。シビレウオは濃厚な伝導液を体内に抱えていて、これを上あごから射出することで獲物への一本道が作られる。つまり、超高電圧の電撃を流すための一本道が。もしまともに食らったら、数時間は起きられない。この伝導液を採取すれば、効き目の強い痛み止めになるはずだ。
・ミナゾコ葦 メルトウォーター湖(4)
・シビレウオ メルトウォーター湖(7)
ルダルの磁石指はこれ以上進行しないようだ。あまり時間をかけるのは良くないが、焦らずにゆっくり素材を探すことはできるだろう。僕はメモをポケットに突っ込んで、アザラシの皮で作った長靴をナップサックから下げ、村魔女の小屋を飛び出した。
探索:メルトウォーター湖1
…♠の8
旅の途中で立ち寄った山小屋のおばさんから、古びた木製のおたまを貰ってきた。これでシビレウオをさっと掬うという寸法だ。うまくいくかどうかはわからないが、やつてみるしかない。
水には極力踏み込まないこと。シビレウオの伝導液が溶けている水中に踏み込んだら、シビレウオを目視するより前に一撃で昏倒、なんてこともありうるのだ。僕は水辺に食い込んでいる砂嘴の上を注意深く歩いて、水面を覗き込んだ。
シビレウオの真っ黄色な鱗が、水の底でひらひらと揺れている。僕は息をのんで、おたまを構えた――
オ、オ、オ、オ……――
恐ろしい声が響いた。強い風が水面を渡って吹き抜け、水滴をざあっと飛ばし、僕の髪をぺたりと後ろへ撫でつけた。明るい青空が灰色の雲に遮られ、さらに暗く濃い影が煙のように立ち上って鎌首をもたげた。
それは魚。それは蛇。それは竜。
僕は見上げた瞳を見開き、恐れとともにその名を呟いた。
「バス・バタだ……!」
バス・バタは平和の守護者とも言われている聖獣だ。澄んだ水辺に現れ、きらめく鱗を日差しに輝かせて空を泳ぐ。不思議な力を持つが、人に牙を向けることはない。穏やかで清らかな、善なる存在。
そのはずだが、どうも様子がおかしい。
暗い瞳がぎらぎらと光り、牙の並ぶ口元から漏れ出る息が蒸気を伴う。バス・バタは苦しむように反りかえって空を仰ぎ、低く暗い唸り声を澄み渡る氷跡湖に響き渡らせた。
恐ろしい。
僕は思った。
きっと、この湖のすべてがそう思っていた。
震えて、怯え、僕は思わず立ち上がって使い魔を抱え、逃げ出していた。
やがて元通り日差しが差し込み、聖獣の巨影は跡形もなく消えていた。
明らかに異変が起きている。いったい、バス・バタに何があったのだろう?
シビレウオを掬いながら、僕は黙然と考え込んでいた。
「ご主人、さっきだっこしてくれて嬉しかったです!」
「離れててね」
駆け寄ろうとしてくる使い魔を制しながら、僕は掬ったシビレウオを石に叩きつけて頭部をおたまで叩き潰した。これで問題なく持って帰れるはずだ。
…所持素材「シビレウオ」
…採取ポイント0
探索:メルトウォーター湖2
…♠の7
そして、僕はまた幽霊船にお邪魔していた。
「この船に来てくれる奴なんてなかなかいないからな」
気のいい冒険家の幽霊たちからとっておきのラム酒を受け取って、僕は苦笑いする。
「あんなに大声で呼ばれちゃ、無視もできないよ」
「今日はどんな話を聞いてくかい?」
別に自慢話をリクエストするつもりはないんだけど、生き生きと聞かれるとそうも言えない。僕はラム酒にはちみつをたっぷり入れてもらいながら、考え込んだ。
「島……」
「おう?」
「島くらい大きな生き物って、見たことある?」
強烈な味だ。グラスを傾けて眉を寄せている僕をよそに、船乗りたちは一気に盛り上がり始めた。
「イカした質問じゃねえか、見たことあるかって?」
「見たことはあるさ、そりゃあたっぷりな」
男たちがおとがいを放って豪快に笑う。どうやら、ただ見ただけではないようだ。
僕が耳を傾ける姿勢を見せると、特に得意げな船乗りが目の前に進み出て生き生きと語り始めた。
その得意げな船乗りは、興奮を隠せずに話し始めた。
「あれは晴れ渡った日のことだったな。水平線上に巨大な影を見つけたわけだ。最初は島かと思ったが、近づいてみたらその島が動いてたんだ!」
僕は話に引き込まれ、じっと続きを待った。
「その生き物はな、海の底から顔を出している巨大な亀だったんだ。その背中には木々が生い茂り、小さな滝すらあった。まるで別の世界のようだったよ。」
他の船乗りたちも頷きながら、話に加わってくる。
「ああ、それに乗っている間、不思議なことに風が吹かないんだ。まるで亀が自分の天気を作っているみたいにな」
「実はな、その亀の背中に小さな村があってだな……」
話がどんどん大きくなっていく。彼らの話は荒唐無稽だが、間違いなく遠い昔、この氷跡湖から離れた大洋で起きたことなのだ。広い世界では、様々なことが起こる。耳を傾けておいて損はないだろう。
…所持素材「シビレウオ」「ミナゾコ葦」
…採取ポイント0
調合
シビレウオの液嚢を搾り、発電液を小鍋に垂らす。金属部分に触れないように注意深く火の上でゆすり続けると、薄黄色の結晶が残った。これを乾燥させたミナゾコ葦の粉末と一緒に挽き合わせ、粉薬にする。
薬名:絶縁体(Insulator)
素材:シビレウオ・ミナゾコ葦
効果:異常な血液を正常に戻し、磁力を帯びた血流が全身に齎した痛みを和らげる
備考:飲むと舌がびりびりする
薬が出来上がり、僕はパン職人のルダルを呼び出した。
「これだけ飲むと、舌がびりびりするので」
僕は水と粉薬のほかに、温めた牛乳を傍に置いた。
ルダルは手の甲にくっついた釘やネジを引き剥がしながら、置かれた薬をまじまじと見ている。
「薬を飲むだけで、この厄介な病気が治るものかな」
「治りますよ」
僕はさらりとなんでもないように言って、ルダルに薬を飲むよう促した。
内心はドキドキだ。血を正常にする薬ではあるけれど、それが磁石指にまで効くなんて保証はどこにもない。ルダルが薬を飲み、口直しの牛乳を顔をしかめて飲んでいるのを眺めながら、何気なくテーブルに置かれた釘を拾い上げる。
かん、かん、からんからん……
甲高い音が響いて、床に次々に釘やハサミが落ちた。
「おお……!」
ルダルが声を漏らし、その手を見下ろす。青黒くよどんでいた逞しい手に貼りついていた金属製の小物や道具が次々に外れ、床に落ちていった。
どうやら調合は成功のようだ。
「これでこれまで通りパンが焼けるよ」
ルダルは心底嬉しそうに声を弾ませ、気持ちよく報酬を支払っていった。
…銀貨 32枚
…評判ポイント 7
…評価 初心者魔女(Novice)
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