最悪を作ろう。The Sacrifice

プレイログ

このゲームについて

The Sacrificeは、「Folk-Horror Game Jam」に出品された作品です。
主人公が閉鎖的な信仰を持つ集団に囚われ、芽生えた超常的な能力を使って脱出を試みるというストーリーになっています。特に世界観や設定には依存しておらず、既存PCを使った遊び方(既存PCの背景を作るツールとして)を想定しているようです。

プレイログ

誰でも犠牲になりうる。
あらゆる市民、冒険者、貴族であっても。
きみがかつて「何」であったかはもはや関係ない。
重要なのは、きみが「彼ら」に選ばれたということだ。
彼ら——生贄を熱心に捧げるような連中に。

 

35801c9a1337ddfe3e6e2f9225be1828

俺の名前はウィッカ・ストルナドル。どこにでもいる労働者だ。不法、はつかない……俺みたいな移民はどんな生活をしてたって結局はそれと同じだって言う奴もいるけどな。でも、違う。
自分でも短気で喧嘩っ早い自覚はある。だが、最初から手札の少ない俺に何ができる? 喧嘩に持ち込めば少しは勝てるときだってあるじゃないか?
こんなどうしようもない俺が必要だって連中がいる。もちろん、そいつらは俺以上にどうしようもない奴らだ。


……。

頭が痛い……
俺は首を振って、周囲を見た。
短期バイトのために長距離バスに揺られてはるばる訪れた、ニューイングランドの片田舎。殺風景な村だと思っていたが、ここは妙に花が咲き乱れている。
ここ、というのは、俺が縛られて転がされているこの広場の事だ。決闘場のように円が描かれていてその片方に偏る形で俺が転寝そべっている。粘着テープのようなもので手首が巻き固められていて、自力で取るのは不可能ではないにしろ時間が掛かりそうだ。

「何が起きてるんだ……?」

のっそりと起き上がった俺の前に、鎖骨くらいまで毛皮が垂れているリアルな鹿のマスクをかぶった、民族衣装の女が佇んでいた。

「うわあっ」

悲鳴を上げて後ろに転びかける。民族衣装……? ニューイングランドにそんな民族衣装があったか? 薄っぺらな観光地のような、取って付けた雰囲気が漂っている。やたらリアルな鹿のマスクさえ。
鹿のマスクの女は、頷くようにゆっくりと頭部を動かした。

生贄はなぜ必要とされているのか?…8/他人を救うために

「あなたには、儀式の人身御供を務めて頂きます」
「は……!?」
「世界には、価値のある命があります。われわれがするべきことは、価値のある命を明日につなげることです」

何を言っているんだ……人身御供? 価値のある命?

(みんな同じく価値のある命なんですよ……って話じゃなさそうだな)

俺は不吉な予感に苛立ち、怒声を張り上げた。

「ふざけんじゃねえ! 人を縛って転がして、何のつもりだ——」

鹿のマスクの女は動じる様子もない。
その手がすっと持ち上がると、道の向こうから何か重たいものを担いだ二人の男が近づいてきた。

儀式の内容は?…5/どちらかが死ぬまで1対1で戦う

運ばれてきたのは、男だった。俺と同じように後ろ手に手を拘束されている。作業着なのも俺と同じだ。割のいい短期バイトに飛びついた犠牲者なんだろう。そして、俺と同じようにここに運び込まれた。そいつが、どさりと広場に投げ出され、低く呻いた。

「儀式の執行は二人で行います。この『聖別の広場』で対峙し、どちらかが死ぬまで戦います」

花が咲き乱れる広場を取り囲むように、人影が続々と現れていた。皆動物の頭部をかたどったリアルなマスクをつけている。鹿、馬、ウサギ……草食動物ばかりだ。広場からやや遠巻きに、揺れる草花の向こうに行儀良く立って、無表情に俺ともう一人の男を見守っている。

今から殺し合いをする? 俺が、見も知らない男と。
本気なのか——?
こいつらは、そんな狂気の沙汰を、村ぐるみで……

俺は身を起こすもう一人の男を、ただ呆然と見ていた。
男も俺と同じように頭痛に困らされているようだ。重たげに頭を垂れてじっと座っていたが、やがて痛みが和らいできたのか、充血した眼をゆっくりと上げて俺を見る。

なぜ俺が選ばれたのか?…9→7,1,/誰か、または何かと血のつながりがあると考えられた&年齢

男は俺と同じくらいの歳に見えた。戸惑い座っているだけの姿にも、どこか食らいつくような好戦的な気配がまとわりついている。

「あなたたちは、狼の血を引くもの」

鹿マスクの女が厳かに告げる。

「かつて地上から洗い流された忌まわしき血の生き残り。その血がわれわれ『草食の村』に流れることによって、陰陽合致し、生命のうねりがもたらされるのです」
「わけのわからないことを……!」

歯軋りして唸ったそのとき、変化が起きた。

 

バリィッ……!

 

対面に座っていた男が、腕を拘束している粘着テープを一瞬で引き裂いて体の自由を取り戻してしまったのだ。その全身を黒い獣毛が覆い始め、肉体は分厚く膨れ上がって仰け反りながら、赤く光る眼が空を睨む。
空気をびりびりと震わせる雄たけびが響き、鼓膜が痛んだ。俺はとっさに耳を塞ごうとしたが、拘束された手ではかなわなかった。

「なっ……」

モーター音のような力強く人知を超えた唸り声が、狼男の喉奥から響いている。
ナイフのような牙が、その突き出た口にびっしりと並んでいた。

「さあ、狼になりなさい」

鹿マスクの女が告げる声と共に、狼男は爆発的に地面を蹴って俺の方へ突っ込んでくる。
悲鳴を上げて地面に転がり、俺は慌てて狼男から距離を取った。かわされた狼男はぎっ、と蹴爪で地面を抉って、鋭く俺に向き直る。

(現実なのか……これは!?)

間の抜けたことだが、まだ理解が現実に追い付いてるとは言えなかった。
赤く光る眼が光の尾を引きずる。針のような太い獣毛、酸っぱいような重たい体臭。迫ってきている。俺を殺そうとしている——!

目覚めた力…10/重力の支配。他人を地面に縛りつける力はもはやあなたに影響を及ぼさない。あなたは自由に浮遊したり飛んだりでき、「上」と「下」の位置を自由に変えることができる。この効果は他の人や物にも及ぼすことができる。

そのときだった——おれの傍らを、凄まじい勢いで浮かび上がった小石がすり抜けていった。

「な、なんだ!?」

俺は叫んだ。
動物マスクの村人たちが突然ふわりと浮き上がり、薄灰色の空に呑み込まれるかのように、かなりの勢いですっ飛んでいく。
そして、狼男も——

世界の上下が、逆転していた。
いや、これは——逆転してるのは、「重力」ってやつか?

地面に立っているのは俺だけだ。
他の奴らは皆、逆転した重力に従って、空の彼方へと落ちていく。
雲を突き抜けて落ちて行った狼男の遠吠えが遠い空から長く、長く響き続けている。それも途切れてしまうと、逆さづりの世界はただ沈黙が埋めるだけだ。

ふっ——と、何かが吹き抜けたような感覚と共に、ばらばらと小石が降ってきた。
重力の逆転現象が終わったのだ。

ひゅうぅ——うぅ——っぅ——……!

ぞっとするほど遠く鋭い風切り音が鳴り響いて、おれの周囲に「それ」が次々と着弾する。言うまでもなく、空の彼方まで舞い上がった村人たちだ。どこに誰が落ちてきたかなんてわかるはずない。赤い水を詰めた風船を叩きつけたようになって、原型なんかどこにも残らない。ばしゃばしゃと跳ねる人間の残滓を、俺は棒立ちになったままただ浴び続けるしかなかった。

これを、俺がやったのか……?

「この力は……」

まだ実感の湧かないまま、俺は自分の震える手を眺める。
目の前にひときわ重たい轟音を立てて、狼男が突き刺さるように落ち、爆ぜる。血と肉がついたぐしゃぐしゃの毛皮の切れっ端を浴びながら、俺はゆっくりと拳を固めた。
言葉では説明できない。でも、分かった。できると、俺の思考と感覚が言っている。その気になれば、同じようなことを何度でも。

「これは、俺の力だ——!」

逆さ吊りが終わった空に、俺は腹の底から叫んだ。

 

ジャーナルを終えて

「The sacrifice」はPCの背景を作るツールとしての側面が強い作品なので、ゲーム的な要素はあまりなく、4つのランダム表を振って終わりのシンプルなプレイ感覚です。
今回の主人公は「ニューイングランド超常現象研究協会(日本語版/英語版)」で壮絶に散ったPCを使用しました。もっと積極的にこのゲームで作った背景を役立てるゲームだと、CAINとかがよさそうですね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました